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第1部 第1章 出逢う
④
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僕たちが案内されたのは、先ほどの間からかなり離れた部屋だった。
その部屋はまさに豪華絢爛。ほうっと見惚れる僕を他所に、共に旅をする仲間だという二人はソファーに腰掛ける。
長いソファーに先ほどの黒曜石の目の彼。僕ともう一人は、それぞれ一人掛けのソファーに腰掛けた。
王城の侍従が紅茶と軽食を持ってきてくれる。軽食はサンドイッチだ。それぞれ挟んである具材が違うみたいで、見ているだけでも楽しい。
(正直、すっごくお腹が空いてたんだよねぇ)
緊張から、朝から食事が喉を通らなかった。だから、今になってお腹はぺこぺこ。
けど、なんだろうか。室内の空気はサンドイッチをつまめるような状態じゃない。
誰もなにも言わない中、僕はおもむろにティーカップに手を伸ばして、口に運ぶ。ふわっと香る茶葉の香りに、僕の心が少しだけ落ち着いた。
「……さて、このまま黙っていてもなにも進まない。とりあえず、自己紹介をしよう」
黒曜石の目の彼……ではなく、もう一人のほうがおもむろに声を上げる。
彼は銀色の髪の毛を後ろで撫でつけていて、その真っ赤な目は鋭い。それに、彼は大柄だ。背丈も高くて身体つきもがっしりとしている。雰囲気も、顔立ちも。第一印象は全部が怖い人。
でも、なんだろうか。彼は割と人を見ているというか、気配りが出来る……みたいな人だった。
「俺はエカード。ハイネン男爵家の三男坊だ」
銀色の髪の毛の彼――エカードさんが、そう自己紹介をしてくれた。……というか、彼はお貴族さまなんだ。
「知ってる。お前の自己紹介なんていらない」
対する黒曜石の目の彼は、ちらりとエカードさんを見てそう吐き捨てた。エカードさんは口元を緩めつつ、呆れたような表情を浮かべる。
「お前は知ってる。だけど、彼は知らないだろう。お前もさっさと自己紹介をしろ」
「……はぁ。キリアン・レヴィン。二十二歳。……これでいいか?」
エカードさんに促されて、黒曜石の目の彼――キリアンさんが名乗ってくれた。
その後、僕にちらっと視線を向けてくる。
……あ、そうか。先ほどの会話を聞くに、僕だけが初対面になる。キリアンさんの自己紹介を聞くのは、僕だけ。そして、僕も名乗る必要がある。
「は、はい。えぇっと、僕は……」
そこまで言って、口ごもった。
……どうしよう。自己紹介なんて、なにを言ったらいいかがわからない。
(いや、シンプルに名前と年齢くらいでいいの……? それとも、職業?)
僕が魔法使いだって知らないと、このお二人は困るよね……?
なんて思って頭の中がパニックに陥っていると、露骨な溜息が聞こえてきた。
そちらに視線を向ければ、そこには退屈したような表情のキリアンさん。
彼はサンドイッチに手を伸ばして、乱暴な仕草でかじる。
「必要なのは名前くらいだろう。誰もお前の趣味嗜好性癖なんて興味ない」
素っ気ない言葉だったけれど、多分気を遣ってくれたんだと思う。
それがわかって、僕は口元を緩めた。……性癖は、余計だったけれど。
「はい。僕はジェリー・デルリーンと言います。魔法使いです」
一応必要かなって思って、職業を付け足す。すると、エカードさんが「あぁ」と声を上げていた。
「俺は剣士だよ。で、こっちのキリアンが神託に選ばれた勇者……と、いうことになってる」
「本当に一応だな。……こんな面倒なことを押し付けられて、こっちは散々だ」
キリアンさんは次にティーカップを口に運んだ。いい食べっぷりと飲みっぷりだと思った。
と、あぁ、そうだ。サンドイッチ、僕も食べたい。
(このままだとキリアンさんに食べつくされてしまう……)
そんなのは絶対にごめんだ。
その一心で僕は手を伸ばして、サンドイッチを取った。トマトと厚焼き玉子が挟んである、色彩的にもきれいなサンドイッチ。
両手で持って、かじる。……美味しい。
(パンが違うの……かな。それに、厚焼き玉子すっごく美味しい。こんなにも美味しいの、初めて食べた……!)
正直、師匠と二人暮らしだとあんまり美味しいものは食べられない。いや、それだとちょっと語弊があるか。
師匠は何事にも無頓着なのだ。それゆえに、食事に求めるものは栄養的価値。
そのため、師匠は味よりも栄養面での食事を好んだ。食事係は僕だったんだけれど、別に作ることが面倒だったこと。そもそも僕自体が料理が得意じゃないことから、食事は薄味のさっぱりとしたものばっかりだった。
(美味しいものを食べると、こんなにもわくわくするんだ……! 今後は、もうちょっと味にもこだわりたいな)
自然とそう思って、一口、もう一口とサンドイッチを頬張る。
美味しくて口元に笑みが浮かんで、僕はハムハムと食事を続けた。
……しかし、しばらくして。なんか音がしないなぁって思って、視線を上げる。
そこではキリアンさんとエカードさんが、僕を見て固まっていた。……え、僕、なにか変なことでもしたんだろうか?
その部屋はまさに豪華絢爛。ほうっと見惚れる僕を他所に、共に旅をする仲間だという二人はソファーに腰掛ける。
長いソファーに先ほどの黒曜石の目の彼。僕ともう一人は、それぞれ一人掛けのソファーに腰掛けた。
王城の侍従が紅茶と軽食を持ってきてくれる。軽食はサンドイッチだ。それぞれ挟んである具材が違うみたいで、見ているだけでも楽しい。
(正直、すっごくお腹が空いてたんだよねぇ)
緊張から、朝から食事が喉を通らなかった。だから、今になってお腹はぺこぺこ。
けど、なんだろうか。室内の空気はサンドイッチをつまめるような状態じゃない。
誰もなにも言わない中、僕はおもむろにティーカップに手を伸ばして、口に運ぶ。ふわっと香る茶葉の香りに、僕の心が少しだけ落ち着いた。
「……さて、このまま黙っていてもなにも進まない。とりあえず、自己紹介をしよう」
黒曜石の目の彼……ではなく、もう一人のほうがおもむろに声を上げる。
彼は銀色の髪の毛を後ろで撫でつけていて、その真っ赤な目は鋭い。それに、彼は大柄だ。背丈も高くて身体つきもがっしりとしている。雰囲気も、顔立ちも。第一印象は全部が怖い人。
でも、なんだろうか。彼は割と人を見ているというか、気配りが出来る……みたいな人だった。
「俺はエカード。ハイネン男爵家の三男坊だ」
銀色の髪の毛の彼――エカードさんが、そう自己紹介をしてくれた。……というか、彼はお貴族さまなんだ。
「知ってる。お前の自己紹介なんていらない」
対する黒曜石の目の彼は、ちらりとエカードさんを見てそう吐き捨てた。エカードさんは口元を緩めつつ、呆れたような表情を浮かべる。
「お前は知ってる。だけど、彼は知らないだろう。お前もさっさと自己紹介をしろ」
「……はぁ。キリアン・レヴィン。二十二歳。……これでいいか?」
エカードさんに促されて、黒曜石の目の彼――キリアンさんが名乗ってくれた。
その後、僕にちらっと視線を向けてくる。
……あ、そうか。先ほどの会話を聞くに、僕だけが初対面になる。キリアンさんの自己紹介を聞くのは、僕だけ。そして、僕も名乗る必要がある。
「は、はい。えぇっと、僕は……」
そこまで言って、口ごもった。
……どうしよう。自己紹介なんて、なにを言ったらいいかがわからない。
(いや、シンプルに名前と年齢くらいでいいの……? それとも、職業?)
僕が魔法使いだって知らないと、このお二人は困るよね……?
なんて思って頭の中がパニックに陥っていると、露骨な溜息が聞こえてきた。
そちらに視線を向ければ、そこには退屈したような表情のキリアンさん。
彼はサンドイッチに手を伸ばして、乱暴な仕草でかじる。
「必要なのは名前くらいだろう。誰もお前の趣味嗜好性癖なんて興味ない」
素っ気ない言葉だったけれど、多分気を遣ってくれたんだと思う。
それがわかって、僕は口元を緩めた。……性癖は、余計だったけれど。
「はい。僕はジェリー・デルリーンと言います。魔法使いです」
一応必要かなって思って、職業を付け足す。すると、エカードさんが「あぁ」と声を上げていた。
「俺は剣士だよ。で、こっちのキリアンが神託に選ばれた勇者……と、いうことになってる」
「本当に一応だな。……こんな面倒なことを押し付けられて、こっちは散々だ」
キリアンさんは次にティーカップを口に運んだ。いい食べっぷりと飲みっぷりだと思った。
と、あぁ、そうだ。サンドイッチ、僕も食べたい。
(このままだとキリアンさんに食べつくされてしまう……)
そんなのは絶対にごめんだ。
その一心で僕は手を伸ばして、サンドイッチを取った。トマトと厚焼き玉子が挟んである、色彩的にもきれいなサンドイッチ。
両手で持って、かじる。……美味しい。
(パンが違うの……かな。それに、厚焼き玉子すっごく美味しい。こんなにも美味しいの、初めて食べた……!)
正直、師匠と二人暮らしだとあんまり美味しいものは食べられない。いや、それだとちょっと語弊があるか。
師匠は何事にも無頓着なのだ。それゆえに、食事に求めるものは栄養的価値。
そのため、師匠は味よりも栄養面での食事を好んだ。食事係は僕だったんだけれど、別に作ることが面倒だったこと。そもそも僕自体が料理が得意じゃないことから、食事は薄味のさっぱりとしたものばっかりだった。
(美味しいものを食べると、こんなにもわくわくするんだ……! 今後は、もうちょっと味にもこだわりたいな)
自然とそう思って、一口、もう一口とサンドイッチを頬張る。
美味しくて口元に笑みが浮かんで、僕はハムハムと食事を続けた。
……しかし、しばらくして。なんか音がしないなぁって思って、視線を上げる。
そこではキリアンさんとエカードさんが、僕を見て固まっていた。……え、僕、なにか変なことでもしたんだろうか?
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