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第1部 第3章 隠し事と対面

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 天翔が異世界のシュタルク王国に転移して、早くも十日が過ぎた。

 この十日間を天翔は怒涛の日々だったと認識している。忙しなく、異世界での生活に慣れるため必死だった。

 忙しい日々の中、ナイトハルトはできる限り天翔のサポートをしてくれた。もちろん、テオやレイモンドも。

 三人に支えられ、天翔はシュタルク王国での生活に適応し始めた。テオ以外の使用人たちとも軽く言葉を交わすようになり、少しずつではあるが交友も広がった。

 ただし、ナイトハルトが強く言うため、邸宅の外に出ることは一度もなかったが――。

「えっと、俺が王宮に行くんですか?」

 夕食の時間。ナイトハルトと共に食事を摂っていると、彼は世間話の一環のように「王宮に行くぞ」と天翔に告げた。

「あぁ。一度兄夫婦にあいさつをしないとならないからな」

 相変わらず美しい所作で食事をするナイトハルトを見つめつつ、天翔はナイフとフォークを持ったまま硬直した。

 手元には鶏肉のステーキがある。味付けは日本では馴染みのないものだったが、これが案外いけるのだ。

「アマトもここでの生活に慣れ始めたようだからな。ちょうどいいだろ」

 生活に適応し始めたことは間違いない。彼の身内にあいさつをするのも重要だとわかっている。

 問題があるとするならば。

(ナイトハルトさんって、王弟なんだよな)

 彼の身分問題だろうか。

 王弟である彼の兄夫婦ということは、国王と王妃となるはず。

 一般庶民でしかない天翔は王族というものを画面の中でしか見たことがなかった。今、目の前で食事をしている男を除いてだが。

「もちろん明日、明後日の話じゃない。兄たちも忙しいからな。アポを取る必要がある」

 ナイトハルトがステーキを口に運ぶ。付け焼刃でしかない天翔の仕草とは全然違う美しい所作。やっぱり、見惚れてしまう。

「ですが、俺はまだマナーとかそこら辺が全然で」
「知っている。だが、大丈夫だろ。兄たちにはきちんとアマトが異国の人間だと話してあるからな」

 たとえ異国の人間だったとしても、誤魔化すのにも限度があるはずだ。

「それに、お前につける家庭教師を決めたところだ。安心しろ」

 天翔はずっとこの国についてを学ぶ意思を見せていた。ナイトハルトも乗り気になり、家庭教師を探してくれると言っていたのは記憶に新しい。が、まさかこんなにも早く決まるなんて――。

「変な輩をつけるわけにはいかないからな。選定などはしていない。レイモンドに任せることにした」

 レイモンドならば安心なのは間違いない。

 彼はナイトハルトから信頼されている。変なことをするとは思えない。

(それに、あの人穏やかそうだし)

 きつく叱ったりはしない――と、思いたい。あくまでも願望に過ぎないが。

「早速明日から来てもらう。マナーや常識などはアイツが教えてくれるだろう」

 明日からというのは、寝耳に水だった。けど、早いほうがいいのは間違いない。

「俺、頑張ります……!」

 学ぶ意思をしっかりとみせようと宣言すると、ナイトハルトの目が天翔に向く。

 彼は口元を緩めて、天翔に笑いかけてきた。

 心臓がどくんと音を鳴らす。どうしてなのだろうか。ナイトハルトに笑いかけられると――心臓がうるさくなる。

「あぁ、ぜひとも頑張れ。俺の婚約者さん?」

 最後の言葉は絶対にわざとだ。

 意地悪く歪んだ唇が物語っている。

(この人、本当に意地悪だ)

 そう思うのに――どうしてだろうか。天翔は彼のことを嫌いになることが出来ないでいた。

 ここに来てから、ずっと。
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