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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり
⑭
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身体を軽くゆすられているのがわかる。
天翔が自身の身体をゆする手をどけようと動くと、耳元で「アマト」とささやかれたのがわかった。
(この声、聞いていて心地いい……)
まだはっきりとしない意識の中、天翔は身じろいだ。
「アマト。一体いつまで寝てるんだ」
もう一度声をかけられる。さすがに起きないとダメか――と思ったとき、頬に冷たい感触。誰かの指だろう。
(なんか、優しいような――?)
撫でられて、天翔は頬を緩めていた。しかし、次に頬を思いきりつねられて、意識が一気に覚醒した。
「――ナイトハルトさん」
瞼を上げて一番に視界に入った男の名前を呼んだ。彼――ナイトハルトが呆れたような表情を見せる。
「さっさと起きろ。寝るなら寝台のほうに行け」
天翔を見下ろしたナイトハルトが冷たい声で命じてくる。
彼の言うことは正しい。ソファーは眠るための場所ではない。
「い、いえ、少しうとうとしてただけで」
「嘘を言うな。がっつり寝ていただろ」
――彼の言葉のほうがずっと正しかった。
「……すみません」
身を縮めて謝ると、ナイトハルトは天翔のすぐ横に腰を下ろす。彼の体勢はまるでふんぞり返っているかのようだ。
「別にどうでもいいけどな。テオが気を遣って起こさなかったんだろうし」
天翔が自身の身体を見下ろせば、身体には薄手の毛布がかけてあった。ナイトハルトの言葉を聞くに、テオがかけてくれたのだろう。本当に申し訳ない。
「お、お早いお帰りですね」
なにを言えばいいかわからず、天翔は素直に浮かんだ言葉を口にする。ナイトハルトは壁掛け時計を顎で示しながら、「もう昼過ぎてるぞ」と当然のように言った。
「本来の帰宅時間よりも少し遅いくらいだ。兄たちがしつこかったからな」
ナイトハルトがガシガシと髪の毛を掻いて、ぼやく。天翔はどう反応していいかわからず、黙っていることしか出来ない。
「昼食をここに運ばせる。アマトは身だしなみでも整えておけ」
「えっと、どこかおかしいですかね――?」
素直に問いかけてみると、ナイトハルトの手が天翔のほうに伸びてきた。
彼の指が天翔の髪の毛を撫でる。軽く手櫛で整えるような動きをした。
「寝癖がしっかりとついてるな。ま、別に使用人たちもそこまでは気にしないだろうけど」
「……そうですか」
「ただ、主たるもの使用人には立派な姿を見せておいたほうがいい」
ナイトハルトの考えは、彼が王族として生を受けたから生まれたものなのかもしれない。
なんてことを考えつつ、天翔は自分でも髪の毛を手櫛で整えた。
「ナイトハルトさんは、すごいですね」
無意識のうちに口が開いて、言葉をつむいでいた。ナイトハルトが驚いたように目を見開く。
「わ、悪い意味ではないです。ただ、純粋にすごいなって思って」
王族としての風格があるというか、なんというか――。
凛とした美しい花のようだ。まるで氷のような冷たさを放ち、誰にも媚びない。
手を伸ばしてもまったく届かなくて、もっともっと上へと行くような印象を抱かせている。
「……王族としての務めでしかない。当然のことだ」
ナイトハルトは天翔の言葉を「当然」だと言う。けど、それこそ本当にそう簡単に言えることではないと思う。
「俺は一般庶民だから、ナイトハルトさんの苦労はわかりません。でも、純粋にすごいなって思います」
どうしてこんな言葉が口から出てきたのかはわからない。
が、自分の溢れる気持ちを言葉にしたかったのだろう。気持ちは言葉にしないと伝わらない。
(俺は響也くんに気持ちを伝えられなくて苦しかった。もう、あんな思いはしたくない)
響也への気持ちにずっと苦しめられていた。簡単に口にしてはいけない感情だった。
でも、いや、だからこそ。ナイトハルトには素直な気持ちを伝えたいと思ったのかもしれない。
天翔が自身の身体をゆする手をどけようと動くと、耳元で「アマト」とささやかれたのがわかった。
(この声、聞いていて心地いい……)
まだはっきりとしない意識の中、天翔は身じろいだ。
「アマト。一体いつまで寝てるんだ」
もう一度声をかけられる。さすがに起きないとダメか――と思ったとき、頬に冷たい感触。誰かの指だろう。
(なんか、優しいような――?)
撫でられて、天翔は頬を緩めていた。しかし、次に頬を思いきりつねられて、意識が一気に覚醒した。
「――ナイトハルトさん」
瞼を上げて一番に視界に入った男の名前を呼んだ。彼――ナイトハルトが呆れたような表情を見せる。
「さっさと起きろ。寝るなら寝台のほうに行け」
天翔を見下ろしたナイトハルトが冷たい声で命じてくる。
彼の言うことは正しい。ソファーは眠るための場所ではない。
「い、いえ、少しうとうとしてただけで」
「嘘を言うな。がっつり寝ていただろ」
――彼の言葉のほうがずっと正しかった。
「……すみません」
身を縮めて謝ると、ナイトハルトは天翔のすぐ横に腰を下ろす。彼の体勢はまるでふんぞり返っているかのようだ。
「別にどうでもいいけどな。テオが気を遣って起こさなかったんだろうし」
天翔が自身の身体を見下ろせば、身体には薄手の毛布がかけてあった。ナイトハルトの言葉を聞くに、テオがかけてくれたのだろう。本当に申し訳ない。
「お、お早いお帰りですね」
なにを言えばいいかわからず、天翔は素直に浮かんだ言葉を口にする。ナイトハルトは壁掛け時計を顎で示しながら、「もう昼過ぎてるぞ」と当然のように言った。
「本来の帰宅時間よりも少し遅いくらいだ。兄たちがしつこかったからな」
ナイトハルトがガシガシと髪の毛を掻いて、ぼやく。天翔はどう反応していいかわからず、黙っていることしか出来ない。
「昼食をここに運ばせる。アマトは身だしなみでも整えておけ」
「えっと、どこかおかしいですかね――?」
素直に問いかけてみると、ナイトハルトの手が天翔のほうに伸びてきた。
彼の指が天翔の髪の毛を撫でる。軽く手櫛で整えるような動きをした。
「寝癖がしっかりとついてるな。ま、別に使用人たちもそこまでは気にしないだろうけど」
「……そうですか」
「ただ、主たるもの使用人には立派な姿を見せておいたほうがいい」
ナイトハルトの考えは、彼が王族として生を受けたから生まれたものなのかもしれない。
なんてことを考えつつ、天翔は自分でも髪の毛を手櫛で整えた。
「ナイトハルトさんは、すごいですね」
無意識のうちに口が開いて、言葉をつむいでいた。ナイトハルトが驚いたように目を見開く。
「わ、悪い意味ではないです。ただ、純粋にすごいなって思って」
王族としての風格があるというか、なんというか――。
凛とした美しい花のようだ。まるで氷のような冷たさを放ち、誰にも媚びない。
手を伸ばしてもまったく届かなくて、もっともっと上へと行くような印象を抱かせている。
「……王族としての務めでしかない。当然のことだ」
ナイトハルトは天翔の言葉を「当然」だと言う。けど、それこそ本当にそう簡単に言えることではないと思う。
「俺は一般庶民だから、ナイトハルトさんの苦労はわかりません。でも、純粋にすごいなって思います」
どうしてこんな言葉が口から出てきたのかはわからない。
が、自分の溢れる気持ちを言葉にしたかったのだろう。気持ちは言葉にしないと伝わらない。
(俺は響也くんに気持ちを伝えられなくて苦しかった。もう、あんな思いはしたくない)
響也への気持ちにずっと苦しめられていた。簡単に口にしてはいけない感情だった。
でも、いや、だからこそ。ナイトハルトには素直な気持ちを伝えたいと思ったのかもしれない。
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