上 下
24 / 56
第3章

一緒に…… 1

しおりを挟む
 夕食から約一時間後。ローゼは困惑していた。

「あ、あの……」
「なんだ?」

 彼がさも当然のように衣服を脱いでいく。その身体をぼうっと見つめていたが、ハッとして視線を彷徨わせた。

(なんで、こういうことに……!)

 今、ローゼとイグナーツがいるのは脱衣所である。この扉の先には浴室がある。

 ローゼがイグナーツにしてほしいことを尋ねた後。彼はしばし考え込み、言ったのだ。

 ――俺の疲れを、癒してほしい。

(でも、どうして一緒に湯あみすることになるの……?)

 癒すという言葉の意味がわからず、ローゼが問いかけた。すると、彼は夕食からしばらくしてローゼをここに引っ張ってきたのだ。

 鈍いローゼでも、ここまでされればさすがにわかる。

 彼は、ローゼと一緒に湯あみをしようとしているのだと。

「……ローゼ、衣服を脱いでくれ」
「わ、わかっていますけどっ……!」

 湯あみをするのだから、衣服や下着は脱がなければならない。でも、彼の視線がローゼの身体に注がれている所為で、恥ずかしくて脱げない。

 せめて、彼が先に浴室に入ってくれれば、覚悟が決まるかもしれないが。

「さ、先に入っていてください」

 顔を手で覆いながらそう言うものの、イグナーツは動いてくれない。

 かと思えば、ふとローゼのほうに手を伸ばし――ワンピースのボタンを外す。

「ひゃぁっ!」

 驚いて声を上げれば、イグナーツが手早くローゼのワンピースのボタンをすべて外し、するりとローゼの腕から抜き取った。

 薄手のシュミーズとドロワーズの姿になり、ローゼは自身の顔に熱が溜まったのを実感した。

「か、勝手に……!」
「いや、脱げないのかと思って」

 彼がさも当然のようにそう言う。確かに女性の衣服は一人では脱げないものもある。けれど、今日ローゼが身にまとっていたのは、一人でも脱ぐことが可能なものだった。

 恨みがましく彼を見つめれば、彼はきょとんとしていた。……悪気など、さらさらなさそうだ。

(こういう目と表情をされると、怒りにくいのよ……)

 心の中でそう思いつつ、ローゼは観念した。

 もうこうなったら、覚悟を決めなくちゃならない。女に二言はない。

 そう思い、ローゼは自身のシュミーズを脱ぐ。比較的大きなローゼの胸のふくらみが、揺れる。

 次にドロワーズのひもに手をかけて、ローゼはドロワーズを脚から引き抜いた。……これで、ローゼもイグナーツ同様一糸まとわぬ姿だ。

「……い、行きますよっ!」

 半ばヤケクソになりながら浴室に足を踏み入れると、イグナーツも続いてくる。

 マッテス伯爵邸の浴室は大層広々としている。大人二人で入っても、まだ余裕があるほどだ。

 ……レーヴェン子爵邸の浴室とは、全然違うと思った。

 バスタブにはすでに湯が張ってあり、湯気が立ち込めている。浮かんだ小さな花びらは、ローゼの好みだった。

「い、一緒に入るのは良いのですが、私はどうすれば……?」

 今更ながらにその疑問が脳裏によぎり、ローゼがイグナーツにそう問いかける。

 けれど、それよりも先に――イグナーツがガバッとローゼの背中に覆いかぶさってきた。

「……ローゼ」

 彼の声が、微かな情欲を孕んでいる。

 それに気が付いて、ローゼの身体がぶるりと震えた。

「あ、あの……」

 まさか、ここで致すつもりなのだろうか……?

 その可能性に気が付いて、ローゼの顔から血の気が引いていく。普段は寝室でしか行為に及んでいない。それも、寝室では灯りはすべて消していた。

 が、ここは明るい。しっかりと灯りがついているし、何よりも寝そべることが出来ない。

(こんなところで、出来るわけが――!)

 ローゼがそう思っていれば、イグナーツがローゼの側から離れていく。どうやら、杞憂だったらしい。

 それにほっと胸をなでおろしたのもつかの間、イグナーツは手早く石鹼を泡立てていく。

「……あの、私が」
「いや、いい」

 騎士たちは自ら身体を洗うので、こういうことはお手の物だ。実際、イグナーツもかなり手慣れていた。

 イグナーツの手を見ていれば、彼の視線がローゼに注がれる。

「ローゼ」
「……は、はい」
「身体、洗ってやるから」
「……え?」

 でも、その言葉は予想外すぎる。

 だからこそローゼが目を大きく見開けば、イグナーツによってローゼの身体はあっさりと浴室用の椅子に腰かけさせられてしまった。

(……え? い、いや、普通、逆よね……?)

 混乱するローゼの頭が、そんなことを思う。

 しかし、そんなローゼの疑問など知りもしないのだろう。イグナーツは手早くローゼの背中に手を這わせた。

「んんっ」

 普段から自分で身体を洗うので、人に洗ってもらうのが何ともこそばゆい。

 その所為なのか、ほんの少し色気を孕んだ声が喉から出てしまう。

「ローゼ、そんな風に声を上げられたら洗いにくい」
「そ、そんなこと、言われましてもっ!」

 彼の手がローゼの横腹を撫でる。余計に、ローゼの喉が鳴った。

「じ、自分で、自分でします!」

 もうさすがにいたたまれなくて、ローゼはそう意見する。だが、イグナーツは譲ってくれなかった。

「俺は本当はローゼにいろいろと……いや、この場合は奉仕がしたいんだ。付き合ってくれ」
「ほ、奉仕って……」

 言い方がさすがにおかしいような気もする。

 そう思ったが、彼がそう言うのならばローゼに従わない理由もない。なので、ローゼは大人しくすることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

猛獣の妻に初夜の手ほどきを

久遠縄斗
恋愛
ラガーグリン公爵家の四男ルース。騎士である彼が妻に迎えたのは、同じ騎士であり強く美しい猛獣のような女性騎士ロッカ。 披露宴のパーティを終えたルースは、愛する妻の待つ部屋へと急ぐ。 ルースは思う 『彼女のような猛獣になら喰われてもいい』と。 初めて二人で迎える夜、ロッカは叫ぶ 『私を喰うつもりかっ』と。 喰うか喰われるか、襲うか襲われるか、愛撫するのかされるのか。 二人の初夜はドタバタだが、甘美で淫猥な時間になる………………はず。 R18表現があるものには、サブタイトルに『※』をつけています。 ムーンライトノベルズでも公開中です。

【R18】軍人彼氏の秘密〜可愛い大型犬だと思っていた恋人は、獰猛な獣でした〜

レイラ
恋愛
王城で事務員として働くユフェは、軍部の精鋭、フレッドに大変懐かれている。今日も今日とて寝癖を直してやったり、ほつれた制服を修繕してやったり。こんなにも尻尾を振って追いかけてくるなんて、絶対私の事好きだよね?絆されるようにして付き合って知る、彼の本性とは… ◆ムーンライトノベルズにも投稿しています。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。 ※R18には※ ※ふわふわマシュマロおっぱい ※もみもみ ※ムーンライトノベルズの完結作

スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】

鶴田きち
恋愛
★初恋のスパダリ年上騎士様に貧乏令嬢が溺愛される、ロマンチック・歳の差ラブストーリー♡ ★貧乏令嬢のシャーロットは、幼い頃からオリヴァーという騎士に恋をしている。猟犬騎士と呼ばれる彼は公爵で、イケメンで、さらに次期騎士団長として名高い。 ある日シャーロットは、ひょんなことから彼に逆プロポーズしてしまう。オリヴァーはそれを受け入れ、二人は電撃婚約することになる。婚約者となった彼は、シャーロットに甘々で――?! ★R18シーンは第二章の後半からです。その描写がある回はアスタリスク(*)がつきます ★ムーンライトノベルズ様では第二章まで公開中。(旧タイトル『初恋の猟犬騎士様にずっと片想いしていた貧乏令嬢が、逆プロポーズして電撃婚約し、溺愛される話。』) ★エブリスタ様では【エブリスタ版】を公開しています。 ★「面白そう」と思われた女神様は、毎日更新していきますので、ぜひ毎日読んで下さい! その際は、画面下の【お気に入り☆】ボタンをポチッとしておくと便利です。 いつも読んで下さる貴女が大好きです♡応援ありがとうございます!

媚薬を飲まされたので、好きな人の部屋に行きました。

入海月子
恋愛
女騎士エリカは同僚のダンケルトのことが好きなのに素直になれない。あるとき、媚薬を飲まされて襲われそうになったエリカは返り討ちにして、ダンケルトの部屋に逃げ込んだ。二人は──。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

【R18】副騎士団長のセフレは訳ありメイド~恋愛を諦めたら憧れの人に懇願されて絆されました~

とらやよい
恋愛
王宮メイドとして働くアルマは恋に仕事にと青春を謳歌し恋人の絶えない日々を送っていた…訳あって恋愛を諦めるまでは。 恋愛を諦めた彼女の唯一の喜びは、以前から憧れていた彼を見つめることだけだった。 名門侯爵家の次男で第一騎士団の副団長、エルガー・トルイユ。 見た目が理想そのものだった彼を眼福とばかりに密かに見つめるだけで十分幸せだったアルマだったが、ひょんなことから彼のピンチを救いアルマはチャンスを手にすることに。チャンスを掴むと彼女の生活は一変し、憧れの人と思わぬセフレ生活が始まった。 R18話には※をつけてあります。苦手な方はご注意ください。

処理中です...