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第1部 第2章 異世界での生活は戸惑いばかり
⑥
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◇◇◇
朝食を終え、出掛ける準備をすると言い残しナイトハルトは部屋を出て行った。
天翔はテオが用意してくれた食後のお茶を飲む。
(テオさんもきれいな人だなぁ)
青色の肩の上までの短い髪。エメラルド色の目は吊り上がっているが、顔立ちや雰囲気のためか怖くはない。
むしろ優しそうにも感じるほどだ。
「アマトさま。なにかありましたら、些細なことでも申し付けてくださいませ」
テオを見つめていると、彼が言葉をつむいで頭を下げた。
もしかしたら、彼は天翔が遠慮していると思ったのかもしれない。
「いえ、少し考え事をしていただけで」
カップの中で揺らめく水面を見つめる。水面には戸惑ったような表情を浮かべる天翔自身が映っていた。
「考え事、ですか?」
「はい。全部がいきなりで、俺の頭がついてこなくて」
苦笑を浮かべつつ、天翔はカップを口に運んだ。ほんのりとレモンの味が口に広がる。好みの味だったこともあり、落ち着いた。
「さようでございますか。お――私には想像がつかないことですが」
今一瞬、テオは自分のことを『俺』と言おうとしたのだろう。彼が慌てて一人称を直すところが面白く、天翔はくすっと笑う。
「ナイトハルトさんの方針はわからないですが、俺の前では自然でいてください」
天翔の言葉にテオが驚愕の表情を浮かべる。
――もしかして、迷惑だっただろうか?
「その、今後俺はテオさんにたくさんお世話になると思うので。少しでも楽にしてほしいです」
付け足した言葉はわざとらしいだろうか? 恩着せがましいだろうか?
迷う天翔だったがしばらくしてテオが頷く。
「では、楽にさせていただきます。ただ、主と従者という関係である以上、敬語は抜けませんが……」
「そこまですると、ナイトハルトさんに怒られそうですもんね」
天翔にはナイトハルトの怒る様子が容易に想像できた。あの美しい風貌に迫力をまとい怒るのだろう。
想像するだけで恐ろしい。
「そうですよ。あと、俺からも一つ。アマトさまも俺の前では楽にしてください」
テオが真剣な表情で天翔に告げた。
「今後アマトさまには、その。詳しくは言えませんが、色々とあります。ナイトハルトさまのことを信頼するのはもちろん、俺のことも信頼してほしいです」
「テオさん」
「もしナイトハルトさまに相談できないことがあれば、俺が乗ります。できれば主従である以上に、友人として関わっていただきたく」
言葉を探す様子を見せつつ、テオは言い切った。天翔は彼の気遣いが嬉しい。
孤独な異世界。友人が一人いるのといないのとでは大違いだ。
(ナイトハルトさんがテオさんのことを信頼しているんだったら、俺も信頼したい)
もちろん、完全に気を許すことはまだ出来ないだろう。ただゆっくりと。ゆっくりと彼と心を通わせたい。
「じゃあ、楽に話させてもらうんだけど」
「はい」
「ひとまず、テオって呼んでもいい?」
友人になるのならば、呼び方も変えるべきだ。
呼び捨ての許可を求めると、テオは嬉しそうに頷いた。
「はい、アマトさま」
「出来たら俺もさま付けはやめてほしいんだけど、無理だよね」
彼の主は天翔ではなくナイトハルト。ナイトハルトの許可が出ないと、テオには呼び方を変えることは出来ないだろう。
そして、ナイトハルトがこのお願いを聞く可能性はゼロに近い。
(あの人、プライドが高そうだし)
少し関わっただけでわかる。彼は自分自身に圧倒的な自信を持ち、高いプライドを持っていると。
そもそも王弟ということは、支配者階級の生まれ。一般庶民の天翔の考えなど理解できなくても無理はない。
「残念ながら、それは無理でございます」
「だよねぇ」
テオと話しているとちょっとだけ肩の力を抜くことが出来た。
どうしてもナイトハルトといると肩の力が抜けないというか――落ち着かない。
朝食を終え、出掛ける準備をすると言い残しナイトハルトは部屋を出て行った。
天翔はテオが用意してくれた食後のお茶を飲む。
(テオさんもきれいな人だなぁ)
青色の肩の上までの短い髪。エメラルド色の目は吊り上がっているが、顔立ちや雰囲気のためか怖くはない。
むしろ優しそうにも感じるほどだ。
「アマトさま。なにかありましたら、些細なことでも申し付けてくださいませ」
テオを見つめていると、彼が言葉をつむいで頭を下げた。
もしかしたら、彼は天翔が遠慮していると思ったのかもしれない。
「いえ、少し考え事をしていただけで」
カップの中で揺らめく水面を見つめる。水面には戸惑ったような表情を浮かべる天翔自身が映っていた。
「考え事、ですか?」
「はい。全部がいきなりで、俺の頭がついてこなくて」
苦笑を浮かべつつ、天翔はカップを口に運んだ。ほんのりとレモンの味が口に広がる。好みの味だったこともあり、落ち着いた。
「さようでございますか。お――私には想像がつかないことですが」
今一瞬、テオは自分のことを『俺』と言おうとしたのだろう。彼が慌てて一人称を直すところが面白く、天翔はくすっと笑う。
「ナイトハルトさんの方針はわからないですが、俺の前では自然でいてください」
天翔の言葉にテオが驚愕の表情を浮かべる。
――もしかして、迷惑だっただろうか?
「その、今後俺はテオさんにたくさんお世話になると思うので。少しでも楽にしてほしいです」
付け足した言葉はわざとらしいだろうか? 恩着せがましいだろうか?
迷う天翔だったがしばらくしてテオが頷く。
「では、楽にさせていただきます。ただ、主と従者という関係である以上、敬語は抜けませんが……」
「そこまですると、ナイトハルトさんに怒られそうですもんね」
天翔にはナイトハルトの怒る様子が容易に想像できた。あの美しい風貌に迫力をまとい怒るのだろう。
想像するだけで恐ろしい。
「そうですよ。あと、俺からも一つ。アマトさまも俺の前では楽にしてください」
テオが真剣な表情で天翔に告げた。
「今後アマトさまには、その。詳しくは言えませんが、色々とあります。ナイトハルトさまのことを信頼するのはもちろん、俺のことも信頼してほしいです」
「テオさん」
「もしナイトハルトさまに相談できないことがあれば、俺が乗ります。できれば主従である以上に、友人として関わっていただきたく」
言葉を探す様子を見せつつ、テオは言い切った。天翔は彼の気遣いが嬉しい。
孤独な異世界。友人が一人いるのといないのとでは大違いだ。
(ナイトハルトさんがテオさんのことを信頼しているんだったら、俺も信頼したい)
もちろん、完全に気を許すことはまだ出来ないだろう。ただゆっくりと。ゆっくりと彼と心を通わせたい。
「じゃあ、楽に話させてもらうんだけど」
「はい」
「ひとまず、テオって呼んでもいい?」
友人になるのならば、呼び方も変えるべきだ。
呼び捨ての許可を求めると、テオは嬉しそうに頷いた。
「はい、アマトさま」
「出来たら俺もさま付けはやめてほしいんだけど、無理だよね」
彼の主は天翔ではなくナイトハルト。ナイトハルトの許可が出ないと、テオには呼び方を変えることは出来ないだろう。
そして、ナイトハルトがこのお願いを聞く可能性はゼロに近い。
(あの人、プライドが高そうだし)
少し関わっただけでわかる。彼は自分自身に圧倒的な自信を持ち、高いプライドを持っていると。
そもそも王弟ということは、支配者階級の生まれ。一般庶民の天翔の考えなど理解できなくても無理はない。
「残念ながら、それは無理でございます」
「だよねぇ」
テオと話しているとちょっとだけ肩の力を抜くことが出来た。
どうしてもナイトハルトといると肩の力が抜けないというか――落ち着かない。
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