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第1部 第3章 優しい人、不思議な気持ち
②
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「こ、ここここれは僕の師匠のせいで……!」
あぁ、僕は一体なにを言ってしまったんだろうか。慌てて弁解する僕を見つめるキリアンの目は、温かい。
なんだか、気まずい。
「俺は別にいいけどな」
「ほぇ?」
「ジェリーに付き添ってもらっても」
彼が唇の端をにんまりと上げて、言う。
その表情があまりにも魅力的で、艶めかしくて。僕は頬に熱が溜まるのを実感して、そっと視線を逸らした。
「俺は基本的に医者にはかからないが、いざというときはジェリーに引っ張って行ってもらうか」
それはそれで、荷が重いような気がする。
でも、必要なときは僕がしっかりと引っ張って行こうと心に決めた。
「う、うん。そのときは、僕がひ弱な力で連れていきます」
ぐっとこぶしを握って宣言すると、キリアンは「はっ」と声を上げて笑う。
なんだろうか。少し、僕たちは打ち解けたような気がする。
「……楽しみに、してる」
かといって、それを楽しみにしないでほしい。
困ってしまう僕をよそに笑うキリアン。彼を軽く睨みつけていると、エカードさんが戻って来た。
「おうおう、二人して楽しそうだな」
彼がけらけらと笑って言う。楽しい、のかな?
(ううん、間違いなく楽しい。キリアンとそれなりに仲良くなれて、嬉しい――!)
今まで同年代の友人なんていなかったし、人と関わることも極力避けていた。
そんな僕が、キリアンとそれなりとはいえ仲良くなれたのだ。これは大きな一歩、前進したと言っても過言ではないだろう。
「俺も混ぜてくれるか?」
エカードさんがキリアンの肩に肘を置いて、問いかける。
キリアンは鬱陶しそうにエカードさんの手を振り払う。
「嫌だな。お前は無理だ」
顔をぷいっと背けるキリアン。もしかしたら、また邪険な空気になってしまうかも……と思って、僕は慌ててしまいそうになる。が、エカードさんは「さみしいなぁ」とわざとらしい言葉を発するだけだ。あ、これ別に傷ついていないやつだ。
「大体、いつの間にかジェリーはキリアンのことだけ呼び捨てになってるし。……俺、独りぼっちじゃん」
「え、えっと」
「恋人に振られたばかりの傷心の男を独りぼっちにするって、ひどいと思わないか?」
た、確かにそれはそうかもしれない。
思案する僕を見て、キリアンが口を開いた。
「気遣いはいらない。この男は甘やかすとすぐに調子に乗る」
「別に調子に乗ってるつもりはないんだけど」
「ジェリーと仲良くならなくていい。こいつと仲良くなるのは、俺だけでいい」
当然のようにつむがれたキリアンの言葉に、僕は自身の頬に熱が溜まるのを実感した。
(こ、これが嫉妬、独占欲!)
主に恋人間である感情なんだろうけど、友人にも適応されるはずだ。だって、キリアンがそうだもん。
「って、お前らマジでいつの間にそこまで仲良くなってんだよ」
歓喜に満ちあふれている僕を見て、エカードさんが額に手を当てた。
どこか疲れているみたいだ。疲労回復のお茶でも淹れたほうがいいだろうか?
「と、まぁ。こんなふざけた話はおいておくとして」
エカードさんが一瞬で表情をきりりとさせ、僕とキリアンを交互に見る。
真剣な空気におされ、僕は息を呑んだ。キリアンはテーブルの上に頬杖を突いている。まるで、大したことはないとでも言いたげだ。
「諸々の件について、連絡は入れておいた。明日、このクリムシュに王家からの伝達係がやってくるそうだ。その伝達係の話を聞いて、旅の方針を考え直せということらしい」
「伝達係、ですか?」
「国王陛下や宰相、ほか大臣の意向などを伝えさせるために用意した役割だそうだ」
それって、言っちゃあなんだけど雑用じゃあ……。
「どう頑張っても伝達係が到着するのは明日になる。今夜は旅の立て直しと療養に専念しよう」
エカードさんは言葉を締めくくった。どうやらこの話はこれでおしまいらしい。
僕は首を縦に振る。キリアンに視線を向けると、彼はどこか遠くを見つめていた。
その目は美しいのに。どこか不安を煽るような目をしている風にも見えてしまった。
あぁ、僕は一体なにを言ってしまったんだろうか。慌てて弁解する僕を見つめるキリアンの目は、温かい。
なんだか、気まずい。
「俺は別にいいけどな」
「ほぇ?」
「ジェリーに付き添ってもらっても」
彼が唇の端をにんまりと上げて、言う。
その表情があまりにも魅力的で、艶めかしくて。僕は頬に熱が溜まるのを実感して、そっと視線を逸らした。
「俺は基本的に医者にはかからないが、いざというときはジェリーに引っ張って行ってもらうか」
それはそれで、荷が重いような気がする。
でも、必要なときは僕がしっかりと引っ張って行こうと心に決めた。
「う、うん。そのときは、僕がひ弱な力で連れていきます」
ぐっとこぶしを握って宣言すると、キリアンは「はっ」と声を上げて笑う。
なんだろうか。少し、僕たちは打ち解けたような気がする。
「……楽しみに、してる」
かといって、それを楽しみにしないでほしい。
困ってしまう僕をよそに笑うキリアン。彼を軽く睨みつけていると、エカードさんが戻って来た。
「おうおう、二人して楽しそうだな」
彼がけらけらと笑って言う。楽しい、のかな?
(ううん、間違いなく楽しい。キリアンとそれなりに仲良くなれて、嬉しい――!)
今まで同年代の友人なんていなかったし、人と関わることも極力避けていた。
そんな僕が、キリアンとそれなりとはいえ仲良くなれたのだ。これは大きな一歩、前進したと言っても過言ではないだろう。
「俺も混ぜてくれるか?」
エカードさんがキリアンの肩に肘を置いて、問いかける。
キリアンは鬱陶しそうにエカードさんの手を振り払う。
「嫌だな。お前は無理だ」
顔をぷいっと背けるキリアン。もしかしたら、また邪険な空気になってしまうかも……と思って、僕は慌ててしまいそうになる。が、エカードさんは「さみしいなぁ」とわざとらしい言葉を発するだけだ。あ、これ別に傷ついていないやつだ。
「大体、いつの間にかジェリーはキリアンのことだけ呼び捨てになってるし。……俺、独りぼっちじゃん」
「え、えっと」
「恋人に振られたばかりの傷心の男を独りぼっちにするって、ひどいと思わないか?」
た、確かにそれはそうかもしれない。
思案する僕を見て、キリアンが口を開いた。
「気遣いはいらない。この男は甘やかすとすぐに調子に乗る」
「別に調子に乗ってるつもりはないんだけど」
「ジェリーと仲良くならなくていい。こいつと仲良くなるのは、俺だけでいい」
当然のようにつむがれたキリアンの言葉に、僕は自身の頬に熱が溜まるのを実感した。
(こ、これが嫉妬、独占欲!)
主に恋人間である感情なんだろうけど、友人にも適応されるはずだ。だって、キリアンがそうだもん。
「って、お前らマジでいつの間にそこまで仲良くなってんだよ」
歓喜に満ちあふれている僕を見て、エカードさんが額に手を当てた。
どこか疲れているみたいだ。疲労回復のお茶でも淹れたほうがいいだろうか?
「と、まぁ。こんなふざけた話はおいておくとして」
エカードさんが一瞬で表情をきりりとさせ、僕とキリアンを交互に見る。
真剣な空気におされ、僕は息を呑んだ。キリアンはテーブルの上に頬杖を突いている。まるで、大したことはないとでも言いたげだ。
「諸々の件について、連絡は入れておいた。明日、このクリムシュに王家からの伝達係がやってくるそうだ。その伝達係の話を聞いて、旅の方針を考え直せということらしい」
「伝達係、ですか?」
「国王陛下や宰相、ほか大臣の意向などを伝えさせるために用意した役割だそうだ」
それって、言っちゃあなんだけど雑用じゃあ……。
「どう頑張っても伝達係が到着するのは明日になる。今夜は旅の立て直しと療養に専念しよう」
エカードさんは言葉を締めくくった。どうやらこの話はこれでおしまいらしい。
僕は首を縦に振る。キリアンに視線を向けると、彼はどこか遠くを見つめていた。
その目は美しいのに。どこか不安を煽るような目をしている風にも見えてしまった。
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