【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第4章 最悪とハジメテ

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「ジェリー!」

 突然崩れ落ちた僕を見て、キリアンが慌てた様子を見せる。

 僕は彼にぎこちない笑みを向けた。「大丈夫」と伝えたつもりだった。

「――ジェリー」

 キリアンの目は、まるで痛ましいものを見るような目だ。

 そんな目で見ないで――と、言う元気もない。

「キリアン、大丈夫だから」

 僕の呼吸は荒くて、大丈夫なんて言っても説得力なんてちっともない。

 ただ、どうしても。心配だけはかけたくなかった。

「――大丈夫じゃ、ないだろ」

 キリアンが言う。でも、僕は素直になることも出来ない。

「大丈夫だよ。少し動悸がひどいだけ」

 心臓の部分を衣服の上から押さえて、なんとか気持ちを落ち着けようとする。

 大丈夫、大丈夫――自分に必死に言い聞かせていると、ふわりとなにかを頭にかけられたのがわかった。

「――キリアン?」

 それは、キリアンが普段羽織っている上着だった。

 なんだろう、落ち着く。温かいのは、先ほどまでキリアンが身につけていたからなんだろうか。

「こっちのほうが、落ち着けるだろ」

 彼は僕の身体を抱きしめる。

 まるで壊れ物でも扱うかのように、ふわっと抱きしめられて。僕は――嬉しかった。

(こんなの、恥ずかしいのに)

 エカードさんも、シデリス殿下もこの光景を見ているのだ。

 だから、恥ずかしいはずなのに。それなのに。

(怖くない。嫌だとも思わない。……僕は、キリアンの腕の中で安心してるんだ)

 こんなにも人の腕の中で安心できたのは、生まれて初めてかもしれない。

 師匠にも何度か抱きしめられたけど、ここまでの安心感はなかった。

 キリアンにはなんだか不思議な力があるみたいだ。

「ジェリー、俺は別に、お前の過去なんて気にしない」

 僕の背中を撫でながら、キリアンが言葉をつむいでいく。

「気になるのは間違いない。けど、お前が嫌なら深入りはしない」
「……うん」
「それに、たとえ誰がなんと言おうと。ジェリーは俺にとって大切なんだ」

 胸にじぃんと染み渡るような言葉。

「たとえ誰が嫌おうとも、お前の存在がなんであろうと。過去がどうであろうと。俺は、ずっとジェリーを大切にする」

 それだとまるで、一生の誓い――プロポーズみたいだ。

 そう思ってしまって、僕は顔を上げて、キリアンを見つめる。ぎこちなく笑えば、キリアンが驚いたようだ。

「それじゃあ、プロポーズみたいだよ。僕、本気にしちゃう――かも」

 はにかみながら言うと、キリアンは口元を緩める。そして、僕の長い前髪を掻き上げて、露わになった額にキスを落とした。

「本気に受け取ってくれて構わない。俺はジェリーを大切にする」
「キリアンって、真顔で冗談を言うんだね」

 本当はわかっていた。キリアンが本気で言ってくれているって。冗談で言っているわけではないんだって。

 けど、今は冗談にしておきたい。そっちのほうが、楽なんだ。僕の中にある変化も、うやむやに出来る。

「――そうだな。お前が笑ってくれるならば、どんな冗談でも言ってやる」

 キリアンが僕の頬に指を押し付けて、囁く。

 空気が一段と甘くなったような気がして、胸焼けがしてしまいそうだ。

(なのに、それさえも心地いいなんて――)

 僕は自分自身の心の変化に、戸惑う。が、それを押し殺して僕はキリアンを見て笑う。

「――嬉しいかも」

 消え入りそうなほどに小さな声で言うと、キリアンは嬉しそうな表情を浮かべた。

 僕にぐっと自身の顔を近づけてきて、彼の唇が僕の唇に重なろうとしたときだった。

「――えっ?」

 どうしてか、僕の足元の地面が――なくなった。

(違う、これはワープホール――!)

 僕の身体は突然現れた暗闇に吸い込まれていく。

 目の前に驚いたようなキリアンの顔。エカードさんとシデリス殿下の驚愕に満ちた表情。

(――どうしてっ!)

 僕の身体が暗闇に吸い込まれて、落ちていく。僕の手が空を切って、どんどん呑み込まれていく。

「――ジェリー!」

 僕の手をつかんだのはキリアンだった。

「おい!」

 遠のいていくエカードさんの叫び声。僕は目をぎゅっとつむった。

 そして、僕とキリアンは暗闇の中に吸い込まれていった。
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