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終章

大好きな旦那様と子供たちと

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 あれから、さらには五年が経ち。

 ローデリヒは五歳を迎えた。その下には三つ下の妹ハイデマリーがいる。

 ローデリヒは将来騎士になりたいと言っており、使用人たちと一緒に騎士の真似事などをして遊んでいる。

 比べハイデマリーは少々甘えん坊な子供であり、両親にべったりだ。

「まま。まりー、ぱぱのところにいく」

 この日も、ハイデマリーは庭でのお茶に早々に飽きてしまったらしい。ローゼのワンピースの裾をちょんと持って、そんな主張をしてくる。

「だーめ。パパももう少ししたらこっちに来られるから、ママと一緒にいい子で待っていようね」

 ハイデマリーのことを抱きかかえ、ローゼがそう声をかける。

 二歳を迎えたハイデマリーは、徐々に自我が芽生えつつある。その所為なのか、最近ではわがままが増えた。

(でも、そういうところも愛おしいのよね……)

 ハイデマリーはローゼにそっくりだ。その所為なのか、イグナーツはハイデマリーにすこぶる甘い。

 そもそも、彼は娘という時点で溺愛しているだろう。そこにローゼにそっくりという要素が加われば……溺愛しないわけがなかった。

 ハイデマリー自身も父親を好いているらしく、度々執務室に行くと駄々をこねる。もちろん、行けないときも多いのだが。

(私も、もうそろそろ復帰を……と、思ったのだけれど)

 ローゼはハイデマリーがある程度成長すれば、騎士団で相談役として復帰するつもりだった。

 相談役とは、犯罪被害に遭った人たちのケアに当たる役職だ。そして、ほんの二年前にイグナーツが周囲を説得して作った役職でもある。

 しかし、その相談役は市民から幅広く頼られており、今では騎士団になくてはならない存在となっている。

 特に女性の相談役がとても頼られており、王国が掲げる女性の社会進出にも役立っていた。

(でも、まだもう少し先になりそうかも)

 自身の腹を撫でながら、ローゼはハイデマリーの質問に答えていく。

 最近のハイデマリーは好奇心が旺盛であり、「これなに」「あれなに」と問いかけてくるのだ。もちろん、答えられないときもあるが、その場合は有能な使用人たちが代わりに答えてくれていた。

「まま~」

 ハイデマリーがローゼに笑いかけてくる。その笑みがとても愛おしくて、ローゼはハイデマリーのそのぷにぷにとした頬に口づける。

「ハイデマリーは、とっても可愛いわ」
「えへへ」

 ローゼの言葉が満更でもないのか、ハイデマリーは笑う。

 そうしていれば、遠くから足音が聞こえてきた。それに気が付いたハイデマリーが、「ぱぱ!」と声を上げる。

「……ローゼ、悪い。遅くなった」
「いえ、大変なのは承知しております」

 イグナーツの言葉に、ローゼはそう返す。

 イグナーツは半年ほど前に騎士団の前線を引退した。今では後方部隊、それから指導役として騎士団になくてはならない存在だ。

「そういえば、ローゼ。……最近体調が悪そうだったが、外に出ても大丈夫なのか?」

 ふと彼がそう問いかけてくるので、ローゼは笑ってしまった。……なんだか、鋭いようで鈍い人だ。

「えぇ、問題ないの。実は……」

 イグナーツを手招きして、彼の耳元で体調不良の理由を話す。すると、彼の目が見る見るうちに見開いていく。

「……そう、か」
「えぇ、騎士団で相談役として復帰するのは、またもう少し先になりそう」

 そう思っても、嫌じゃない。

「周りには、話してあるのか?」
「えぇ、近しい使用人には話したわ」
「……そうか」

 何だろうか。やはり一番にイグナーツに報告したいと思っていた。しかし、こればかりは準備があるのだ。近しい侍女やメイドに話すのがどうしても先になってしまう。

「次は、男だろうか。女、だろうか」
「どっちでもいいわ。……この子たちみたいに、元気に産まれて育ってくれたら、私は満足だもの」
「……そうだな」

 笑い合っていれば、ハイデマリーがきょとんとしている。なので、ローゼは彼女の手を取って自身の腹に触れさせた。

「ハイデマリー。あのね、あなたはお姉ちゃんになるのよ」
「……ふぇ?」
「ママのお腹に、赤ちゃんがいるの」

 はっきりとそう言えば、ローゼそっくりなハイデマリーの顔が驚愕に変わる。

 その表情が何だかおかしくて。だけど、どうしようもないほどに愛おしくて。

 ローゼはハイデマリーのことを抱きしめた。そうしていれば、遠くからローデリヒが駆けてくる。

「父さん、母さん。どうしたの?」
「いえ、あのね。母さんのお腹の中に、赤ちゃんがいるっていうお話よ」

 笑ってそう伝えれば、ローデリヒも驚いたような表情をした。けれど、その表情は何処となく嬉しそうだ。

「次は弟? それとも、妹?」
「さぁ、まだわからないわ」

 ローデリヒの問いかけにそう返せば、彼は嬉しそうに笑った。

「僕、どっちでもいいから。いいお兄ちゃんになる!」

 きらきらとした目で、ローデリヒがそう言う。その言葉を聞いたためなのか、ハイデマリーも「まりーも!」と言っていた。

「二人とも、ありがとう。……ママ、頑張るからね」

 愛おしい夫と、可愛い二人の……いや、三人の子供たち。

 ローゼは、途方もなく幸せだ。

 初めは契約的な結婚だった。だが、今は――幸せいっぱいの、家族になった。

「イグナーツ様、好きですよ」

 イグナーツの顔を見上げて、笑いかける。彼は、一瞬だけきょとんとしていた。……こういう表情は、本当にローデリヒにそっくりだ。

「……俺、もだ」

 その後、小さな声で彼はそう返してくれた。そういうところも――途方もなく、大好きだ。

 ローゼは、そう思うのだった。



【END】
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