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第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係
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けど、やっぱり僕は気が弱い。
二人の視線が僕に集まったのを感じて、頭の中が真っ白になっていく。
視線を地面に向け、「えっと」とつぶやいては、口をはくはくと動かす。
「ぼ、くは。キリアンさんがその。本当は優しい人だって思ってますからっ!」
だからエカードさんのことを心配してもおかしくはないんだよ――って伝えたつもりだった。
もちろん、きちんと伝わったのかはわからない。そもそも僕の小さな声が彼らに届いたかもわからない。
(――師匠、助けて!)
心の声で師匠に助けを乞う。
口に出ていないし、師匠に聞こえるわけもない。つまり、助けは来ない。むしろ、師匠のことだ。
――面白がって見ているだけだ。わかる。
「お前なぁ」
キリアンさんが呆れたように僕を見る。
そして、彼の手が僕の頭に載せられた。軽く叩かれ、僕は彼の目を見つめる。キリアンさんは僕を見つめている。
彼の黒色の目はちょっと優しそう。まるで、励ましてくれているみたいだ。
「気が弱いのによくこの空気の中、口を挟んだな」
エカードさんも声をかけてくる。
僕だって口を挟まなくても済むのならば、口を挟みたくはなかった。ただ、邪険な空気が嫌だったというだけ。
「だって、邪険な空気のままの旅なんて嫌じゃないですか……」
この旅の存在自体に不安が尽きないというのに。
視線を彷徨わせつつ意見を述べると、「ぷっ」と噴き出すような声が耳に届いた。
どうやらエカードさんが笑っているらしい。彼は面白いものを見るような目で僕を見つめている。
「まぁ、そうだな。ごめんな。少しやけになってた」
エカードさんが僕に笑いかけて言う。次にキリアンさんに視線を向け、肩をたたいた。
「お前も悪かったな。蹴りは手加減してほしかったけど」
「口で言っても分からんだろうと思ったんだよ」
二人の会話は先ほどよりも穏やかなものになっている。
よかった。心の底から安心して、僕はほっと息を吐く。
「俺が出来るのはアイツが今後幸せになれるように願うだけだよな」
空を見上げたエカードさんがつぶやく。
なんだか、それって切ない気もする。
「切ないですね」
「そうだな」
僕の言葉にエカードさんが同意する。
なんだろうか。空気がしみじみとしている。邪険なものよりはマシだけど、これはこれで辛い。
「ジェリーって、今まで恋人がいたことがないんだな」
エカードさんがしみじみとした空気を振り払うように確認してくる。
そこを拾わないでほしいという気持ちもある。いや、空気が変わるだけマシか。
「はい。僕は子供のころから師匠の元で住み込みで弟子をしていて。師匠は偏屈な人嫌いで、辺境の森に住んでて」
「出逢いがないってやつか」
確かにその表現が正しいかも。
僕には出逢いなんてなかった。それに僕の容姿は優れたものではないし、僕自身もあまり人が好きじゃないし。
「でも別に、絶対に恋人がほしいっていうわけじゃないんです」
「そうなのか?」
「僕は身の丈に合った生活が出来たら十分ですから」
今は恋人云々といよりも、師匠の元に無事に帰ることのほうが大切だしね。
「ただ、たまに思いはしますよ。僕のことをすごく愛してくれる人がいたら、幸せだろうなぁって」
僕は家族との仲がよくない。家族は僕のことを「出来損ない」とか「醜い」とか罵ってばかりだった。
そのせいで、僕は誰かを愛し愛するという関係にひそかに憧れていた。
(師匠の愛は、なんか変なものだし)
もちろん嬉しいものであることに間違いはないのだけど。
僕が求めている愛と師匠の愛はなんか違う気がする。――多分。
「だからって、僕がそれを望むのはなんか違う気がするんです。僕は今だって十分幸せですから」
これ以上の幸せは、僕には抱えることが出来ない大きさになってしまう。
僕の言葉に返事をしたのはエカードさんではなかった。
「違うもなにもないだろ」
「え――?」
「人は愛されたいって願うのが普通だ」
隣から聞こえてくる声は間違いなくキリアンさんのもの。
彼は僕のことをじっと見て、口を開いた。
二人の視線が僕に集まったのを感じて、頭の中が真っ白になっていく。
視線を地面に向け、「えっと」とつぶやいては、口をはくはくと動かす。
「ぼ、くは。キリアンさんがその。本当は優しい人だって思ってますからっ!」
だからエカードさんのことを心配してもおかしくはないんだよ――って伝えたつもりだった。
もちろん、きちんと伝わったのかはわからない。そもそも僕の小さな声が彼らに届いたかもわからない。
(――師匠、助けて!)
心の声で師匠に助けを乞う。
口に出ていないし、師匠に聞こえるわけもない。つまり、助けは来ない。むしろ、師匠のことだ。
――面白がって見ているだけだ。わかる。
「お前なぁ」
キリアンさんが呆れたように僕を見る。
そして、彼の手が僕の頭に載せられた。軽く叩かれ、僕は彼の目を見つめる。キリアンさんは僕を見つめている。
彼の黒色の目はちょっと優しそう。まるで、励ましてくれているみたいだ。
「気が弱いのによくこの空気の中、口を挟んだな」
エカードさんも声をかけてくる。
僕だって口を挟まなくても済むのならば、口を挟みたくはなかった。ただ、邪険な空気が嫌だったというだけ。
「だって、邪険な空気のままの旅なんて嫌じゃないですか……」
この旅の存在自体に不安が尽きないというのに。
視線を彷徨わせつつ意見を述べると、「ぷっ」と噴き出すような声が耳に届いた。
どうやらエカードさんが笑っているらしい。彼は面白いものを見るような目で僕を見つめている。
「まぁ、そうだな。ごめんな。少しやけになってた」
エカードさんが僕に笑いかけて言う。次にキリアンさんに視線を向け、肩をたたいた。
「お前も悪かったな。蹴りは手加減してほしかったけど」
「口で言っても分からんだろうと思ったんだよ」
二人の会話は先ほどよりも穏やかなものになっている。
よかった。心の底から安心して、僕はほっと息を吐く。
「俺が出来るのはアイツが今後幸せになれるように願うだけだよな」
空を見上げたエカードさんがつぶやく。
なんだか、それって切ない気もする。
「切ないですね」
「そうだな」
僕の言葉にエカードさんが同意する。
なんだろうか。空気がしみじみとしている。邪険なものよりはマシだけど、これはこれで辛い。
「ジェリーって、今まで恋人がいたことがないんだな」
エカードさんがしみじみとした空気を振り払うように確認してくる。
そこを拾わないでほしいという気持ちもある。いや、空気が変わるだけマシか。
「はい。僕は子供のころから師匠の元で住み込みで弟子をしていて。師匠は偏屈な人嫌いで、辺境の森に住んでて」
「出逢いがないってやつか」
確かにその表現が正しいかも。
僕には出逢いなんてなかった。それに僕の容姿は優れたものではないし、僕自身もあまり人が好きじゃないし。
「でも別に、絶対に恋人がほしいっていうわけじゃないんです」
「そうなのか?」
「僕は身の丈に合った生活が出来たら十分ですから」
今は恋人云々といよりも、師匠の元に無事に帰ることのほうが大切だしね。
「ただ、たまに思いはしますよ。僕のことをすごく愛してくれる人がいたら、幸せだろうなぁって」
僕は家族との仲がよくない。家族は僕のことを「出来損ない」とか「醜い」とか罵ってばかりだった。
そのせいで、僕は誰かを愛し愛するという関係にひそかに憧れていた。
(師匠の愛は、なんか変なものだし)
もちろん嬉しいものであることに間違いはないのだけど。
僕が求めている愛と師匠の愛はなんか違う気がする。――多分。
「だからって、僕がそれを望むのはなんか違う気がするんです。僕は今だって十分幸せですから」
これ以上の幸せは、僕には抱えることが出来ない大きさになってしまう。
僕の言葉に返事をしたのはエカードさんではなかった。
「違うもなにもないだろ」
「え――?」
「人は愛されたいって願うのが普通だ」
隣から聞こえてくる声は間違いなくキリアンさんのもの。
彼は僕のことをじっと見て、口を開いた。
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