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第1部 第1章 失恋したら異世界に転移しました
⑥
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興奮したように天翔がナイトハルトに詰め寄る。彼はなにも言わない。唖然としているようだ。
さらに、彼は顎に手を当てて考え始める。……もしかしてだが、相当年下だと思われていたのではないだろうか?
「あの聞くのは怖いんですが。俺のことを何歳くらいだと思ってました?」
戸惑いを隠すことなく天翔が問いかける。すると、ナイトハルトの瞳が天翔を捉えた。
目に宿っているのは困惑の感情だろうか。嘘を言っているのではないか。視線だけで問いかけてくるようだ。
「そうだなぁ。十五か十六が妥当だと思っていた」
彼の紡ぎ出した言葉に、天翔は呆然とする。十五、十六ということは、大体高校一年生だろう。
(俺って高校生だと思われてたのかよ!)
不本意もいいところである。
天翔はこれでも二十歳だ。お酒だって飲むことが可能な年齢。
とはいっても、かなり弱いので飲むことは滅多にないのだが。
「二十歳だったとしても、童顔は対象外だ。悪いな」
どうしてだろうか。
まるで、告白して振られているかのようだ。
天翔は告白などしていないというのに――。
対するナイトハルトはどこまでも余裕たっぷりである。無性に腹が立つような感覚に襲われてしまった。
「そんなこんなは今は置いておこう」
置いておくことが可能な話なのだろうか?
天翔は頭に一瞬だけ浮かんだ考えを、頭を振って打ち消す。
「俺はキミを心の底から歓迎しているよ。――異世界の人」
ナイトハルトが天翔の手を取り、手の甲にキスを落とす。
(これは彼なりのあいさつ、この国のあいさつだ――!)
動揺を押し殺して、天翔は冷静さを取り戻そうとした。
(ってか、異世界に来たっていっても、そもそも俺はどんな理由で――?)
ライトノベルや漫画などであれば、理由は明言してあるだろう。
たとえば、異世界で行われた召喚の儀式に巻き込まれたや、事故に遭った際に偶然転移するなど。
(俺が転移した先はベッドの上、魔法陣みたいなものはなさそうだ。それに事故に遭った覚えもない)
転移した理由が全く思い浮かばなかった。
ナイトハルトに聞いてみようか?
ちらりと彼に視線を向けてみるものの、彼が素直に教える保証などない。
(自分で調べるしかないか?)
そうは思うが、まずここが現実とは限らない。
明日の朝目覚めれば、普通の日常に戻っている可能性もゼロじゃない。
唇の感触も痛みもやたらとリアルで、現実味はあるのだが――。
(かといって、夢と信じることしか今の俺には出来ないよな)
じゃないと、異世界に転移なんて緊急事態に天翔の頭はついてこない。
「――これは、夢だ」
天翔がボソッとつぶやいた。
ナイトハルトがぱちぱちと目を瞬かせる。どうやら、彼にも聞こえていたらしい。
「夢じゃないよ」
彼が笑って天翔に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「夢じゃない。これは現実。アマトはこの世界で生きるしかないんだ」
まるでもう二度と元の世界には戻れないと言っているようにも聞こえる。
「だから――そう、あきらめて」
美しい笑顔でナイトハルトは信じられないことを告げてくる。
「……俺、そんな簡単に全部を割り切れません」
天翔の返事は、自身でも驚くほどに深刻そうだった。
当然だろう。たとえ失恋し、この世界からいなくなりたいと願っていたとしても。
いきなり異世界に転移し、生活しろと言われ「はい、そうですか」と言えるわけがない。元の世界に帰りたいと思えないのとは別問題だ。
「そっか。じゃあ、とりあえず寝よう」
「――は?」
天翔の深刻さとは裏腹に、ナイトハルトの声は世間話でも話すかのようだ。
彼はカップに残っていたハーブティーを飲み干すと、羽織っていた上着を脱ぎ捨て、再度上半身裸になる。
「ぎゃああっ!」
口から出たのはこれでもかというほどに驚愕の感情を宿した、汚い悲鳴だった。
「一々驚くな。慣れて」
「慣れてって言われましても!」
慣れることはないのだろう。
天翔は急いで目元を手で覆った。瞬間、ふわりと身体が宙に浮く。
(――え?)
目を開けて、天翔は自分の状態を確認する。
――どうやら、ナイトハルトに横抱きにされているようだった。
(お、お姫さま抱っこ!)
実感して、羞恥心が芽生えて膨れ上がる。
誰も見ていないとはいえ、この状態が恥ずかしいということはよくわかる。
「おろして、おろしてください!」
成人した男がお姫さま抱っこされているなど、どんな拷問だろうか?
さらに、彼は顎に手を当てて考え始める。……もしかしてだが、相当年下だと思われていたのではないだろうか?
「あの聞くのは怖いんですが。俺のことを何歳くらいだと思ってました?」
戸惑いを隠すことなく天翔が問いかける。すると、ナイトハルトの瞳が天翔を捉えた。
目に宿っているのは困惑の感情だろうか。嘘を言っているのではないか。視線だけで問いかけてくるようだ。
「そうだなぁ。十五か十六が妥当だと思っていた」
彼の紡ぎ出した言葉に、天翔は呆然とする。十五、十六ということは、大体高校一年生だろう。
(俺って高校生だと思われてたのかよ!)
不本意もいいところである。
天翔はこれでも二十歳だ。お酒だって飲むことが可能な年齢。
とはいっても、かなり弱いので飲むことは滅多にないのだが。
「二十歳だったとしても、童顔は対象外だ。悪いな」
どうしてだろうか。
まるで、告白して振られているかのようだ。
天翔は告白などしていないというのに――。
対するナイトハルトはどこまでも余裕たっぷりである。無性に腹が立つような感覚に襲われてしまった。
「そんなこんなは今は置いておこう」
置いておくことが可能な話なのだろうか?
天翔は頭に一瞬だけ浮かんだ考えを、頭を振って打ち消す。
「俺はキミを心の底から歓迎しているよ。――異世界の人」
ナイトハルトが天翔の手を取り、手の甲にキスを落とす。
(これは彼なりのあいさつ、この国のあいさつだ――!)
動揺を押し殺して、天翔は冷静さを取り戻そうとした。
(ってか、異世界に来たっていっても、そもそも俺はどんな理由で――?)
ライトノベルや漫画などであれば、理由は明言してあるだろう。
たとえば、異世界で行われた召喚の儀式に巻き込まれたや、事故に遭った際に偶然転移するなど。
(俺が転移した先はベッドの上、魔法陣みたいなものはなさそうだ。それに事故に遭った覚えもない)
転移した理由が全く思い浮かばなかった。
ナイトハルトに聞いてみようか?
ちらりと彼に視線を向けてみるものの、彼が素直に教える保証などない。
(自分で調べるしかないか?)
そうは思うが、まずここが現実とは限らない。
明日の朝目覚めれば、普通の日常に戻っている可能性もゼロじゃない。
唇の感触も痛みもやたらとリアルで、現実味はあるのだが――。
(かといって、夢と信じることしか今の俺には出来ないよな)
じゃないと、異世界に転移なんて緊急事態に天翔の頭はついてこない。
「――これは、夢だ」
天翔がボソッとつぶやいた。
ナイトハルトがぱちぱちと目を瞬かせる。どうやら、彼にも聞こえていたらしい。
「夢じゃないよ」
彼が笑って天翔に言い聞かせるように言葉を紡いだ。
「夢じゃない。これは現実。アマトはこの世界で生きるしかないんだ」
まるでもう二度と元の世界には戻れないと言っているようにも聞こえる。
「だから――そう、あきらめて」
美しい笑顔でナイトハルトは信じられないことを告げてくる。
「……俺、そんな簡単に全部を割り切れません」
天翔の返事は、自身でも驚くほどに深刻そうだった。
当然だろう。たとえ失恋し、この世界からいなくなりたいと願っていたとしても。
いきなり異世界に転移し、生活しろと言われ「はい、そうですか」と言えるわけがない。元の世界に帰りたいと思えないのとは別問題だ。
「そっか。じゃあ、とりあえず寝よう」
「――は?」
天翔の深刻さとは裏腹に、ナイトハルトの声は世間話でも話すかのようだ。
彼はカップに残っていたハーブティーを飲み干すと、羽織っていた上着を脱ぎ捨て、再度上半身裸になる。
「ぎゃああっ!」
口から出たのはこれでもかというほどに驚愕の感情を宿した、汚い悲鳴だった。
「一々驚くな。慣れて」
「慣れてって言われましても!」
慣れることはないのだろう。
天翔は急いで目元を手で覆った。瞬間、ふわりと身体が宙に浮く。
(――え?)
目を開けて、天翔は自分の状態を確認する。
――どうやら、ナイトハルトに横抱きにされているようだった。
(お、お姫さま抱っこ!)
実感して、羞恥心が芽生えて膨れ上がる。
誰も見ていないとはいえ、この状態が恥ずかしいということはよくわかる。
「おろして、おろしてください!」
成人した男がお姫さま抱っこされているなど、どんな拷問だろうか?
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