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第1部 第4章 最悪とハジメテ

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 翌朝。僕が目を覚ますと、すぐそばにとても整った顔の人物が寝ていた。

 閉じられた目。セットの乱れた髪。なんだろう、イケメンってどんな状態でもイケメンなんだなぁって。

(というか、僕はどうしてキリアンと……)

 一瞬動揺したけど、僕は昨夜のことを思い出す。

 僕はキリアンに一緒の寝台で眠るようにと強要された。あぁ、そうだった。

「こうしてみると、案外幼いかも?」

 キリアンの腕にがっちりと拘束されていることもあり、僕は起きることが出来ない。

 そう、僕は完全にキリアンの抱き枕になっていたのだ。

「すごい。まつ毛長いなぁ。唇もすっごく綺麗。この唇が――」

 ――僕に、触れたんだ――って、僕は朝からなにを考えているんだろうか。

 多分、効果音をつけるならば今の僕の状態はぽふんだ。僕は顔に熱を溜める。誰も見ていないのに、顔を両手で隠した。

「うぅ、す、すっごい恥ずかしい――!」

 言葉を零したとき、すぐそばから「なにが恥ずかしいんだ」という冷静な声が聞こえてきた。

 驚いた僕は顔を覆う手を慌ててどける。――キリアンがこちらを見つめていた。

「ね、眠ってたんじゃないの……?」

 若干上ずったような声で問いかけると、キリアンは僕を一度ぎゅっと抱きしめた。その後、僕の身体を解放してくれる。

「眠ってたな。だが、隣でなにかブツブツ言っているのが聞こえたら、起きないわけがないだろ」
「ちなみに、どこから聞いてた?」
「まつ毛云々の辺りだったかな」

 それは、ほぼ最初からじゃないか!

 というか、僕は一人でそんなにブツブツと言っていたんだろうか。

「ご、ごめんね」
「なにが」
「寝顔とかまじまじと見ちゃって。あと、起こしてごめん」

 謝罪の言葉を口にすると、キリアンは「はっ」と笑う。

「別にいいぞ。減るようなものでもないしな」

 キリアンは寝台から下りる。彼を見て、僕は毛布から抜け出して、寝台に腰掛けた。

「それにしても、ジェリーは抱き心地が良かったな」

 彼が思いだしたように言葉を零した。

 そ、その言い方は、ちょっと。変な誤解を招くと言いますか!

「今後は毎晩でも抱いて寝たいくらいだが」
「む、無理!」

 絶対に無理。僕の心臓が持たない。あと、純粋に僕が物理的に苦しい。

「そうか。じゃあ、二日に一回くらいか」
「一緒に寝ないっていう選択肢は!?」

 当然のように言うキリアン。僕は必死に抗議をする。

 僕の抗議を聞いたキリアンは、少しして笑った。それは心の底からの笑みにも見える。

「ないな」

 はっきりと拒否して、キリアンが着替えのために寝間着のシャツを脱ぐ。

 僕の視界にキリアンのたくましい身体が視界に入った。こちらからでは、背中しかみえないんだけど。

(すごい。僕も鍛えたらああなれるかな……)

 半分以上無理だってわかってはいるけど、望みだけは持っておいてもいいと思う。

 僕はキリアンの背中を見つめる。そのとき、キリアンがハッとしたように僕のほうを振り返った。

「――忘れてた」

 言葉を漏らしたキリアンが僕のほうに近づいてきて、屈みこんで。

 気が付いたら、僕とキリアンの唇が重なっていた。――は?

「どうせだから、朝からキスでもしておくかと思ってな」
「――なにそれ!」
「目覚めのキスとか、そういうやつだろ」

 目覚めのキスは王子さまからお姫さまに贈られるものだ。決して勇者から魔法使いに贈られるものじゃない。

「あと、俺の唇がきれいなんだろ?」

 キリアンが唇の端を上げて問いかけてくる。独り言を繰り返される以上に気まずいものはない。恥ずかしかった。

「そ、それは」
「この唇がジェリーに口づけた。それを想像して、恥ずかしがってたんだろ?」

 ……もう、やめてほしい。

 僕の思考回路はどうやら筒抜けのようだ。言葉にされるといたたまれなくて苦しくなって、悶え死にそうになる。

 自然と顔を両手で覆うと、キリアンが優しく僕の手をつかんだ。流れるように指を絡め取られる。

 指と指が絡まっているだけ。なのに、どうしてこんなにもいやらしく見えるんだろうか。

「お前が望むのならば、何度だって口づける。もちろん、それ以上のことだってできる」
「きりあ、ん……」

 キリアンの指が僕の手の甲を撫でた。ツーッと撫でられてしまうと、心臓が早足になる。

 しかも、キリアンは上半身裸のままだから。目のやり場には困るし、この雰囲気を余計に危ないものにしている気しかしない。
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