36 / 66
第1部 第4章 最悪とハジメテ
⑥
しおりを挟む
一瞬現実逃避しそうになっても、僕は割とすぐに現実に戻ってきた。
さすがにこれは、ダメなんじゃないだろうか。
(だって、王子殿下をたたくなんて――!)
親しき中にも礼儀ありなのに……。
焦る僕だけど、シデリス殿下は気にする様子もなかった。それどころか、馴れ馴れしく僕の肩を抱く。
「男の嫉妬は醜いぞ。束縛するのはいい加減にしたほうがいいと思うがな」
シデリス殿下の表情を一瞥する。彼はこれでもかというほどに悪い顔をしていた。
――というか、男の嫉妬って醜いんだ。
彼の言葉が僕にもグサッときているんだけど。
「あぁ、そうだな。だがジェリーは、俺にとって保護者なんだ。その保護者が余計な輩にちょっかいを出されているのに、黙って見過ごすことは出来ないな」
キリアンが僕の身体を自身のほうに引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
――え、というか、なにこの状況!
「ふぅん、そうなのか。――かといって、ジェリーがどう思っているかはわからないがな」
「ジェリーは俺の保護者になることを、同意してくれているが?」
同意なんて、したっけ……?
(いやいやいや、してない気がするんだけど!)
頬を引きつらせる僕。僕を挟んで口論をするキリアンとシデリス殿下。
なんだろうか、この空間は。僕はどういう反応をするのが正解なんだろうか。
目をぐるぐると回す僕の耳に届いたのは、鶴の一声とばかりのエカードさんの「いい加減にしてくれ!」という声だった。
「大体、俺たちは魔物退治に行くんだろ。そんな泥沼三角関係みたいなこと、やめてくれ……」
エカードさんが頭を抱えてしまっている。
絶対に、疲れている。僕も正直、疲れているんだけど。
(感謝しなくちゃ)
今、エカードさんが口を挟んでくれたおかげで、口論が止んでいる。もう、彼が神さまにも見える。
「しかし」
「ほかでもないジェリーが困ってるだろ。本人を困らせたら、本末転倒だ」
全員の視線が僕に集まった。僕は控えめにうなずく。
エカードさんの言葉に、全面的に同意する意思を示した。
「あぁ、キリアンが嫉妬深いから、怒られてしまったではないか」
「シデリスが余計なことをしなかったら、怒られる必要はなかったんだが」
またバチバチと火花を散らす二人。僕はキリアンの腕の中に閉じ込められたまま、空をそっと見上げた。
(あぁ、いい天気だなぁ……)
完全に逃げている。そして、物理的にもこの空間から逃げ出したいな。――当事者なんだけど。
「はぁ、もうこの男の相手は疲れたな。とにかく、僕がどうしてキミたちに同行することになったのかでも話そうか」
しばらくしてやっと口論が終わって、話題は元に戻った。
多分、僕が余計なことを言っちゃったから、話しがよそに逸れちゃったんだよね。悪いことをしたなぁって反省。
「別にジェリーは悪くない。悪いのはあの男だ」
「はははっ……親しき中にも礼儀ありなんだよ」
キリアンの言葉に僕は返事をして、シデリス殿下を見つめる。
彼はにんまりと笑っていた。美しい人って、悪い表情もとっても似合うんだなぁって感心する。
「実は今回の魔物退治について、僕たち王族は全面的に支持をしているわけではないんだ」
――あっさりと明かされた真実に、僕はぽかんとしてしまう。え、どういうこと、なんだろうか。
「今回の魔物の活性化等には、おかしな点がいくつかある。まるで、そう。人為的に起こされたかのような」
「――人為的」
「この旅にはそのことを確かめるという意味もあってね」
シデリス殿下はあっさりと言うけど、だったら僕たちにも初めから教えてくれてもよかったんじゃないだろうか。
――と、思ったけど。
敵を騙すにはまず味方からという言葉があるように。味方を欺くのも必要だったのかもしれない。そうだ、そうに決まっている。
さすがにこれは、ダメなんじゃないだろうか。
(だって、王子殿下をたたくなんて――!)
親しき中にも礼儀ありなのに……。
焦る僕だけど、シデリス殿下は気にする様子もなかった。それどころか、馴れ馴れしく僕の肩を抱く。
「男の嫉妬は醜いぞ。束縛するのはいい加減にしたほうがいいと思うがな」
シデリス殿下の表情を一瞥する。彼はこれでもかというほどに悪い顔をしていた。
――というか、男の嫉妬って醜いんだ。
彼の言葉が僕にもグサッときているんだけど。
「あぁ、そうだな。だがジェリーは、俺にとって保護者なんだ。その保護者が余計な輩にちょっかいを出されているのに、黙って見過ごすことは出来ないな」
キリアンが僕の身体を自身のほうに引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
――え、というか、なにこの状況!
「ふぅん、そうなのか。――かといって、ジェリーがどう思っているかはわからないがな」
「ジェリーは俺の保護者になることを、同意してくれているが?」
同意なんて、したっけ……?
(いやいやいや、してない気がするんだけど!)
頬を引きつらせる僕。僕を挟んで口論をするキリアンとシデリス殿下。
なんだろうか、この空間は。僕はどういう反応をするのが正解なんだろうか。
目をぐるぐると回す僕の耳に届いたのは、鶴の一声とばかりのエカードさんの「いい加減にしてくれ!」という声だった。
「大体、俺たちは魔物退治に行くんだろ。そんな泥沼三角関係みたいなこと、やめてくれ……」
エカードさんが頭を抱えてしまっている。
絶対に、疲れている。僕も正直、疲れているんだけど。
(感謝しなくちゃ)
今、エカードさんが口を挟んでくれたおかげで、口論が止んでいる。もう、彼が神さまにも見える。
「しかし」
「ほかでもないジェリーが困ってるだろ。本人を困らせたら、本末転倒だ」
全員の視線が僕に集まった。僕は控えめにうなずく。
エカードさんの言葉に、全面的に同意する意思を示した。
「あぁ、キリアンが嫉妬深いから、怒られてしまったではないか」
「シデリスが余計なことをしなかったら、怒られる必要はなかったんだが」
またバチバチと火花を散らす二人。僕はキリアンの腕の中に閉じ込められたまま、空をそっと見上げた。
(あぁ、いい天気だなぁ……)
完全に逃げている。そして、物理的にもこの空間から逃げ出したいな。――当事者なんだけど。
「はぁ、もうこの男の相手は疲れたな。とにかく、僕がどうしてキミたちに同行することになったのかでも話そうか」
しばらくしてやっと口論が終わって、話題は元に戻った。
多分、僕が余計なことを言っちゃったから、話しがよそに逸れちゃったんだよね。悪いことをしたなぁって反省。
「別にジェリーは悪くない。悪いのはあの男だ」
「はははっ……親しき中にも礼儀ありなんだよ」
キリアンの言葉に僕は返事をして、シデリス殿下を見つめる。
彼はにんまりと笑っていた。美しい人って、悪い表情もとっても似合うんだなぁって感心する。
「実は今回の魔物退治について、僕たち王族は全面的に支持をしているわけではないんだ」
――あっさりと明かされた真実に、僕はぽかんとしてしまう。え、どういうこと、なんだろうか。
「今回の魔物の活性化等には、おかしな点がいくつかある。まるで、そう。人為的に起こされたかのような」
「――人為的」
「この旅にはそのことを確かめるという意味もあってね」
シデリス殿下はあっさりと言うけど、だったら僕たちにも初めから教えてくれてもよかったんじゃないだろうか。
――と、思ったけど。
敵を騙すにはまず味方からという言葉があるように。味方を欺くのも必要だったのかもしれない。そうだ、そうに決まっている。
111
お気に入りに追加
833
あなたにおすすめの小説
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
地味顔陰キャな俺。異世界で公爵サマに拾われ、でろでろに甘やかされる
冷凍湖
BL
人生だめだめな陰キャくんがありがちな展開で異世界にトリップしてしまい、公爵サマに拾われてめちゃくちゃ甘やかされるウルトラハッピーエンド
アルファポリスさんに登録させてもらって、異世界がめっちゃ流行ってることを知り、びっくりしつつも書きたくなったので、勢いのまま書いてみることにしました。
他の話と違って書き溜めてないので更新頻度が自分でも読めませんが、とにかくハッピーエンドになります。します!
6/3
ふわっふわな話の流れしか考えずに書き始めたので、サイレント修正する場合があります。
公爵サマ要素全然出てこなくて自分でも、んん?って感じです(笑)。でもちゃんと公爵ですので、公爵っぽさが出てくるまでは、「あー、公爵なんだなあー」と広い心で見ていただけると嬉しいです、すみません……!
「ねぇ、俺以外に触れられないように閉じ込めるしかないよね」最強不良美男子に平凡な僕が執着されてラブラブになる話
ちゃこ
BL
見た目も頭も平凡な男子高校生 佐藤夏樹。
運動神経は平凡以下。
考えていることが口に先に出ちゃったり、ぼうっとしてたりと天然な性格。
ひょんなことから、学校一、他校からも恐れられている不良でスパダリの美少年 御堂蓮と出会い、
なぜか気に入られ、なぜか執着され、あれよあれよのうちに両思い・・・
ヤンデレ攻めですが、受けは天然でヤンデレをするっと受け入れ、むしろラブラブモードで振り回します♡
超絶美形不良スパダリ✖️少し天然平凡男子
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる