上 下
10 / 65
第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係

しおりを挟む
 けど、やっぱり僕は気が弱い。

 二人の視線が僕に集まったのを感じて、頭の中が真っ白になっていく。

 視線を地面に向け、「えっと」とつぶやいては、口をはくはくと動かす。

「ぼ、くは。キリアンさんがその。本当は優しい人だって思ってますからっ!」

 だからエカードさんのことを心配してもおかしくはないんだよ――って伝えたつもりだった。

 もちろん、きちんと伝わったのかはわからない。そもそも僕の小さな声が彼らに届いたかもわからない。

(――師匠、助けて!)

 心の声で師匠に助けを乞う。

 口に出ていないし、師匠に聞こえるわけもない。つまり、助けは来ない。むしろ、師匠のことだ。

 ――面白がって見ているだけだ。わかる。

「お前なぁ」

 キリアンさんが呆れたように僕を見る。

 そして、彼の手が僕の頭に載せられた。軽く叩かれ、僕は彼の目を見つめる。キリアンさんは僕を見つめている。

 彼の黒色の目はちょっと優しそう。まるで、励ましてくれているみたいだ。

「気が弱いのによくこの空気の中、口を挟んだな」

 エカードさんも声をかけてくる。

 僕だって口を挟まなくても済むのならば、口を挟みたくはなかった。ただ、邪険な空気が嫌だったというだけ。

「だって、邪険な空気のままの旅なんて嫌じゃないですか……」

 この旅の存在自体に不安が尽きないというのに。

 視線を彷徨わせつつ意見を述べると、「ぷっ」と噴き出すような声が耳に届いた。

 どうやらエカードさんが笑っているらしい。彼は面白いものを見るような目で僕を見つめている。

「まぁ、そうだな。ごめんな。少しやけになってた」

 エカードさんが僕に笑いかけて言う。次にキリアンさんに視線を向け、肩をたたいた。

「お前も悪かったな。蹴りは手加減してほしかったけど」
「口で言っても分からんだろうと思ったんだよ」

 二人の会話は先ほどよりも穏やかなものになっている。

 よかった。心の底から安心して、僕はほっと息を吐く。

「俺が出来るのはアイツが今後幸せになれるように願うだけだよな」

 空を見上げたエカードさんがつぶやく。

 なんだか、それって切ない気もする。

「切ないですね」
「そうだな」

 僕の言葉にエカードさんが同意する。

 なんだろうか。空気がしみじみとしている。邪険なものよりはマシだけど、これはこれで辛い。

「ジェリーって、今まで恋人がいたことがないんだな」

 エカードさんがしみじみとした空気を振り払うように確認してくる。

 そこを拾わないでほしいという気持ちもある。いや、空気が変わるだけマシか。

「はい。僕は子供のころから師匠の元で住み込みで弟子をしていて。師匠は偏屈な人嫌いで、辺境の森に住んでて」
「出逢いがないってやつか」

 確かにその表現が正しいかも。

 僕には出逢いなんてなかった。それに僕の容姿は優れたものではないし、僕自身もあまり人が好きじゃないし。

「でも別に、絶対に恋人がほしいっていうわけじゃないんです」
「そうなのか?」
「僕は身の丈に合った生活が出来たら十分ですから」

 今は恋人云々といよりも、師匠の元に無事に帰ることのほうが大切だしね。

「ただ、たまに思いはしますよ。僕のことをすごく愛してくれる人がいたら、幸せだろうなぁって」

 僕は家族との仲がよくない。家族は僕のことを「出来損ない」とか「醜い」とか罵ってばかりだった。

 そのせいで、僕は誰かを愛し愛するという関係にひそかに憧れていた。

(師匠の愛は、なんか変なものだし)

 もちろん嬉しいものであることに間違いはないのだけど。

 僕が求めている愛と師匠の愛はなんか違う気がする。――多分。

「だからって、僕がそれを望むのはなんか違う気がするんです。僕は今だって十分幸せですから」

 これ以上の幸せは、僕には抱えることが出来ない大きさになってしまう。

 僕の言葉に返事をしたのはエカードさんではなかった。

「違うもなにもないだろ」
「え――?」
「人は愛されたいって願うのが普通だ」

 隣から聞こえてくる声は間違いなくキリアンさんのもの。

 彼は僕のことをじっと見て、口を開いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...