【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第4章 最悪とハジメテ

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「――と、いうわけで。僕の役割はわかってもらえただろう。そして、僕は今からしばらくキリアンたちと行動を共にする」

 シデリス殿下は表情を崩さずに、はっきりと言いきった。

 ――共に行動。それって伝達係の意味はなくないだろうか?

「伝達係とはいっても、僕がするのは父上からの伝言が主だ。クレメンスのやつは、僕が間に入った以上慎重になるはずだからね」

 僕に向かってウィンクを飛ばすシデリス殿下。それはきっと、「いいよね?」という意味なんだろう。

 僕のような存在が断れるわけがないというのに。

「ぼ、僕的には――その」

 正直、シデリス殿下と行動を共にするなんて、恐れ多くて気絶しそうだ。

 あと、純粋にかなり緊張してしまいそうだった。僕の心臓が今でさえバクバクとしているのだから。

 エカードさんに助けを求めるように彼にもう一度視線を向けると、彼はいかにも「お手上げだ」とばかりに両手を挙げていた。

 全然役に立ってくれない。

(っていうか、こういう場を取り仕切るのはキリアンの役目――)

 僕とエカードさんはあくまでもお供だ。仕切るのはキリアンの役目だと思う。

 だから、キリアンがどういう風に出るのか。それが大事なんだけど……。

「別にいいぞ」

 彼は悩む間もなく、シデリス殿下の無茶ぶりを受け入れた。

「ふぅん、キミにしては珍しい」
「お前はいつだって駄々をこねるからな。面倒なことは避けたい。それに、お前は戦えるだろ」
「まぁね」

 自信満々とばかりににんまりと笑うシデリス殿下。

「ご存じの通り、僕の母上は騎士の家系の出身でね。子供のころから鍛え上げられてきたさ」
「というわけだ。お荷物になる可能性は低いだろ」

 キリアンの言葉の節々には、確かな信頼がこもっている。

 キリアンはシデリス殿下をなんだかんだ言いつつも信頼している。昨夜も思ったけど、その信頼に間違いはない。口では散々なことを言っているけどさ。

「俺はキリアンが許可を出すならば全然いいぞ」

 エカードさんがキリアンを一瞥して、言い切った。

 残るのは僕の意見――なんだけど。

「僕は全部任せる――よ」

 僕の意思なんてあってないようなものだろう。

 それがよくわかるから、僕は首を縦に振って答える。

「じゃあ、そういうことで僕も同行しよう。お荷物にもお邪魔にもならないように気を付けるから、安心してくれたまえ」
「お前の存在自体が鬱陶しいけどな」
「まったく、キリアンは素直じゃない。さっきは僕の言葉を受け入れてくれたというのに」
「お前が鬱陶しいからだろ。面倒ごとは避けたいと言ったはずだ。――ジェリーとの間を邪魔したら、許さない」

 側で繰り広げられていく、幼馴染二人の軽口。

 僕は彼らの言葉を聞くたびに、心がきゅうっと締め付けられるような感覚に襲われていた。

(どうして、こう思うんだろ……)

 これは王子殿下が同行することに対する不安? 不満?

 いや、ちょっと違う。たとえシデリス殿下が王族ではなかったとしても。

 ――キリアンと親しくしているのに、モヤモヤとしてしまうだろう。

 僕にはキリアンしか友人がいないのに。一番の友人を横から掻っ攫われたみたいだ。

 今僕が抱いている気持ちは、それで説明がつくような気がした。

(心の狭い男になっちゃダメだ。僕だって交友関係を広げればいい)

 ほかにも友人が出来たら、僕のキリアンに対する依存心にも似た感情を昇華できるはず。

 このときの僕は間違いなくそう思っていた。

 ――キリアンの本当の気持ちなんて、少しも知らずに。
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