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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり

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(――はぁ!?)

 視界いっぱいに広がるナイトハルトの端正な顔。

 驚いて目を見開くと、熱いなにかが自身の唇を割る。それは天翔の口腔内に侵入した。

「んんっ、んぅ」

 抵抗しようと舌先を動かすと、逆に絡め取られてしまう。

 舌先をこすり合わせるように刺激され、天翔の意識が徐々にぼうっとする。

(なんだ、これ。気持ちいい……)

 頬の内側をつつかれて、舌の付け根を刺激された。

 小さな刺激で天翔の頭はくらくらとする。このままだと崩れ落ちてしまいそうだと、ナイトハルトの衣服にすがった。

(ぅ、背中、撫でられて――!)

 背骨をたどるようにナイトハルトの指が天翔の背中を撫でる。

 ただ撫でられているだけなのに、身体は反応する。全身が性感帯になったかのような感覚に、天翔は自分の身体がおかしくなったのではと心配してしまう。

 背中を撫でていた彼の手が移動して、今度は腰の辺りをつかんだ。

 彼の手がさらに下に降りようとしたのに気が付いて、本能的に身の危険を感じた。

「や、めっ!」

 ナイトハルトの胸を押す。なんとかして彼から逃げようともがくのに、彼は気にする様子もない。

 それどころか、彼の手が天翔の臀部に触れるから。身体の奥底から感じたことのない感覚に襲われる。

(これは、ダメだって)

 この感覚に身を委ねてしまうと、絶対に戻ることが出来なくなる。

 頭に浮かんだ心配に導かれるかのように、天翔はナイトハルトの口づけから逃れた。

「な、ナイトハルトさんっ!」

 ようやく解放され、若干涙を浮かべた目で彼をにらみつけた。

 彼は楽しそうに肩を揺らして笑っている。本当に意地が悪い。

「今後こういうことをされたくなかったら、面倒なことはやめるんだな」

 ナイトハルトがくつくつと喉を鳴らして笑う。心底楽しそうな姿に、天翔の中に怒りにも似た感情が沸きあがってきた。

「俺は、初めてだったんですけど?」

 自身の唇を指でなぞって、抗議する。ナイトハルトの目は「なにが?」とでも言いたげだった。

「キスっていうか、口づけ。俺、経験したことなかった」

 別にファーストキスに夢を見ている乙女ではないが、もっといろいろとあっただろう。

 ロマンティックなキスとか、愛し合った情熱的なキスとか――。

「ふぅん。アマトは本当にお子さまだな。キスなんて減るようなものじゃない。それに、初めてだろうが十回目だろうが大して変わらない」

 彼の言葉は正しい。ファーストキスなんて気持ちの問題でしかない。

 ナイトハルトはきっと何度もキスを経験していて、それ以上のこともやっていて。

 天翔と恋愛経験の差があるのは明白だった。だから、傷つく必要なんてないのに。

(俺は思い上がってたのかも)

 彼が甘やかしてくれるものだから。

 もしかしたら、愛されているのかも――なんて想像を無意識にしていたのかもしれない。

(出逢って二日目で恋するわけもないのにな)

 恋愛経験がないせいで、どういうものが恋愛なのかわからない。

 天翔にとってナイトハルトは今後どういう存在になるのか。そして、ナイトハルトにとって天翔がどういう存在になるのか。

 それはまだまだ想像もつかない。

 今後この関係がいい方向に変わることはあるのだろうか。

(きちんと線引きはしたほうがいいのかも)

 そうしないと、超えてはいけない一線をいつか超えてしまうような気がした。
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