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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり
⑮
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天翔の言葉を聞いたナイトハルトは、無言で視線を逸らした。
そのとき、タイミングよく部屋の扉がノックされる。開いた先にはテオがいる。
「昼食をお持ちいたしました。入ってもよろしいでしょうか?」
テオの問いかけにナイトハルトが了承の返事をすると、後ろから使用人たちが食事を運んできた。
昼食の内容は朝食よりも豪華で、見ているだけで楽しくもある。
使用人たちはてきぱきと食事の用意をして、去っていく。残ったのは朝食時同様テオだけだ。
「テオ、少し込みいった話をする。部屋の外に出ていろ」
ナイトハルトは当然のようにテオに指示を飛ばした。天翔は驚くものの、テオは頭を下げ、部屋を出ていく。
残されたのは当然のように天翔とナイトハルト。そして、美味しそうな食事たち。
「アマト。こっちに来い」
強引に腕を引かれ、食事が並ぶテーブルの側へと連れてこられてしまう。
ナイトハルトが一足先に椅子に腰かけた。それを見た天翔は対面の席に移動しようとしたが、ほかでもないナイトハルトに阻まれてしまう。
「こっちだ」
彼が示したのは、彼の隣の席だった。
テーブルは四人用だ。この量の食事はさすがに二人用のテーブルには乗りきらないためだろう。
「あの、お話がしにくくありませんか?」
二人ならば、対面に腰掛けるのが普通のはずだ。
天翔が戸惑いがちに声をかけると、彼はなにも言わずに天翔を見つめる。目力に押され、言われた通りに行動をする。
ナイトハルトが少し天翔のほうに近づいた。肩が触れてしまうような近い距離。天翔の心臓が早足になる。
彼の様子を窺うと、彼はさも当然のようにパンを手に取っていた。
食事を始めるのだと思い、天翔はフォークに手を伸ばそうとしたのだが――自身の口元にパンを押し付けられて、ぽかんとした。
「な、ナイトハルトさ――んぐ」
強引にパンを口に押し込まれた。吐き出すわけにもいかず、素直に咀嚼して呑み込むことしか出来ない。
「あの、なにを――んぐぅ」
話そうとすると、ナイトハルトは無理やり天翔の口にパンを押し付けてきた。
これでは話すことも出来そうにない。
「ちょ、待って――!」
「なんだ。なにが不満だ」
ようやくナイトハルトが天翔の口にパンを押し付けることをやめてくれた。
息を吐く間もなく、天翔はナイトハルトを見つめる。彼の目が天翔を見つめていた。
「口に合わないか?」
「とっても美味しいですけど!」
パンはふわふわだし、味付けも絶妙。口に合わないわけがない――と、今はそうじゃない。
「な、なんで俺にパンを食べさせるんですか!」
自分は人の手を借りないと食事を出来ない子供ではない。立派な成人男性である。
ナイトハルトもそこはわかってくれていたはずなのに。どうしていきなり。
「別に大した意味はない。世の恋人はこういうことをすると以前耳に挟んでいたから、やってみたくなっただけだ」
やってみたくなっただけ――で済むような問題だろうか?
(それに俺ら、別に恋人同士じゃないし)
婚約者ということにはなっているが、愛し合った関係ではない。
天翔の身を守るために仕方がなく結ばれた婚約のはずだ。
「俺ら、いつから恋人同士になりましたっけ?」
水の入ったコップを口に運んで、落ち着いて問いかけた。ナイトハルトはなにも言わなかった。
「その、無理に距離を縮めようとしなくて大丈夫です。見せかけだけの婚約者じゃないですか」
天翔はそれさえもまだ理解できていないが……。
「確かにそうだ。しかし、欺くためにはある程度の触れ合いは大切だ」
彼の言うことは、正論だ。間違いない。
(だからってなにも言わずに無言で食べさせてくるか――!?)
せめてなにか言ってくれたらよかったのに。
「それに、大体のやつは俺にこうされたら嬉しいって言ってたが」
「……自意識過剰、とも言えないんですよね」
そりゃあこれだけ顔の整った男で、王族なのだ。彼の特別になりたいと願った人は、多いだろう。天翔にもわかる。
そのとき、タイミングよく部屋の扉がノックされる。開いた先にはテオがいる。
「昼食をお持ちいたしました。入ってもよろしいでしょうか?」
テオの問いかけにナイトハルトが了承の返事をすると、後ろから使用人たちが食事を運んできた。
昼食の内容は朝食よりも豪華で、見ているだけで楽しくもある。
使用人たちはてきぱきと食事の用意をして、去っていく。残ったのは朝食時同様テオだけだ。
「テオ、少し込みいった話をする。部屋の外に出ていろ」
ナイトハルトは当然のようにテオに指示を飛ばした。天翔は驚くものの、テオは頭を下げ、部屋を出ていく。
残されたのは当然のように天翔とナイトハルト。そして、美味しそうな食事たち。
「アマト。こっちに来い」
強引に腕を引かれ、食事が並ぶテーブルの側へと連れてこられてしまう。
ナイトハルトが一足先に椅子に腰かけた。それを見た天翔は対面の席に移動しようとしたが、ほかでもないナイトハルトに阻まれてしまう。
「こっちだ」
彼が示したのは、彼の隣の席だった。
テーブルは四人用だ。この量の食事はさすがに二人用のテーブルには乗りきらないためだろう。
「あの、お話がしにくくありませんか?」
二人ならば、対面に腰掛けるのが普通のはずだ。
天翔が戸惑いがちに声をかけると、彼はなにも言わずに天翔を見つめる。目力に押され、言われた通りに行動をする。
ナイトハルトが少し天翔のほうに近づいた。肩が触れてしまうような近い距離。天翔の心臓が早足になる。
彼の様子を窺うと、彼はさも当然のようにパンを手に取っていた。
食事を始めるのだと思い、天翔はフォークに手を伸ばそうとしたのだが――自身の口元にパンを押し付けられて、ぽかんとした。
「な、ナイトハルトさ――んぐ」
強引にパンを口に押し込まれた。吐き出すわけにもいかず、素直に咀嚼して呑み込むことしか出来ない。
「あの、なにを――んぐぅ」
話そうとすると、ナイトハルトは無理やり天翔の口にパンを押し付けてきた。
これでは話すことも出来そうにない。
「ちょ、待って――!」
「なんだ。なにが不満だ」
ようやくナイトハルトが天翔の口にパンを押し付けることをやめてくれた。
息を吐く間もなく、天翔はナイトハルトを見つめる。彼の目が天翔を見つめていた。
「口に合わないか?」
「とっても美味しいですけど!」
パンはふわふわだし、味付けも絶妙。口に合わないわけがない――と、今はそうじゃない。
「な、なんで俺にパンを食べさせるんですか!」
自分は人の手を借りないと食事を出来ない子供ではない。立派な成人男性である。
ナイトハルトもそこはわかってくれていたはずなのに。どうしていきなり。
「別に大した意味はない。世の恋人はこういうことをすると以前耳に挟んでいたから、やってみたくなっただけだ」
やってみたくなっただけ――で済むような問題だろうか?
(それに俺ら、別に恋人同士じゃないし)
婚約者ということにはなっているが、愛し合った関係ではない。
天翔の身を守るために仕方がなく結ばれた婚約のはずだ。
「俺ら、いつから恋人同士になりましたっけ?」
水の入ったコップを口に運んで、落ち着いて問いかけた。ナイトハルトはなにも言わなかった。
「その、無理に距離を縮めようとしなくて大丈夫です。見せかけだけの婚約者じゃないですか」
天翔はそれさえもまだ理解できていないが……。
「確かにそうだ。しかし、欺くためにはある程度の触れ合いは大切だ」
彼の言うことは、正論だ。間違いない。
(だからってなにも言わずに無言で食べさせてくるか――!?)
せめてなにか言ってくれたらよかったのに。
「それに、大体のやつは俺にこうされたら嬉しいって言ってたが」
「……自意識過剰、とも言えないんですよね」
そりゃあこれだけ顔の整った男で、王族なのだ。彼の特別になりたいと願った人は、多いだろう。天翔にもわかる。
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