上 下
24 / 65
第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち

しおりを挟む
 僕の言葉を聞いて、キリアンが目を見開いた。

 まさか、こんな言葉が返ってくるとは思わなかったんだろう。

「キリアンの態度とか見てるとね。いい思い出もあるんだろうなぁって、思うんだよ」

 そうじゃないと、懐かしむような表情をするわけがないと思った。

 キリアンを見つめていると、彼はぽかんとして、口元を緩める。まるで、僕の言葉を肯定するかのようだった。

「……そうだな。俺にはそれなりにいい思い出もあるんだ」
「キリアン」
「ただまぁ、そうだな。行き違いというか、なんというか」

 彼の口からボソッと言葉が零れた。

 僕は黙って、彼の言葉の続きを待つ。

「互いに冷静じゃなかったんだろう。……それだけだ」

 キリアンは空いているほうの手で僕の手首をつかんだ。ぎゅっと握られて、まるで縋られているみたいだった。

「次にどこに行くかを忘れたなら、一度宿に帰るか。荷物を置いたほうがいい」
「そう、だね」

 僕はキリアンの手を振り払う気にもなくて、キリアンの言葉にうなずいた。

 キリアンが僕の手首をにぎる手に力を込める。逃がさないと言っているかのようだ。……いや、少し違うのかな。

(どこにもいかないでほしい。本当に縋っているみたいだ)

 どうして僕がそう感じたのかはよくわからない。

 でも、縋るように僕の手首を握ったキリアンの手が震えていたから。

 そんな風に僕は思ってしまったんだろう。


 しばらく歩いて、予約をした宿がある通りに戻った。

「ここら辺はにぎやかだね」

 観光客たちがワイワイとしている。その姿はやっぱり違和感を与えてくる。

 本当に魔物による被害はあるのだろうか――と。

「――そうだな」

 キリアンが言葉を返してくる。斜め上にあるキリアンの顔は、神妙な面持ちだった。

 もしかしたら、僕と同じことを考えているのかもしれない。

「ま、赤の他人がどうなろうが知らないがな」
「キリアン」
「俺にはジェリーさえいればそれでいい」

 ――って、どうして思考がそっちにいっちゃうんだろうか。

(そして、僕は一体いつからキリアンにこんなにも懐かれちゃったんだろうか……)

 心の中でぼそっと言葉を零したとき。僕らが予約を入れている宿屋が見えてきた。

「あそこ、だったよね」

 キリアンに一応確認してみると、彼は大きくうなずいてくれる。よかった。僕の記憶は正しいようだ。

「部屋に荷物を置いたら、夕飯でも食べに行くか?」
「そうだね」

 というか、もうそんな時間なんだ――と思って、僕はキリアンの提案を受け入れる。

 部屋の鍵とかはまだもらっていないから、受付でもらわなくちゃとか考える。

 僕とキリアンは並んで歩いていた。そのとき、不意に男の子がよろよろと歩いているのが視界に入った。

(どうしたんだろう?)

 男の子の身なりは悪くない。むしろ、裕福な家の生まれにも見える。

 ……迷子、なんだろうか。

「キリアン」
「ん?」
「あの子、どういうことだと思う?」

 男の子のほうに視線を向け、キリアンに問いかける。すると、キリアンが僕の視線を追って男の子を見た。

「そうだな。迷子、と言ったところか」
「そう思うよね」

 正直、子供は苦手だ。関わらないで済むのならば、関わりたくないという気持ちはある。

 かといって、あの男の子が心配ではあった。もちろん、知らない子だけど。

「キリアン、ちょっと待っててね」

 僕はあの男の子を放っておくことが出来なかった。

 キリアンに断りを入れて、僕は男の子のほうに近づく。彼の前に立って、屈みこんだ。

「えぇっと、お父さんとか、お母さんは?」

 どう声をかけたらいいかがわからなくて、当たり障りのない言葉をかけてみる。

 僕の言葉を聞いた男の子は、首をゆるゆると横に振った。

「わかんない」
「はぐれちゃったの?」

 今度は問いかけ方を変えてみる。男の子は僕のことをじぃっと見た後、うなずいた。

 やっぱり、迷子だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...