【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

文字の大きさ
上 下
41 / 67
第1部 第4章 最悪とハジメテ

しおりを挟む
「お前は本当にあんまり食べないんだな」

 僕の食事を見たキリアンが、言葉を漏らす。僕はあいまいに笑った。

「小食……ってわけじゃ、ないと思うんだけど」

 それに、この状況下だから食欲がないというのもある。

 本当、申し訳なくてたまらないのだ。

 ちらりとキリアンのほうを見た。キリアンは焼いたキノコをつついている。

 そして、つつかれているキノコを見て僕はハッとした。

「キリアン、そのキノコ頂戴」
「あ、あぁ」

 僕はキリアンからキノコを奪って、口の中に入れる。口の中いっぱいに広がる苦み。

 やっぱりこれ、毒キノコだ。

(見た目は普通のキノコだから、間違えちゃう人が多いんだよね……)

 このキノコを間違えて食べて、お腹を壊す人はかなり多い。

 少量のエキスだけでお腹を壊しちゃうから、口の中にちょっとした汁も残しちゃダメなんだよね。

 なんてことを考えつつ、僕はキノコを呑み込む。

「ジェリーはキノコが好きなのか?」

 キリアンが問いかけてくる。対する僕は首を横に振った。

「これね、毒キノコなの」

 当然のように言うと、キリアンが慌てた。

 そりゃあ、毒キノコを食べたって知ったら、慌てるか。

「大丈夫だよ。もったいないから食べただけだし」
「そういう問題じゃないだろ――!」

 僕の口の中に手を突っ込もうとするから、急いで「大丈夫だから!」とキリアンに伝える。

「僕、体質的に毒とか効かないの」
「――は?」
「だから、僕は毒が効かない体質なの!」

 繰り返すと、キリアンが疑うような視線を僕に向けてきた。

 けど、僕はこの身体と二十年以上付き合っている。自分の身体のことは、自分が一番よくわかっているつもりだ。

「理由はわからないけど、僕、痛んだものとかも全然平気なんだ」

 体質に気が付いたのは偶然だった。

 兄さんたちに物置に閉じ込められて。長時間だったから空腹に耐えることが出来なかった。当時の僕は仕方がなくそこにあったかびたパンを恐る恐る口にしたのだ。

(それからも毒のあるものとか、痛んだものとかを食べたのに僕は全然体調を崩さなくて――)

 兄さんたちが僕を疎むのは、きっとそういう不気味さがあるからなんだとも思う。

 僕だってもし他人が「毒が効かない体質」だってカミングアウトしたら驚く。しかも、生まれながらなんて普通の人間じゃありえない。

「だから、大丈夫なんだよ」

 笑って伝えると、キリアンはなんだか苦しそうな表情をしていた。

 しばらくして、現実に戻ってきたみたいに「かといって」と言う。

「身体がダメージを負わないわけがないだろ。今後、そういう無茶は控えろ」

 キリアンは心配そうに言う。――言って、くれた。

(今までそこまで言ってくれる人、師匠以外いなかったなぁ――)

 ほかの人たちは僕の体質を不気味がるばかりだった。師匠だけが、僕の体質を知っても普通に接してくれた。

 キリアンも、師匠と一緒なんだね。

「――ありがとう」

 口からお礼の言葉がこぼれた。キリアンは驚愕の表情を浮かべるものの、少しして僕から視線を外す。

「あぁ」

 彼が頬をぽりぽりと掻く。

「俺はジェリーが苦しむのは見たくないんだ」

 キリアンは当然だと言いたげだった。……それは僕のセリフでもあるんだけど。

「僕も、キリアンが苦しむのは見たくないよ。――だから、一緒」

 キリアンは自己犠牲の塊だ。どうしてそんなことになったのかはわからないけど、なんらかの理由はあるんだろう。

「ジェリー」
「一緒に無茶をしないように、気を付けようね」

 膝を抱きかかえて自分の気持ちを口にすると、キリアンは視線を逸らし――首を縦に振ってくれた。

 こうして、僕とキリアンの野宿の夜は更けていく。

 そして、後は眠るだけ――となったときのこと。

 僕は身体を硬くしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

オメガパンダの獣人は麒麟皇帝の運命の番

兎騎かなで
BL
 パンダ族の白露は成人を迎え、生まれ育った里を出た。白露は里で唯一のオメガだ。将来は父や母のように、のんびりとした生活を営めるアルファと結ばれたいと思っていたのに、実は白露は皇帝の番だったらしい。  美味しい笹の葉を分けあって二人で食べるような、鳥を見つけて一緒に眺めて楽しむような、そんな穏やかな時を、激務に追われる皇帝と共に過ごすことはできるのか?   さらに白露には、発情期が来たことがないという悩みもあって……理想の番関係に向かって奮闘する物語。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。

夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。 ▽…シグルト視点 ▼…ユーノ視点 キャラクター シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目 ユーノ…20代半ば 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm 頭…中年 盗賊団のトップ 188cm ゴラン…20代半ば 竜使い 172cm トルステン…30代半ば 182cm 郵便配達店店主 短髪赤毛 赤銅色の瞳

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

処理中です...