36 / 67
第1部 第4章 最悪とハジメテ
⑥
しおりを挟む
一瞬現実逃避しそうになっても、僕は割とすぐに現実に戻ってきた。
さすがにこれは、ダメなんじゃないだろうか。
(だって、王子殿下をたたくなんて――!)
親しき中にも礼儀ありなのに……。
焦る僕だけど、シデリス殿下は気にする様子もなかった。それどころか、馴れ馴れしく僕の肩を抱く。
「男の嫉妬は醜いぞ。束縛するのはいい加減にしたほうがいいと思うがな」
シデリス殿下の表情を一瞥する。彼はこれでもかというほどに悪い顔をしていた。
――というか、男の嫉妬って醜いんだ。
彼の言葉が僕にもグサッときているんだけど。
「あぁ、そうだな。だがジェリーは、俺にとって保護者なんだ。その保護者が余計な輩にちょっかいを出されているのに、黙って見過ごすことは出来ないな」
キリアンが僕の身体を自身のほうに引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
――え、というか、なにこの状況!
「ふぅん、そうなのか。――かといって、ジェリーがどう思っているかはわからないがな」
「ジェリーは俺の保護者になることを、同意してくれているが?」
同意なんて、したっけ……?
(いやいやいや、してない気がするんだけど!)
頬を引きつらせる僕。僕を挟んで口論をするキリアンとシデリス殿下。
なんだろうか、この空間は。僕はどういう反応をするのが正解なんだろうか。
目をぐるぐると回す僕の耳に届いたのは、鶴の一声とばかりのエカードさんの「いい加減にしてくれ!」という声だった。
「大体、俺たちは魔物退治に行くんだろ。そんな泥沼三角関係みたいなこと、やめてくれ……」
エカードさんが頭を抱えてしまっている。
絶対に、疲れている。僕も正直、疲れているんだけど。
(感謝しなくちゃ)
今、エカードさんが口を挟んでくれたおかげで、口論が止んでいる。もう、彼が神さまにも見える。
「しかし」
「ほかでもないジェリーが困ってるだろ。本人を困らせたら、本末転倒だ」
全員の視線が僕に集まった。僕は控えめにうなずく。
エカードさんの言葉に、全面的に同意する意思を示した。
「あぁ、キリアンが嫉妬深いから、怒られてしまったではないか」
「シデリスが余計なことをしなかったら、怒られる必要はなかったんだが」
またバチバチと火花を散らす二人。僕はキリアンの腕の中に閉じ込められたまま、空をそっと見上げた。
(あぁ、いい天気だなぁ……)
完全に逃げている。そして、物理的にもこの空間から逃げ出したいな。――当事者なんだけど。
「はぁ、もうこの男の相手は疲れたな。とにかく、僕がどうしてキミたちに同行することになったのかでも話そうか」
しばらくしてやっと口論が終わって、話題は元に戻った。
多分、僕が余計なことを言っちゃったから、話しがよそに逸れちゃったんだよね。悪いことをしたなぁって反省。
「別にジェリーは悪くない。悪いのはあの男だ」
「はははっ……親しき中にも礼儀ありなんだよ」
キリアンの言葉に僕は返事をして、シデリス殿下を見つめる。
彼はにんまりと笑っていた。美しい人って、悪い表情もとっても似合うんだなぁって感心する。
「実は今回の魔物退治について、僕たち王族は全面的に支持をしているわけではないんだ」
――あっさりと明かされた真実に、僕はぽかんとしてしまう。え、どういうこと、なんだろうか。
「今回の魔物の活性化等には、おかしな点がいくつかある。まるで、そう。人為的に起こされたかのような」
「――人為的」
「この旅にはそのことを確かめるという意味もあってね」
シデリス殿下はあっさりと言うけど、だったら僕たちにも初めから教えてくれてもよかったんじゃないだろうか。
――と、思ったけど。
敵を騙すにはまず味方からという言葉があるように。味方を欺くのも必要だったのかもしれない。そうだ、そうに決まっている。
さすがにこれは、ダメなんじゃないだろうか。
(だって、王子殿下をたたくなんて――!)
親しき中にも礼儀ありなのに……。
焦る僕だけど、シデリス殿下は気にする様子もなかった。それどころか、馴れ馴れしく僕の肩を抱く。
「男の嫉妬は醜いぞ。束縛するのはいい加減にしたほうがいいと思うがな」
シデリス殿下の表情を一瞥する。彼はこれでもかというほどに悪い顔をしていた。
――というか、男の嫉妬って醜いんだ。
彼の言葉が僕にもグサッときているんだけど。
「あぁ、そうだな。だがジェリーは、俺にとって保護者なんだ。その保護者が余計な輩にちょっかいを出されているのに、黙って見過ごすことは出来ないな」
キリアンが僕の身体を自身のほうに引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
――え、というか、なにこの状況!
「ふぅん、そうなのか。――かといって、ジェリーがどう思っているかはわからないがな」
「ジェリーは俺の保護者になることを、同意してくれているが?」
同意なんて、したっけ……?
(いやいやいや、してない気がするんだけど!)
頬を引きつらせる僕。僕を挟んで口論をするキリアンとシデリス殿下。
なんだろうか、この空間は。僕はどういう反応をするのが正解なんだろうか。
目をぐるぐると回す僕の耳に届いたのは、鶴の一声とばかりのエカードさんの「いい加減にしてくれ!」という声だった。
「大体、俺たちは魔物退治に行くんだろ。そんな泥沼三角関係みたいなこと、やめてくれ……」
エカードさんが頭を抱えてしまっている。
絶対に、疲れている。僕も正直、疲れているんだけど。
(感謝しなくちゃ)
今、エカードさんが口を挟んでくれたおかげで、口論が止んでいる。もう、彼が神さまにも見える。
「しかし」
「ほかでもないジェリーが困ってるだろ。本人を困らせたら、本末転倒だ」
全員の視線が僕に集まった。僕は控えめにうなずく。
エカードさんの言葉に、全面的に同意する意思を示した。
「あぁ、キリアンが嫉妬深いから、怒られてしまったではないか」
「シデリスが余計なことをしなかったら、怒られる必要はなかったんだが」
またバチバチと火花を散らす二人。僕はキリアンの腕の中に閉じ込められたまま、空をそっと見上げた。
(あぁ、いい天気だなぁ……)
完全に逃げている。そして、物理的にもこの空間から逃げ出したいな。――当事者なんだけど。
「はぁ、もうこの男の相手は疲れたな。とにかく、僕がどうしてキミたちに同行することになったのかでも話そうか」
しばらくしてやっと口論が終わって、話題は元に戻った。
多分、僕が余計なことを言っちゃったから、話しがよそに逸れちゃったんだよね。悪いことをしたなぁって反省。
「別にジェリーは悪くない。悪いのはあの男だ」
「はははっ……親しき中にも礼儀ありなんだよ」
キリアンの言葉に僕は返事をして、シデリス殿下を見つめる。
彼はにんまりと笑っていた。美しい人って、悪い表情もとっても似合うんだなぁって感心する。
「実は今回の魔物退治について、僕たち王族は全面的に支持をしているわけではないんだ」
――あっさりと明かされた真実に、僕はぽかんとしてしまう。え、どういうこと、なんだろうか。
「今回の魔物の活性化等には、おかしな点がいくつかある。まるで、そう。人為的に起こされたかのような」
「――人為的」
「この旅にはそのことを確かめるという意味もあってね」
シデリス殿下はあっさりと言うけど、だったら僕たちにも初めから教えてくれてもよかったんじゃないだろうか。
――と、思ったけど。
敵を騙すにはまず味方からという言葉があるように。味方を欺くのも必要だったのかもしれない。そうだ、そうに決まっている。
116
お気に入りに追加
838
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
発情薬
寺蔵
BL
【完結!漫画もUPしてます】攻めの匂いをかぐだけで発情して動けなくなってしまう受けの話です。
製薬会社で開発された、通称『発情薬』。
業務として治験に選ばれ、投薬を受けた新人社員が、先輩の匂いをかぐだけで発情して動けなくなったりします。
社会人。腹黒30歳×寂しがりわんこ系23歳。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・話の流れが遅い
・作者が話の進行悩み過ぎてる
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる