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第1部 第2章 旅の始まり、変化する関係

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 あっという間に二週間が経った。

 僕たちはクレメンスさんが思案したというルートに沿って、旅をすることとなった。

 今回の任務は主に魔物の被害状況をチェックすること。そのうえで状況次第では魔物を退治していくというもの。

(魔物は危険があるから仕方がないんだよね)

 魔物と似たような存在として、モンスターがいる。モンスターは冒険者以外が立ち入ることがない【ダンジョン】という場所に住み、そこから出てくることはない。理由は【ダンジョン】の中でしか生きることが出来ないから。

 比べ魔物はどこにでも現れ、かつどこででも生きていける。能力値はとんでもなく高くて、聖なる力がないと浄化することが出来ない。普通の人でも倒すこと自体は可能だが、聖なる力を使わないといつか復活するという面倒なオマケが付いている。

 聖なる力で浄化することにより、完全にこの世から消し去ることが出来る――というなかなかに厄介な存在なのだ。

 勇者は聖なる力を使うことが出来る男性の中から選ばれているそう。キリアンさんは様々な試験をクリアし、勇者としての任務にあたることになったと。神託などと大げさに言っているが、実際は試験で選ぶものらしい。

 もちろん勇者の一人旅などすぐにやられて当然だから、剣士と魔法使いが同行することとなった。

 これが、僕たちの今回の旅の理由と目的だ。

「おい、エカード。いつまでその態度のつもりだ。鬱陶しいな」

 旅を始めて十五分。キリアンさんが一番前を歩くエカードさんの背中を蹴り飛ばした。

 エカードさんはバランスを崩すけど、さすがは鍛えているというべきか。すぐに体勢を立て直し、キリアンさんを強くにらみつける。

「恋愛に興味のない気ままな独身貴族にはわかるわけがないだろ!」
「あぁ知らない。興味もない」

 エカードさんの心の底からの叫びを、キリアンさんは蹴り飛ばした。

「恋だとか愛だとか。そういう不確定要素にうつつを抜かすやつらの気が知れない。だからお前の考えは理解できない」

 僕の隣を歩くキリアンさんが、冷たく吐き捨てる。

 この状況に僕は戸惑うことしか出来なかった。だって、そうじゃないか。

(僕、生まれてこの方恋愛なんて一度もしたことがないし)

 かといって、キリアンさんのように割り切っているというわけでもない。

 僕はチャンスがあったら恋愛したいと思ってはいる。ただ、僕のことを愛してくれたりする稀有な人はいないだろう。

 もしも僕を愛してくれたり、好きだと言ってくれたりする人が現れたら――なんて想像もたまにする。まるで夢見る乙女だ。

「なんだ。恋人に振られたからといって、そこまでへこむものなのか?」

 容赦のないキリアンさんの言葉にエカードさんが胸元を押さえる。クリティカルヒットらしい。

(ダメージがすごそうだなぁ)

 他人事のように僕は思う。いや、実際他人事なんだけど。

「『私は旅が終わるまで待てない。だから別れる』――だっけか。賢い女だな」
「か、賢いって……」
「だってそうだろう。こんな生きて帰ってくるかもわからない男を待つなんてものは、効率が悪い。新しい男を探したほうがずっと効率がいい。時間を無駄にしないで済むからな」
「お前な! 人の傷口を抉って楽しいか!?」

 勢いよくこちらを見たエカードさんが、キリアンさんに掴みかかろうとする。

 まずいと思って僕は二人の間に入ろうとするが、キリアンさんに手で制されてしまう。

「楽しいとか楽しくないとか、そういうことじゃない。真実を述べているだけだろ」
「あぁ、そうだよ! 真実だけどさ!」
「中途半端に慰めてなにも変わらないだろ」

 確かにキリアンさんの言うことはもっともだ。

 けど、彼の言葉が傷ついたエカードさんの心を抉っているのもまた真実。

 正論を言うのも大切だけど、それで他人を傷つけてしまったら本末転倒だと僕は思う。

「その、エカードさん」

 意を決して口を挟んだ。二人の視線が僕に集まる。怖くなって逃げ出したくなるのを必死にこらえた。

「その恋人に振られたことは、悲しいことだと思います。僕には恋人なんていたことがないから、気持ち自体は見当もつかないけど……」
「ジェリー」
「けど、キリアンさんの言うことももっともです。言葉はきついですけど、多分キリアンさんもエカードさんのことを心配してる、から」

 キリアンさんは言葉がとてもきついし、優しさなんてこもっていないようにも聞こえる話し方だ。

(だからって心配していないかどうかは、違うんだよ)

 彼は彼なりに心配しているはず。

「おい、お前勝手に人の気持ちを捏造するな」
「捏造なんてしてません。だって、真実でしょ――?」

 僕の声がどんどん小さくなる。

 僕が口を挟んだ理由は単純で、このままだと旅の空気が悪くなりそうだったから。

(こじれる前に、僕がなんとかしなくちゃ――)

 普段の僕だったら出来ないけど、勇気を振り絞って頑張ることにした。
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