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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり
⑫
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◇◇◇
その後、天翔はテオに案内され、図書室に足を踏み入れた。
図書室には本の香りが漂っていて、少し気持ちが落ち着く。きっと、本の香りは元の世界と大差がないからだろう。
「どういったものをご所望ですか?」
テオが問いかけてくる。
少し悩んで、天翔は口を開いた。
「この国の簡単な歴史書――みたいなのない?」
この世界のことを一刻も早く知りたい。
(かといって、難しいものだと読めないよな……)
そもそも文字が読めるかもわからないのだ。いきなり文献などを出されたところで、読めないのは間違いない。
「さようでございますね。そういえば、子供向けのものがあったかと」
「へぇ」
「子供が歴史に興味を持つために作成されたものですので、詳しくは載っていませんが」
テオは眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
が、天翔にとって入門書らしいものは本当にありがたい。
「それがいい。俺、この世界の文字が読めるかもわかんないし」
「そうでございましたね。言葉が通じるので、失念しておりました」
テオの言うことももっともだろう。言葉が通じているのならば、文字も読める――と解釈してもおかしくはない。
「では、用意してきますね。アマトさまはあちらでお座りになってお待ちくださいませ」
「え、いや。けどさ……」
天翔の欲しいものなのに、テオに用意させるのは申し訳ない。
「これも従者の仕事の一つですので。どうぞ」
テオは天翔をソファーのほうに押していく。さすがにここまでされてしまうと、天翔も逆らうことはできなかった。
渋々ソファーに腰を下ろして、本棚の奥に消えていくテオを見送る。
「外も、見えるんだな」
すぐそばには窓がある。大きな窓ではないが、外を見るには十分だった。
身を乗り出して、天翔は外の景色を眺めてみる。
美しい青空。そしてなによりも目を引くのは――真正面に立つ大きな宮殿。
まるで外国の建造物のようだった。写真の中でしか見たことがない建造物がこの場にある。
「本当にここは異世界なんだな……」
外を見ると、ここが異世界だと思い知らされてしまう。
到底日本ではお目にかかれない景色だ。外国でも、ここまでの国はないだろう。
豊かな自然と、美しい建築物。ミスマッチにも思えるのに、上手くかみ合っている。
「アマトさま――と」
テオが戻って来たらしい。彼が天翔に声をかけてくる。
だからこそ、天翔はテオに視線を向けた。
「……外を、見ていらっしゃったのですか?」
テオが問いかけてくる。その表情は、どこか苦しそうだ。
「うん、まぁね。綺麗だなぁって」
言葉がこぼれた。天翔の視線はまた外に戻る。テオが隣に立ったのがわかった。
「このシュタルク王国は資源が豊かなのです。国土も広く、魔法等の技術も発達しています」
「へぇ」
「ただ、それゆえに――でしょうか。他国に狙われることも多々あるのです」
「……そうなんだ」
天翔はうなずくことしか出来なかった。
自分はまだなにも知らない。だから、変に口を挟むことはできなかった。
「先代の国王陛下の頃は、周辺国と平和条約を結んでいました。なので、まだよかったのですが……」
「テオ?」
彼の様子がおかしい。
天翔は声をかけてみた。テオはハッとして、天翔に笑いかけてくる。
「いえ、なんでもありません。さぁ、お戻りになりましょう。立てますか?」
なにもそこまで至れり尽くせりしなくてもいいだろうに。
テオが手を伸ばそうとしたので、それよりも先に天翔はソファーから下りる。
「本、重くない?」
「大丈夫ですよ。従者なので、力仕事には慣れています」
テオの様子は出逢った頃と変わりない。
(先ほどの苦しそうな声は、気のせいだったのか――?)
まるで喉に小骨が刺さったかのような感覚だった。
気持ち悪いのに――どうすることもできない。天翔は声をかけようとして、言葉を呑み込んだ。
その後、天翔はテオに案内され、図書室に足を踏み入れた。
図書室には本の香りが漂っていて、少し気持ちが落ち着く。きっと、本の香りは元の世界と大差がないからだろう。
「どういったものをご所望ですか?」
テオが問いかけてくる。
少し悩んで、天翔は口を開いた。
「この国の簡単な歴史書――みたいなのない?」
この世界のことを一刻も早く知りたい。
(かといって、難しいものだと読めないよな……)
そもそも文字が読めるかもわからないのだ。いきなり文献などを出されたところで、読めないのは間違いない。
「さようでございますね。そういえば、子供向けのものがあったかと」
「へぇ」
「子供が歴史に興味を持つために作成されたものですので、詳しくは載っていませんが」
テオは眉を下げて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
が、天翔にとって入門書らしいものは本当にありがたい。
「それがいい。俺、この世界の文字が読めるかもわかんないし」
「そうでございましたね。言葉が通じるので、失念しておりました」
テオの言うことももっともだろう。言葉が通じているのならば、文字も読める――と解釈してもおかしくはない。
「では、用意してきますね。アマトさまはあちらでお座りになってお待ちくださいませ」
「え、いや。けどさ……」
天翔の欲しいものなのに、テオに用意させるのは申し訳ない。
「これも従者の仕事の一つですので。どうぞ」
テオは天翔をソファーのほうに押していく。さすがにここまでされてしまうと、天翔も逆らうことはできなかった。
渋々ソファーに腰を下ろして、本棚の奥に消えていくテオを見送る。
「外も、見えるんだな」
すぐそばには窓がある。大きな窓ではないが、外を見るには十分だった。
身を乗り出して、天翔は外の景色を眺めてみる。
美しい青空。そしてなによりも目を引くのは――真正面に立つ大きな宮殿。
まるで外国の建造物のようだった。写真の中でしか見たことがない建造物がこの場にある。
「本当にここは異世界なんだな……」
外を見ると、ここが異世界だと思い知らされてしまう。
到底日本ではお目にかかれない景色だ。外国でも、ここまでの国はないだろう。
豊かな自然と、美しい建築物。ミスマッチにも思えるのに、上手くかみ合っている。
「アマトさま――と」
テオが戻って来たらしい。彼が天翔に声をかけてくる。
だからこそ、天翔はテオに視線を向けた。
「……外を、見ていらっしゃったのですか?」
テオが問いかけてくる。その表情は、どこか苦しそうだ。
「うん、まぁね。綺麗だなぁって」
言葉がこぼれた。天翔の視線はまた外に戻る。テオが隣に立ったのがわかった。
「このシュタルク王国は資源が豊かなのです。国土も広く、魔法等の技術も発達しています」
「へぇ」
「ただ、それゆえに――でしょうか。他国に狙われることも多々あるのです」
「……そうなんだ」
天翔はうなずくことしか出来なかった。
自分はまだなにも知らない。だから、変に口を挟むことはできなかった。
「先代の国王陛下の頃は、周辺国と平和条約を結んでいました。なので、まだよかったのですが……」
「テオ?」
彼の様子がおかしい。
天翔は声をかけてみた。テオはハッとして、天翔に笑いかけてくる。
「いえ、なんでもありません。さぁ、お戻りになりましょう。立てますか?」
なにもそこまで至れり尽くせりしなくてもいいだろうに。
テオが手を伸ばそうとしたので、それよりも先に天翔はソファーから下りる。
「本、重くない?」
「大丈夫ですよ。従者なので、力仕事には慣れています」
テオの様子は出逢った頃と変わりない。
(先ほどの苦しそうな声は、気のせいだったのか――?)
まるで喉に小骨が刺さったかのような感覚だった。
気持ち悪いのに――どうすることもできない。天翔は声をかけようとして、言葉を呑み込んだ。
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