【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係

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 鳥の魔物は全く怯む様子がなかった。

 体勢を立て直し、僕の心臓を狙うかのように一直線に飛んでくる。

 寸前のところで避け、僕は鳥の魔物に火球をぶつけた。威嚇とは比べものにならない威力のものだ。

「――っ!」

 しかし、鳥の魔物は火球を潜り抜けてきた。

 僕のほうにまっすぐに飛んでくる。接近戦は苦手というか、やったことがない。

「ジェリー!」

 後ろから名前を呼ばれた。瞬間、キリアンさんが僕のほうに飛んでくる。

 彼はその剣先で鳥の魔物の核となる部分を貫こうとする。もちろん魔物だってバカではないので、身を引いて剣を避けた。

「キリアンさん!」

 彼の左肩には深い傷があるみたいだった。衣服にべっとりとおびただしい量の血がにじんでいる。

 深い傷を負った状態で動くのは絶対にダメだ。

「キリアンさん! 休んでてください。この魔物は僕が――」

 せめて、一体くらいは倒さなくちゃ――!

 僕の気持ちなど知りもしないキリアンさんは、「うるさい!」と叫ぶ。

 反射的に身を縮めた。

「これは俺が自己満足でやっていることだ。お前のためじゃない!」

 きっと、彼の心の底からの叫び。ただ、僕には彼の悲鳴に聞こえてしまう。

(苦しいって、言ってるみたい)

 意識がキリアンさんのほうに向きかけて、僕は首を横に振る。今はこの状況をなんとかするほうが先決だ。

 なにかヒントはないか。僕は周囲を冷静に観察する。

(全部がおかしい。大体ここら辺はまだ安全地帯。……魔物が現れること自体がまれだし、こんなに強い存在なんていないはず)

 これが魔物が活性化しているということなのだろうか?

 ううん、今はこんなことを考えている場合じゃない。

(あんまり、やっちゃダメだけど……)

 師匠はいつも僕にくぎを刺していた。

『キミが本気を出すと、大変なことになるだろう。私からの忠告だ。キミは決して人前で全力を出してはならない』

 師匠の言いつけは僕にとって絶対だ。でも、この場合では仕方がないだろう。

 僕が周囲に漂う魔力の量を増やそうとしたとき、不意に気が付いた。

(魔物の核が、光ってる――?)

 魔物の核とは、いわば人間の心臓。あれがあるからこそ、魔物は動き考えることが出来る。

 核が光条件はいくつかあると言われている。そして、もっとも多いとされている理由が――強化魔法がかかっているということ。

「キリアンさん! 伏せてください!」

 大きな声で叫ぶと、キリアンさんが驚いたように僕を見て、すぐに伏せた。

「――状態解除――」

 小さくつぶやき、光の玉を魔物に飛ばす。

 身をひるがえし、四足歩行の魔物にも同じものをかけた。

「キリアンさん! エカードさん! 今なら、攻撃が効くはずです!」

 腹の底からの大きな声で叫んだ。二人は僕に視線を一瞬だけ向ける。

 信じたのかはわからない。物は試しとばかりだったのかもしれない。

 二人は魔物に切りかかる。魔物たちは先ほどまでの素早い動きが嘘だったかのように、鈍い動きで逃げ出そうとした。

「――はっ!」

 だからって、逃げることが出来るわけがない。

 二人は勇者と剣士に選ばれているほどの確かな実力者だ。

「――強化」

 遠くから二人に強化魔法をかけ、魔物を倒す後押しをする。

(一体、二体。あと、三体!)

 次から次へと剣を突き立てられていく魔物たち。残った核に手早く魔法をかけた。もちろん、今後復活することが出来ないように。

(幸いにも、僕には多少の聖なる力がある)

 本当に微々たるもので、弱っている魔物にしか効果はないけど。

 声をかけようとキリアンさんのほうを見て、僕は気が付いた。彼の左肩から出ている血が、増えていることに。

(あのままだったら!)

 ――助からない。

 嫌な予感が脳内をかすめ、僕はキリアンさんを止めるために声をかけようとして。

 彼の目が血走っているのに気が付いてしまった。僕の喉がごくりと鳴って、なにも言えなくなる。

(まるで、憎しみがこもっているみたいっだ)

 心の底からのあふれんばかりの憎しみを、魔物にぶつけているかのようだった。

 僕みたいな存在に止めることは許されない。

 そう錯覚してしまいそうなほどの迫力。魔物も怯み、キリアンさんを怖がっている。

「おい、キリアン!」

 エカードさんもキリアンさんのただならぬ様子に気が付いたらしい。声をかけた。

(ダメ、ダメだって!)

 キリアンさんは止まることなく、魔物たちを消滅に追い込んでいく。

 痛みも辛さもちっとも感じていない。鮮やかな動きに僕は見惚れてしまう。

 不謹慎なのはわかっていた。
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