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第1部 第4章 最悪とハジメテ
⑩
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◇◇◇
「ジェリー、こんなものだろ」
キリアンが近くの川で魚を調達してきてくれた。
「あと、食べられそうな野草とか採ってきた」
ついでとばかりに出された野草は、誰もが知っている食べられる野草。
僕はぎこちない笑みを浮かべて、「ありがとう」と言う。
(巻き込んじゃったのに……)
あのワープホールをくぐった先は、空中だった。
このまま落ちちゃうと死んじゃう――と思った僕は、咄嗟に魔法を使って落下の衝撃を抑えた。
ついでに落下の方向を変え、近くにあった大きな川に落ちることに成功したのだ。
まぁ、おかげで衣服はびしょ濡れなんだけど。
川から上がった僕とキリアンが辺りを見渡したところ、ここは森の中のようで。
移動しようとしたけど、雨がぽつりぽつりと降り出したこと。日が落ちて来たことから、今日はここで野宿をすることに。
幸いにも近くに小さな洞窟があったので、僕たちはそこで一夜を明かすことにした。
「食料とか、少しくらい俺たちも持っておくべきだったな」
キリアンが調達した魚や野草を眺めつつ、ぼやいた。僕はうなずくことしか出来ない。
食料はエカードさんが全部持ってくれていた。そのせいで、僕たちは今、食べるものにも困っていて。結果、川魚でも採ってこようという話になったというわけ。
キリアンが食料を調達してくれている間、僕はびしょ濡れになった衣服を乾かす係をしていた。
魔法使いだから、食料調達の役には立たなかったというのもある。
「とりあえず、火を通すね」
僕は火の魔法を使って、川魚に軽く火を通した。
野草は生で食べられるものはそのまま。キノコや生で食べられない野草は火を通すことに。
一通り火が通ったのを確認していると、キリアンが乾かしていた衣服を身にまとった。そう、この人、先ほどまで上半身裸だったのだ。おかげで僕はすごく目のやり場に困っていた。
未だに落ち込んでいる僕を見て、キリアンが「食べるか」と声をかけてくれる。僕はなにも言わずにうなずいた。
火を通した川魚は全部で四匹。キリアンは二匹ずつ食べることを想定しているんだろうな。
「……あのね。一応寝床は整えたから」
視線を洞窟の端っこに向けて、僕は言う。
寝床と言っても、近くにあった葉っぱとか、たまたま持っていたタオルとかを組み合わせた簡易のものだ。
作った理由は衣服を乾かしているだけだと、暇だったというのもある。
「そうか、ありがと」
キリアンは嫌味なく言って、川魚をかじる。僕は膝を抱えて、川魚を少しだけかじった。
「その、ごめんね……」
ようやく、言わなくちゃいけないことを口にできた。
「は?」
キリアンが怪訝そうに声を上げる。僕はさらに身を縮める。
「僕に巻き込んだみたいに、なっちゃったでしょ?」
目もぎゅっとつむって、続ける。
あれだと、どう考えても狙われたのは僕だった。なのに、キリアンまで巻き込まれちゃって――。
「ずっと、申し訳ないなって、思ってたんだ」
衣服を乾かしている間も、寝床を整えている間も。僕はずっとずっと申し訳なく思っていた。消えたくてたまらなかった。
僕だけが転移すればよかったのに――って。
「あぁ、そのことか」
僕の言葉を聞いたキリアンが声を上げる。彼は川魚を一匹食べ終えると、僕のほうに寄ってくる。
そして、僕の身体に自身の身体を寄せた。
「別に気にしていない。――というか、俺が好きでしたことだろ」
「……でも」
「でもとか言うな」
キリアンが僕の口に野草を押し込んだ。僕が驚いていると、キリアンは笑った。
まるで悪戯が成功した子供のような、無邪気な笑みだ。
「とりあえず、食え。食ったら、些細なことなんてどうでもよくなるだろ」
――これは絶対に、些細なことなんかじゃない。
僕は言おうとしたけど、キリアンが気を遣ってくれているのはよくわかったから。
うなずいて、僕はもう一口川魚をかじった。味付けなんてしていないのに、案外美味しいなって思った。
「ジェリー、こんなものだろ」
キリアンが近くの川で魚を調達してきてくれた。
「あと、食べられそうな野草とか採ってきた」
ついでとばかりに出された野草は、誰もが知っている食べられる野草。
僕はぎこちない笑みを浮かべて、「ありがとう」と言う。
(巻き込んじゃったのに……)
あのワープホールをくぐった先は、空中だった。
このまま落ちちゃうと死んじゃう――と思った僕は、咄嗟に魔法を使って落下の衝撃を抑えた。
ついでに落下の方向を変え、近くにあった大きな川に落ちることに成功したのだ。
まぁ、おかげで衣服はびしょ濡れなんだけど。
川から上がった僕とキリアンが辺りを見渡したところ、ここは森の中のようで。
移動しようとしたけど、雨がぽつりぽつりと降り出したこと。日が落ちて来たことから、今日はここで野宿をすることに。
幸いにも近くに小さな洞窟があったので、僕たちはそこで一夜を明かすことにした。
「食料とか、少しくらい俺たちも持っておくべきだったな」
キリアンが調達した魚や野草を眺めつつ、ぼやいた。僕はうなずくことしか出来ない。
食料はエカードさんが全部持ってくれていた。そのせいで、僕たちは今、食べるものにも困っていて。結果、川魚でも採ってこようという話になったというわけ。
キリアンが食料を調達してくれている間、僕はびしょ濡れになった衣服を乾かす係をしていた。
魔法使いだから、食料調達の役には立たなかったというのもある。
「とりあえず、火を通すね」
僕は火の魔法を使って、川魚に軽く火を通した。
野草は生で食べられるものはそのまま。キノコや生で食べられない野草は火を通すことに。
一通り火が通ったのを確認していると、キリアンが乾かしていた衣服を身にまとった。そう、この人、先ほどまで上半身裸だったのだ。おかげで僕はすごく目のやり場に困っていた。
未だに落ち込んでいる僕を見て、キリアンが「食べるか」と声をかけてくれる。僕はなにも言わずにうなずいた。
火を通した川魚は全部で四匹。キリアンは二匹ずつ食べることを想定しているんだろうな。
「……あのね。一応寝床は整えたから」
視線を洞窟の端っこに向けて、僕は言う。
寝床と言っても、近くにあった葉っぱとか、たまたま持っていたタオルとかを組み合わせた簡易のものだ。
作った理由は衣服を乾かしているだけだと、暇だったというのもある。
「そうか、ありがと」
キリアンは嫌味なく言って、川魚をかじる。僕は膝を抱えて、川魚を少しだけかじった。
「その、ごめんね……」
ようやく、言わなくちゃいけないことを口にできた。
「は?」
キリアンが怪訝そうに声を上げる。僕はさらに身を縮める。
「僕に巻き込んだみたいに、なっちゃったでしょ?」
目もぎゅっとつむって、続ける。
あれだと、どう考えても狙われたのは僕だった。なのに、キリアンまで巻き込まれちゃって――。
「ずっと、申し訳ないなって、思ってたんだ」
衣服を乾かしている間も、寝床を整えている間も。僕はずっとずっと申し訳なく思っていた。消えたくてたまらなかった。
僕だけが転移すればよかったのに――って。
「あぁ、そのことか」
僕の言葉を聞いたキリアンが声を上げる。彼は川魚を一匹食べ終えると、僕のほうに寄ってくる。
そして、僕の身体に自身の身体を寄せた。
「別に気にしていない。――というか、俺が好きでしたことだろ」
「……でも」
「でもとか言うな」
キリアンが僕の口に野草を押し込んだ。僕が驚いていると、キリアンは笑った。
まるで悪戯が成功した子供のような、無邪気な笑みだ。
「とりあえず、食え。食ったら、些細なことなんてどうでもよくなるだろ」
――これは絶対に、些細なことなんかじゃない。
僕は言おうとしたけど、キリアンが気を遣ってくれているのはよくわかったから。
うなずいて、僕はもう一口川魚をかじった。味付けなんてしていないのに、案外美味しいなって思った。
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