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第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち

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「キリアン、からかってるよね……?」

 僕の声は震えていて、上ずっている。動揺しているのがバレバレだった。

「いや、からかってなんてない。というか、ジェリーは初心だな」

 キリアンが言う。後半部分は嬉しそうにも聞こえる。

 別に僕が初心だろうが、手慣れていようが、キリアンには関係ないだろうに。

 そう思う僕を見て、キリアンは顔を近づける。鼻と鼻がぶつかりそうだった。

「初心で嬉しいな。全部を教えることが出来るだろ」

 そして、彼が胸焼けしそうなほどに甘ったるくて、とろけそうな声で囁いた。

 ちょっと本気で、胸焼けを感じた。勘弁してほしい。

 頭がくらくらとする僕の顎をキリアンが指ですくい上げる。心臓の音がとくとくどころじゃなくて、バクバクだ。

「ジェリーが今後経験するキスの相手は、ずっと俺がいい」

 真剣な表情で言うキリアン。……どういう意味なんだろうか。

(僕には今後キスをする予定なんてないんだけどな)

 心の中でつぶやいて、僕はキリアンから視線を逸らす。というか、キリアンの口ぶりだとまだ僕とキスをするつもりなんだろうか。

「そ、それは、ちょっと。……覚悟が決まっていないと言いますか」

 この場合、どう返すのが正解なの?

 うろたえる僕をじっと見つめるキリアン。人通りがそこそこあるのに、二人だけの世界に入ったみたいだった。

「そうか。じゃあ、覚悟を決めてくれ、今すぐに」
「今すぐ!?」
「そうだ。今覚悟を決めてくれたら、ジェリーは俺以外にキスを許さないだろ?」

 どういう理屈ですか、それは……。

 なんていうことも出来ず、僕は目を瞬かせる。

(あの一件からキリアンの様子がおかしい!)

 絶対、絶対におかしい! 魔物の攻撃に毒はなかったけど、万が一っていうことはあるかもしれない。

 げ、解毒剤とかいるんだろうか?

「ジェリー」

 現実逃避をする僕の名前を呼ぶキリアン。心臓がバクバク以上にどっくんどっくんと音を鳴らす。まるで危険を知らせているみたいだった。

 僕は足を引いて、キリアンから逃げる体勢を取る。

「か、覚悟を決めなかったら――?」
「今すぐに二度目のキスも四度目のキスも、五度目のキスも経験してもらう」

 本当にそれってどういう理屈!?

 前者は今後の人生に多大な影響を与えそうだし、後者は僕を羞恥心で殺そうとしているかのようだ。

「む、無理無理! そもそも、この根暗男のキスに大した価値なんてないから!」

 だって、そうじゃないか。僕のキスにどれだけの価値があるというのだ。金貨くらいの価値があったら、僕のキスも欲しいっていう人はいるだろう。でも、そうじゃない。

「価値はあるだろ」
「ない、ないですってば!」

 首をぶんぶんと横に振る。キリアンの手が僕の頬を挟み込んで、固定する。

 キリアンの顔が近づいて来て、ちゅっと唇に口づけられた。三度目のキス。

「き、キリアン――!」

 抗議しようとする僕の後頭部に回るキリアンの手のひら。驚く間もなく、また唇が重なる。四度目のキス。

「んっ」

 今度は薄く開いた唇の中に、キリアンの厚ぼったい舌がねじ込まれた。

 なにも考えられなくなるようなキスだ。

(ぁ、だめ、そこダメだって……!)

 キリアンの舌が、僕の舌の付け根を刺激してくる。少し刺激されるだけで、背筋がぞわぞわとした。

 脚がプルプルと震えて、咄嗟にキリアンの衣服に縋る。

(――窒息、しちゃいそう)

 キリアンのキスは静かなのに、獰猛にも感じるキスだった。

 僕の口腔内を蹂躙していく舌。感じたことのないほどの快感が僕を支配する。おかしい、おかしいってば!

(なんで僕、こんなにも感じてるんだろ……)

 なんか、変な気分になっちゃいそう――。
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