【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち

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 僕の言葉にキリアンは「は?」と心底不快そうな声を上げた。

 でも、今回ばかりは僕も引かない。キリアンは間違いなく、幼馴染さんのことを大切に思っている。

「だって、キリアンは幼馴染さんのことを信頼しているんでしょ?」

 首を横に倒して言うと、キリアンは気まずそうに視線を逸らした。

 それは肯定の返事のように見える。僕は「ふふっ」と声を上げて笑う。

「――なに、笑ってるんだよ」
「ううん、僕ね、夢だったんだ。こういう風に友人と他愛もない話をすることが」

 故郷では浮いていたし、師匠と暮らし始めてからもこういうのとは無縁だった。

 だから、なんだか楽しい。もちろん、仕事だから楽しんでばかりじゃダメだってわかってはいる。ただ、まるでお泊り会みたいだなぁって。

「ジェリーは俺のことを友人だと思っているのか?」
「違うの?」

 キリアンの問いかけに、疑問で返す。キリアンは不本意そうな表情をしたけど、少ししてあきらめたように息を吐いて額を押さえた。

「違う――わけでも、ないんだろうな」
「なんなの、それ」
「いや、今は友人でいいっていうことだ」

 今は――っていうことは、いずれ友人ではなくなるのだろうか?

 ……そんな日、来ないといいなって思うのは身勝手だろうか?

「ま、今はそんなことを考えている場合じゃないな。とにかく疲れただろ。寝るぞ」
「そう、だね」

 キリアンの言葉にうなずいた。簡易の寝台は僕が使えばいいや――と思って、僕が毛布の中に潜り込もうとしたとき。キリアンに止められた。

「――キリアン?」
「お前はそっちで寝るつもりなのか?」
「そうだけど」

 当然じゃんか。キリアンは勇者さまなんだ。お供の僕が簡易の寝台を使うに決まっている。

「さすがにそれはダメだろ。お前はか弱いんだから」
「か、よわい?」
「華奢だし、儚く見えるし。――心配だ」

 別に簡易の寝台が僕のことを取って食うわけじゃないんだけど……と言える雰囲気ではない。キリアンは真剣に言っている。

「じゃ、じゃあどうするの……?」
「決まってるだろ。俺と一緒にあっちを使えばいい」

 キリアンが指さしたのは、部屋にある備え付けの寝台。

 じょ、冗談だよね?

「同じように使うって?」
「一緒に寝ればいいだろ」

 冗談だよね!?

「ま、待ってよ。そりゃあ、普通の寝台よりは多少広いけどさ……」

 さすがに大人の男二人が寝るには、手狭じゃないかなぁ……って。

「ジェリーは小さいから大丈夫だ」
「大丈夫じゃないって!」

 僕の身体を軽々と抱き上げて、キリアンは備え付けの寝台のほうに向かう。

 そのまま僕を寝台の上に下ろすと、彼は僕の身体に毛布をかぶせた。

(いやいやいや、これはさすがに!)

 これって、友人同士だと普通のことなんだろうか? 違うような気もする。

 うろたえる僕をよそに、キリアンは当然のように寝台に横になる。僕は壁際にいるせいで、逃げることは出来そうにない。

「おい、寝るぞ」

 キリアンは本気なのだろうか?

 こんな僕と一緒に眠るなんて。

「ほ、本当に、寝るの?」
「当たり前だろ。寝ないと疲れは取れない」

 そういう意味じゃないんですけど!?

「別に取って食おうっていうわけじゃない。襲うわけでもない。だから、いいだろ」
「そういう心配ではなくて、ですね――」
「もちろん、そっちがその気なら――シテもいいけど?」

 ……もう、従うほかなかった。

 僕は渋々寝台に横になる。壁のほうで小さくなっていると、キリアンに当然のように抱き寄せられてしまう。

 結果、気が付けば僕はキリアンに抱きしめられる形になっていた。

「き、キリアン! 近いよ」

 さすがにこれはないない!

 僕が逃げようとしたのを察したかのように、キリアンは僕の身体を抱きしめる腕に力を込めた。

 ――なんで、どうして、どうしてこうなったの!?

 混乱する頭。目が回る。回って、回って――僕の意識が遠のいていく。

(あぁ、もう、寝ちゃおう……)

 こうなったら現実逃避だ。

 僕は目を瞑って、深呼吸をした。すると、あっさりと夢の世界へと落ちていくことが出来て。

「――ジェリー」

 頭のてっぺんにちゅっと口づけられたような気もしたけど、僕は襲いくる睡魔に抗うことが出来なかった。
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