【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

文字の大きさ
上 下
30 / 67
第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち

しおりを挟む
 僕の言葉にキリアンは「は?」と心底不快そうな声を上げた。

 でも、今回ばかりは僕も引かない。キリアンは間違いなく、幼馴染さんのことを大切に思っている。

「だって、キリアンは幼馴染さんのことを信頼しているんでしょ?」

 首を横に倒して言うと、キリアンは気まずそうに視線を逸らした。

 それは肯定の返事のように見える。僕は「ふふっ」と声を上げて笑う。

「――なに、笑ってるんだよ」
「ううん、僕ね、夢だったんだ。こういう風に友人と他愛もない話をすることが」

 故郷では浮いていたし、師匠と暮らし始めてからもこういうのとは無縁だった。

 だから、なんだか楽しい。もちろん、仕事だから楽しんでばかりじゃダメだってわかってはいる。ただ、まるでお泊り会みたいだなぁって。

「ジェリーは俺のことを友人だと思っているのか?」
「違うの?」

 キリアンの問いかけに、疑問で返す。キリアンは不本意そうな表情をしたけど、少ししてあきらめたように息を吐いて額を押さえた。

「違う――わけでも、ないんだろうな」
「なんなの、それ」
「いや、今は友人でいいっていうことだ」

 今は――っていうことは、いずれ友人ではなくなるのだろうか?

 ……そんな日、来ないといいなって思うのは身勝手だろうか?

「ま、今はそんなことを考えている場合じゃないな。とにかく疲れただろ。寝るぞ」
「そう、だね」

 キリアンの言葉にうなずいた。簡易の寝台は僕が使えばいいや――と思って、僕が毛布の中に潜り込もうとしたとき。キリアンに止められた。

「――キリアン?」
「お前はそっちで寝るつもりなのか?」
「そうだけど」

 当然じゃんか。キリアンは勇者さまなんだ。お供の僕が簡易の寝台を使うに決まっている。

「さすがにそれはダメだろ。お前はか弱いんだから」
「か、よわい?」
「華奢だし、儚く見えるし。――心配だ」

 別に簡易の寝台が僕のことを取って食うわけじゃないんだけど……と言える雰囲気ではない。キリアンは真剣に言っている。

「じゃ、じゃあどうするの……?」
「決まってるだろ。俺と一緒にあっちを使えばいい」

 キリアンが指さしたのは、部屋にある備え付けの寝台。

 じょ、冗談だよね?

「同じように使うって?」
「一緒に寝ればいいだろ」

 冗談だよね!?

「ま、待ってよ。そりゃあ、普通の寝台よりは多少広いけどさ……」

 さすがに大人の男二人が寝るには、手狭じゃないかなぁ……って。

「ジェリーは小さいから大丈夫だ」
「大丈夫じゃないって!」

 僕の身体を軽々と抱き上げて、キリアンは備え付けの寝台のほうに向かう。

 そのまま僕を寝台の上に下ろすと、彼は僕の身体に毛布をかぶせた。

(いやいやいや、これはさすがに!)

 これって、友人同士だと普通のことなんだろうか? 違うような気もする。

 うろたえる僕をよそに、キリアンは当然のように寝台に横になる。僕は壁際にいるせいで、逃げることは出来そうにない。

「おい、寝るぞ」

 キリアンは本気なのだろうか?

 こんな僕と一緒に眠るなんて。

「ほ、本当に、寝るの?」
「当たり前だろ。寝ないと疲れは取れない」

 そういう意味じゃないんですけど!?

「別に取って食おうっていうわけじゃない。襲うわけでもない。だから、いいだろ」
「そういう心配ではなくて、ですね――」
「もちろん、そっちがその気なら――シテもいいけど?」

 ……もう、従うほかなかった。

 僕は渋々寝台に横になる。壁のほうで小さくなっていると、キリアンに当然のように抱き寄せられてしまう。

 結果、気が付けば僕はキリアンに抱きしめられる形になっていた。

「き、キリアン! 近いよ」

 さすがにこれはないない!

 僕が逃げようとしたのを察したかのように、キリアンは僕の身体を抱きしめる腕に力を込めた。

 ――なんで、どうして、どうしてこうなったの!?

 混乱する頭。目が回る。回って、回って――僕の意識が遠のいていく。

(あぁ、もう、寝ちゃおう……)

 こうなったら現実逃避だ。

 僕は目を瞑って、深呼吸をした。すると、あっさりと夢の世界へと落ちていくことが出来て。

「――ジェリー」

 頭のてっぺんにちゅっと口づけられたような気もしたけど、僕は襲いくる睡魔に抗うことが出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

異世界転生した俺の婚約相手が、王太子殿下(♂)なんて嘘だろう?! 〜全力で婚約破棄を目指した結果。

みこと。
BL
気づいたら、知らないイケメンから心配されていた──。 事故から目覚めた俺は、なんと侯爵家の次男に異世界転生していた。 婚約者がいると聞き喜んだら、相手は王太子殿下だという。 いくら同性婚ありの国とはいえ、なんでどうしてそうなってんの? このままじゃ俺が嫁入りすることに? 速やかな婚約解消を目指し、可愛い女の子を求めたのに、ご令嬢から貰ったクッキーは仕込みありで、とんでも案件を引き起こす! てんやわんやな未来や、いかに!? 明るく仕上げた短編です。気軽に楽しんで貰えたら嬉しいです♪ ※同タイトルの簡易版を「小説家になろう」様でも掲載しています。

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

処理中です...