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第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち
⑪
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その後、僕たちは夕食を摂って、予約していた宿屋に戻った――のだけど。
そこで、ちょっとしたトラブルが起きていた。
「キリアン、ジェリー、ちょっと来てくれ」
受付の前に立っていたエカードさんが、戻って来た僕たちを見て手招きをする。
キリアンと僕は一度顔を見合わせて、エカードさんのほうに向かった。
「なにか、あったんですか――?」
僕が尋ねると、受付の女性が深々と頭を下げた。
「申し訳ございません――!」
突然謝罪をされて、僕はぽかんとすることしか出来ない。
僕の様子を見て、エカードさんが髪の毛をガシガシと掻いて訳を教えてくれた。
どうやら宿屋側の手違いで、お部屋が二つしか予約できていなかったらしい。
「しかも、この時期は観光にぴったりだとかで、宿の部屋に空きがないらしい。ほかの宿も似たようなものだな」
確かに、観光客はとっても多かったもんね。
と、一人納得する僕だけど、これはある意味大事件じゃないだろうか?
(これってもしかして、一人は野宿――?)
嫌な想像をしたせいで、顔からサーっと血の気が引くような感覚に襲われた。
けど、僕の態度を見たキリアンが頭を小突く。
「誰かが相部屋になればいいだろ。寝台とかは、運んでくれるんだよな?」
「も、もちろんでございます!」
受付の人がキリアンの問いかけに首を縦に振り続ける。
「というわけらしい。俺とジェリーが相部屋になる」
「ほぇ?」
だけど、いきなりの言葉に僕は口を開けて固まってしまう。
え、キリアン。今、なんて言った――?
「あ、あの、キリアン?」
僕がキリアンの服の袖をつかむと、彼は僕に視線を向ける。いや、この場合見下ろしているといったほうが正しいのかもしれない。
「俺はエカードと相部屋なんて絶対に嫌だからな」
「あ、そう、なんだ」
あまりにも当然のように言われたから、僕は納得するしか出来なかった。
「かといって、ジェリーとエカードを一緒にするわけにはいかない。つまり、妥協案だ」
「――妥協案」
まぁ、僕もエカードさんと相部屋よりは、キリアンと相部屋のほうがいいかな。だって、まだ気心をが知れているから。
「というわけで、そうする。エカードは一人で悠々自適に部屋を使え」
キリアンは言葉を残して、受付の人から部屋の鍵をもらい、宿泊フロアのほうへと歩き始めた。
僕とエカードさんはなにも言わずに彼を見送ることしか出来ない。
(キリアン、気を遣ってくれたのかな?)
誰だって一人部屋になりたいと思うはずだ。なのに、僕と相部屋でいいなんて。
「――おい、ジェリー」
不意にエカードさんに声をかけられた。僕が彼に視線を向けると、彼は「あー」と声を上げていた。なにが言いたいんだろうか?
「こういうときな、真っ先に一人部屋を選ぶのがキリアンだよ」
「はぇ?」
エカードさんの言っていることの意味がすぐには分からなかった。
「なのに、どういう風の吹き回しなんだろうな。まさか、相部屋が良いなんて――」
「え、えっと」
もしかしたらエカードさんは勘違いをしているのかもしれない。キリアンは僕に気を遣ってくれただけなんだ。
「僕に気を遣ってくれたんじゃ、ないですかね?」
小さな声で言うと、エカードさんが僕のことをじっと見つめる。
彼は納得が出来ていないみたいだった。
「それだけだったら、いいんだけどな。――ま、気を付けろよ」
「気を付ける?」
「アイツに襲われないようにってこと」
エカードさんの突拍子もない言葉に僕はせき込んだ。
襲われる? この僕が?
(ないないない!)
すぐに否定したけど、昼間にキリアンに口づけをされたことを思い出した。
顔に一瞬で熱が溜まる。
(襲うとか、そういうのは……違う、はず)
うん、そうだ。自分自身に必死に言い聞かせて、僕は部屋番号を聞いてキリアンの後を追うことにした。
顔はずっと熱くて、火照っていた。
そこで、ちょっとしたトラブルが起きていた。
「キリアン、ジェリー、ちょっと来てくれ」
受付の前に立っていたエカードさんが、戻って来た僕たちを見て手招きをする。
キリアンと僕は一度顔を見合わせて、エカードさんのほうに向かった。
「なにか、あったんですか――?」
僕が尋ねると、受付の女性が深々と頭を下げた。
「申し訳ございません――!」
突然謝罪をされて、僕はぽかんとすることしか出来ない。
僕の様子を見て、エカードさんが髪の毛をガシガシと掻いて訳を教えてくれた。
どうやら宿屋側の手違いで、お部屋が二つしか予約できていなかったらしい。
「しかも、この時期は観光にぴったりだとかで、宿の部屋に空きがないらしい。ほかの宿も似たようなものだな」
確かに、観光客はとっても多かったもんね。
と、一人納得する僕だけど、これはある意味大事件じゃないだろうか?
(これってもしかして、一人は野宿――?)
嫌な想像をしたせいで、顔からサーっと血の気が引くような感覚に襲われた。
けど、僕の態度を見たキリアンが頭を小突く。
「誰かが相部屋になればいいだろ。寝台とかは、運んでくれるんだよな?」
「も、もちろんでございます!」
受付の人がキリアンの問いかけに首を縦に振り続ける。
「というわけらしい。俺とジェリーが相部屋になる」
「ほぇ?」
だけど、いきなりの言葉に僕は口を開けて固まってしまう。
え、キリアン。今、なんて言った――?
「あ、あの、キリアン?」
僕がキリアンの服の袖をつかむと、彼は僕に視線を向ける。いや、この場合見下ろしているといったほうが正しいのかもしれない。
「俺はエカードと相部屋なんて絶対に嫌だからな」
「あ、そう、なんだ」
あまりにも当然のように言われたから、僕は納得するしか出来なかった。
「かといって、ジェリーとエカードを一緒にするわけにはいかない。つまり、妥協案だ」
「――妥協案」
まぁ、僕もエカードさんと相部屋よりは、キリアンと相部屋のほうがいいかな。だって、まだ気心をが知れているから。
「というわけで、そうする。エカードは一人で悠々自適に部屋を使え」
キリアンは言葉を残して、受付の人から部屋の鍵をもらい、宿泊フロアのほうへと歩き始めた。
僕とエカードさんはなにも言わずに彼を見送ることしか出来ない。
(キリアン、気を遣ってくれたのかな?)
誰だって一人部屋になりたいと思うはずだ。なのに、僕と相部屋でいいなんて。
「――おい、ジェリー」
不意にエカードさんに声をかけられた。僕が彼に視線を向けると、彼は「あー」と声を上げていた。なにが言いたいんだろうか?
「こういうときな、真っ先に一人部屋を選ぶのがキリアンだよ」
「はぇ?」
エカードさんの言っていることの意味がすぐには分からなかった。
「なのに、どういう風の吹き回しなんだろうな。まさか、相部屋が良いなんて――」
「え、えっと」
もしかしたらエカードさんは勘違いをしているのかもしれない。キリアンは僕に気を遣ってくれただけなんだ。
「僕に気を遣ってくれたんじゃ、ないですかね?」
小さな声で言うと、エカードさんが僕のことをじっと見つめる。
彼は納得が出来ていないみたいだった。
「それだけだったら、いいんだけどな。――ま、気を付けろよ」
「気を付ける?」
「アイツに襲われないようにってこと」
エカードさんの突拍子もない言葉に僕はせき込んだ。
襲われる? この僕が?
(ないないない!)
すぐに否定したけど、昼間にキリアンに口づけをされたことを思い出した。
顔に一瞬で熱が溜まる。
(襲うとか、そういうのは……違う、はず)
うん、そうだ。自分自身に必死に言い聞かせて、僕は部屋番号を聞いてキリアンの後を追うことにした。
顔はずっと熱くて、火照っていた。
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