【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係

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「その感情は――間違いじゃない」

 キリアンさんが僕の目を見て、はっきりと言った。

 彼の手が僕の髪の毛をくしゃっと撫でる。

「キリアンさん」
「というか、お前はいつまで俺らをさん付けで呼ぶんだ」

 いきなり話題が変わって戸惑った。

 キリアンさんは気まずそうに自らの髪の毛を弄り、エカードさんに視線を向ける。

 視線を向けられ、エカードさんは力強く頷く。

「俺らはジェリーって呼んでるんだし、ジェリーも俺らのことを呼び捨てにしたらいい」
「えっ、お、おこがましいです」

 そんなお貴族さまの方々を呼び捨てになんて出来るわけがない。

 僕が拒否の意を示すように首を横に振ると、エカードさんは「遠慮するなよ」と言う。

 別に遠慮しているわけじゃないんだけど――。

「遠慮してるわけではなくて、ですね――」

 言葉に詰まりつつもなんとか自分の気持ちを形にしようとした。ただ、なにも思い浮かばない。

 視線をさまよわせ、僕は上手い言葉を探す。やっぱり、ダメだ。

(僕はなにをしてもダメダメだ――)

 一人へこみかけていると、少し遠くから木々をなぎ倒すような音が聞こえてきた。ハッとした僕は音のほうに視線を向ける。

「……なんか、いるみたいだな」

 キリアンさんが小さく言う。

 彼の声は先ほどまでの優しそうなものじゃない。感情のこもっていない、冷淡な声だった。

 僕の背筋にぞっとしたものが走る。

「とりあえず、行ってみるか」

 背負っている大剣に手をかけ、エカードさんが僕たちに目配せをした。

「魔物だったら退治する必要がある。ここら辺は街の近くだし、住民たちの安全が第一だ」

 冷静に言葉をつむいだエカードさんの視線が素早く周囲を観察する。

「まったく、手荒い歓迎だな」
「エカード。全部で何体いる」
「そうだなぁ。五体ってところか」

 二人が短い言葉を交わし合う。

 エカードさんが大剣を手に持つと同時に、キリアンさんも懐から剣を取り出す。

「ジェリーは援護を頼む」
「わ、わかりました!」

 魔法使いは後方支援がメインの仕事。

 遠くから攻撃魔法を飛ばす。そして、治癒師がいない場合は回復などの後方支援も仕事の一つとなる。

(二人の支援と状況の確認――)

 素早く視線を動かし、僕たちのほかに人がいないことと魔物の位置をチェック。

 左前方に四足歩行の魔物が二体。右前方にも同じ魔物が二体。あとは、空中に鳥の魔物が一体。

「俺は左に行く。お前は右に行け。ついでにあの鳥は頼んだ」
「――わかった」

 エカードさんが確認のためか僕に視線を向けた。

「後方支援は任せてください。お二人は全力で行ってもらって大丈夫です」

 こういうときにおどおどすることは出来ない。

 だって命がかかっているんだ。戦闘の場では一瞬の油断が命取りとなる。

 僕は自らの周囲に魔力を漂わせ、支援の準備をする。

「随分と大量の魔力を持っているようだな。こりゃあ、後方支援は任せても大丈夫そうだ」
「無駄口をたたく暇があるなら、さっさと行くぞ」
「へいへい」

 二人がそれぞれ狙いを定めた魔物に飛び掛かった。

 魔物に剣の切っ先が向く。魔物は怯むことなく、唸って威嚇を続けている。

(魔物の退治自体は初めてだけど、知識はある)

 これでもあの『アクセル・ヴァルス』の弟子なのだ。僕が失敗するということは、師匠の失敗になるということでもある。

(そんなの絶対にダメ。僕は師匠の顔に泥を塗るわけにはいかない――!)

 ぐっと右足に力を込め、僕は自分の周囲に漂う魔力をコントロールする構えに入る。瞬間、二人が魔物を切りにかかった。

 エカードさんの武器は大剣だから、一撃一撃の威力はすさまじい。欠点は小回りが利かないこと。

 キリアンさんの剣は大きくはあるけど、エカードさんのものほどではない。こちらはそれなりに小回りが利きそうだ。

 魔物は二人を敵とみなし、噛みつこうとする。噛みつきを軽くよけ、行動する彼らはまさに勇者と剣士だ。

 これならばあっさりと勝ててもおかしくはない――はずなのに。なにかが、違う。

(魔物が活性化するのは夕方以降。こんな昼間にここまでの力を出すことは不可能だ)

 師匠の魔物講座を思い出しつつ、僕は魔物の様子を注意深く観察した。

 活発な動き。素早い行動。太陽の光に弱いはずの魔物が、昼間からこんなに動くことは出来ない。

(やっぱり、なにかがおかしい。力が強い魔物?)

 今度は魔物の動きをメインに観察する。

 それが油断だった。僕の懐に鳥の魔物が飛び込んできたのだ。鋭いくちばしを持つ魔物は僕にくちばしの先端を向ける。

 心臓まで貫きそうな鋭さに、僕は少し恐怖を覚えた。

(火の魔法だ!)

 後ろに飛びのいて巨大な火球を飛ばし、魔物を威嚇した。

 魔物の一部には炎を怖がるものがいる。鳥の姿をした魔物は、その典型例だ。
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