【完結】【R18】跡継ぎが生まれたら即・離縁! なのに訳あり女嫌い伯爵さまが甘すぎます!

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第5章

妹との久々の対面 2

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 ローゼがエリーと会うことが出来たのは、手紙を出した五日後だった。

「うわぁ、姉さんはこんな立派なおうちの奥様をしているのね!」

 エリーがそう声を上げる。せっかくだからと、ローゼはマッテス伯爵邸にエリーを招待した。

 もちろん、イグナーツに許可は得ている。

(イグナーツ様は好きにしていいとおっしゃっていたけれど……)

 本来ならばイグナーツもエリーに会って説明をしたいと言ってくれていた。が、生憎騎士団のほうでトラブルが発生し、彼はその始末に駆り出されてしまった。騎士団長も、大変である。

「こっちには、噴水もあるのよ」
「……ほぇ」
「今日は、庭園でお茶をしましょう」

 そう声をかけて、ローゼは歩き出す。マッテス伯爵邸にある庭園は、お茶会を開くことを想定されて広々と造られている。

 一流の庭師たちが、日々手入れを欠かさない庭は大層美しい。

 お茶会用のテーブルに向かう。テーブルの上には、色とりどりのお菓子が並べられていた。

 日差しを遮る日傘の色は、白だ。

 ローゼとエリーが椅子に腰を下ろせば、侍女たちが素早くお茶を淹れてくれた。

「……なんだか、別世界みたい」

 ボソッと、エリーがそんな言葉を零した。

「なんだろ。……なんていうか」
「うん」
「こんなおうち、今まで私たちには縁遠かったのに」

 苦笑を浮かべて、エリーはそう言った。だからこそ、ローゼは頷いた。

「私も、まさか伯爵家に嫁ぐことになるとは、思わなかったわ」

 とはいっても、これはまだまだ契約結婚なのだけれど。

 心の中でそう付け足して、ローゼはエリーを見つめる。彼女は、俯いた。

「なんていうか、伯爵家って大変なのね。……私、上手く伯爵夫人になれるかしら?」

 エリーのその言葉に、ローゼの胸がちくりとした。……今から自分は、エリーに現実を教えてしまうのだ。

(こんなにも健気に、エクムント様のことを思っているのね……)

 それを再認識すると、なんだか言いにくい。かといって、言わないという選択肢はない。

 だって、遅くなればなるほど、傷つくのはほかでもないエリーなのだから。

「……姉さんは、さ」

 どう話を切り出そうか。そう迷うローゼに、エリーが先に声をかけてきた。なので、ローゼはにっこりと笑う。

「この家に嫁いで、幸せ?」

 その問いかけに、ローゼは俯く。

「……姉さん?」

 エリーが戸惑ったような声音でそう言う。……幸せ。幸せじゃない。

(私は、すごく幸せなの)

 毎日毎日求められて、可愛いとか好きだとか愛しているとか言われて。本当に大切にされているのが、嫌というほどに伝わってくる。

 でも、だから。……このままじゃ、ダメだと思っている。

 自然と、カップを持つ手に力が入った。

「……エリー」
「ごめんね、変なこと聞いちゃった」

 ローゼの様子を見てか、エリーがそう言ってくる。

「姉さんは、私のためにこの家に嫁いでくれたんだよね。……好きでもない人に、嫁いだんだよね」

 目を伏せてエリーがそう告げてくる。その所為なのだろう、ローゼの口からは自然と「違う」という言葉が零れていた。

「……姉さん?」
「私は、エリーのためだけに嫁いだんじゃないの」

 唇がそんな言葉を紡ぐ。

「確かに、イグナーツ様のことをどう思っているか。それは、未だによくわからないわ」

 尊敬できる上司とか、そういう感情はずっと前から抱いていた。何を考えているのかわからないとも。

 けれど。

「私は、私にもメリットがあると思って、このマッテス伯爵家に嫁いだの」

 その言葉は、少し違うかもしれない。ただ、家のためだけに嫁いだ。

 だけど、家のためというのはローゼにとって多大なるメリットだった。……それは、間違いない。

「それに、私は今、幸せ……なのだと、思うの」

 言葉がしぼんでいく。だけど、しっかりと言わなくちゃ。その一心だった。

「イグナーツ様は、とても素敵なお方よ。優しいし、しっかりとされているし、正義感も強いし」

 多少なりともローゼを好きすぎることが、欠点というべきなのか。

 心の中でそう付け足しながら、ローゼは紅茶を一口飲んでカップをテーブルの上に戻した。

「だから、私は今、とても幸せよ。……この家に嫁げて、幸運だと思っている」

 勘違いなんて、されたくなかった。たとえ妹だったとしても。……ローゼの気持ちを勝手に決めつけるのは、許せそうにない。

 それに、なによりも。……イグナーツと一緒にいる自分が幸せだと、わかってほしかったのかもしれない。

(イグナーツ様のことが恋愛感情で好きなのかは、まだまだわかりそうにない。でも、勘違いしてほしくない)

 それだけが、ローゼの気持ちなのだ。

「……そっか」

 エリーは、それしか言わなかった。

 その後、彼女は手元に視線を落とし、フォークを手に取る。目の前にあったチーズケーキを、口に運んだ。

「……あのね、姉さん」
「……うん」
「私、ずっと姉さんが妬ましかった」
「……え」

 エリーのその言葉に、ローゼが目を見開く。

「……ねた、ましい?」

 予想だにしていなかった言葉だと、ローゼは思う。

「だって、姉さんは何でもできたもの。……私とは、違った」

 エリーのその声は、露骨に震えていた。
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