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第1部 第1章 出逢う

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(もしかして、僕の食べ方が見苦しかった――?)

 最初に思い当った可能性に、僕は顔からサーっと血の気が引くのを感じた。

 サンドイッチを持ったまま固まる僕に、エカードさんが「悪い!」と慌てたように謝罪の言葉を口にする。

 違う。悪いのは僕だ。僕がいるだけで、この空間は葬儀場みたいなものだろうから。

「すみません。僕の食べ方、見苦しかったですよね」

 身体を縮めて言うと、エカードさんは目を見開いた。

「違う!」

 彼はやっぱり優しい。僕みたいな羽虫くらいの存在に気を遣ってくれているんだから。

「ただ、そうだな。お前の一口があんまりにもちっさいなぁって思っただけだよ」

 頬を掻くエカードさんは言葉を付け足す。

 一口が小さい。

「そうだな。なんだ、小鳥がついばんでいるのかってくらいだ」

 キリアンさんもぶっきらぼうに同意する。僕の一口は小さいわけではないはず。

「僕が小さいというよりは、みなさんが大きすぎるだけのような気が」

 先ほどのキリアンさんの豪快な食べっぷりを思い出して、僕は零した。

 すると、エカードさんが声を上げて笑い始めた。僕とキリアンさんは驚きつつもエカードさんを見つめる。

「いやぁ、ジェリーは自覚がないみたいだな。浮世離れした儚げな美人さんだ」
「美人だなんて、そんな……」

 エカードさんは口が本当に口が上手い。僕は醜い容貌をしていて、見るに堪えない顔立ちだ。

 僕自身この顔を隠したくて、目元が見えないようにと前髪を伸ばしているくらいだから。

「その前髪は上げたほうがいいと思うよ。そっちのほうが可愛い」
「か、わいい?」

 生まれて二十年。一度も言われたことのない単語に僕は放心する。

 可愛い? 僕が? 羽虫以下の存在の僕が?

「エカード。コイツ、固まってるぞ。さすがに男に可愛いはマズイだろ。不快になる」

 キリアンさんが僕の態度を違う意味に解釈した。違う。全然不快になんてなってない!

「ち、違います! ただ可愛いなんて言われたことがなくて――!」

 首を横に振って、僕は自分の気持ちを言葉にする。

 不快になったわけじゃなくて、驚いただけだって。それが伝わったらいいんだけど。

「そう? 美人とか可愛いとか、言われないか?」
「言われたことありません! 一度たりとも!」

 必死に否定を繰り返した。だって、僕のせいでエカードさんの美醜感覚がおかしいなんて思われたら申し訳ない。

「僕はそこら辺の羽虫以下です! だから可愛いとか、きれいとか。そういうのと僕は縁遠いです!」

 首を横に振り続けて、僕は言う。今度はエカードさんが驚く番だったらしい。

 でも、彼はすぐに僕に痛々しいものを見るような視線を向けてくる。

「なんだろうな。自己肯定感が底辺というか、地面にめり込んでいるというか」
「はい、もう地層の奥深くにめり込んでいます……」

 師匠にもよく指摘される。

 だが、自己肯定感なんてものは幼少期に培われていくものだ。僕はすでに二十歳。今更培うことなんて出来ない。

「独特の言い回しだな」

 エカードさんが頬を引きつらせている。彼を一瞥したキリアンさんは、「はぁ」と大きなため息をつく。

「別に自己肯定感が地面にめり込んでいようが、地層の奥深くにめり込んでいようが。実力さえあればいいだろ」
「そりゃそうだけれどさぁ」
「俺らは仲良しこよしをするわけじゃないんだ」

 キリアンさんの言葉の冷たさが、まるで距離をおきたいと言っているように聞こえる。

 そうだ。彼の言うことは正しい。

「そ、そうですよね」

 わかっている。わかっていたけど、どうしてか気持ちが沈む。

 お二人の人柄について、不安ばかり募っていた。ただ、話してみると案外フレンドリーというか、面白い人たちだった。

 だから、僕は勘違いをしてしまったんだと思う。――もしかしたら仲良くなることが出来るかもって。
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