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第3章
これからのこと 1
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重たい瞼を開く。視界に映ったのは、シミ一つない真っ白な天井。
(……わた、し)
そう思って、ローゼが起き上がろうとした。すると、がっちりと抱き留められていることに気が付く。
驚いてそちらに視線を向ければ、そこにはイグナーツがいた。彼はすやすやと寝息を立てており、その寝顔は普段からは想像も出来ないほどに無防備だ。
「……あぁ、そっか。結婚、したんだっけ」
寝台の近くにある窓から、外を見つめる。そこでは太陽が昇りつつあり、まだまだ早い時間だと告げていた。
壁掛け時計が示すのは、いつもの起床時間。
これまでのローゼは、寄宿舎暮らしのときも、実家にいたときも。この時間に起きていた。
「……イグナーツ様のこと、起こすの忍びないなぁ」
そんな言葉を零して、ローゼはもう一度毛布に潜り込む。
大人が二人寝そべっても余裕のあるこの寝台は、きっとかなり高額なものなのだろう。
心の中でそう零しつつ、ローゼはすやすやと眠るイグナーツの寝顔を見つめる。
「寝顔は、すっごく幼く見える」
彼の頬をつつきつつ、ローゼはそう零した。
そして、それとほぼ同時に――昨夜のことを思い出し、顔にカーっと熱が溜まるのを実感する。
「……それに、好き、って」
ふと、意識を失う前。彼はローゼに向かって『好き』と言ったような気がした。
気のせいではなければ、彼はローゼを好きと言って、可愛い可愛いと連呼して――。
「私、可愛くないのに」
どちらかと言えば、ローゼはきれいと称されることの多い顔立ちだ。可愛いなんて、成長してからは言われたことがない。大体の褒め言葉はいつだって「きれいだね」だったのだから。
そう思っていれば、イグナーツが瞼を開いた。その視線は周囲をきょろきょろと見渡した後、ローゼを射貫く。
「おはようございます、イグナーツ様」
ローゼのその声は、ほんの少し震えていた。なんというか、照れくさかったのだ。
彼と昨日あんなにも激しく行為に及んだ。思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
「……あぁ、ローゼ。寝起きにローゼを見るなんて、夢なのか?」
至極真面目にイグナーツがそう言葉を零す。どうやら、彼は寝ぼけているらしい。
それに気が付き、ローゼは彼のほうに手を伸ばしてみた。彼はその手を掴んで、自身の頬に添える。
「ローゼは、いつ見ても可愛いな……」
彼が惚けたような声で、そう言う。……完全に、寝ぼけている。
「イグナーツ様。これは夢じゃありませんよ」
イグナーツの分厚い胸を軽くたたきつつ、ローゼがそう言葉を発する。そうすれば、彼の目が大きく見開いた。
「昨日、結婚したじゃありませんか」
追い打ちをかけるようにそう言えば――イグナーツがガバッと起き上がった。それから、自身の頬をつねる。
「……夢じゃ、ない」
何とも古典的な夢か確かめる方法ではあるが、それが一番確実なのはローゼにもわかった。
なので、イグナーツにほんの少し笑みを向けてみた。……その瞬間、ローゼの頬を彼の手が挟む。
「じゃあ、目覚めの口づけをしても、いいんだな?」
「……え」
けれど、さすがにそれは……と思う間もなく、ちゅっと唇が重なった。
ローゼの顔に、カーっと熱が溜まっていく。それを、否応なしに理解させられる。
「あ、あの、イグナーツ様……まだ、寝ぼけていらっしゃいますよね……?」
そうだ。そうだと言ってくれ。昨日のことはアルコールに流されて、今日は寝ぼけている。
……昨日イグナーツがどれほど酒を飲んだのかは、いまいちよくわからないが。
「いや、しっかりと目が覚めた。俺は、寝ぼけてなどいない」
彼がそう言って、寝台から下りる。かと思えば、散らばった衣服を回収していた。
それに気が付き、ローゼも慌てて下着とナイトドレスを回収する。
「……ぁ」
毛布をめくると、シーツには微かな赤が零れ出ていた。……正真正銘、ローゼが純潔を失った証だ。
(なんていうか、こんなの見ると、本当に生々しいというか……)
昨夜の行為が脳裏によぎって――ローゼがいたたまれなくなる。
そんなローゼに気が付いていないのか、イグナーツは淡々と下穿きと寝間着を身に着けた。
「今日は朝食はここに運ばせよう」
「……え」
「ローゼも、動くのが辛いだろう?」
彼はさも当然のようにそう言ってくる。
確かにローゼの腰は鈍く痛んでいるが、動けないほどではない。これはきっと、日頃女騎士として鍛えていたからこそのことなのだろう。多分、ほかの令嬢ならば動けないほどだ。
「い、いや、私は――」
一応訂正しようとするものの、それよりも早くにイグナーツが寝室を出て行ってしまった。
残されたのは、ただ下着とナイトドレスを抱きしめるローゼ一人。
ローゼの身体には、いつの間に付けられたのか赤い痕が散りばめられていた。この痕がなんなのか、理解できないほどローゼだって鈍くない。
「……これは、所有の証、よね」
そっと赤い痕を撫でながら、ローゼがそう零す。これは所有の証。……自分が、イグナーツのものになったという、証拠なのだ。
(……わた、し)
そう思って、ローゼが起き上がろうとした。すると、がっちりと抱き留められていることに気が付く。
驚いてそちらに視線を向ければ、そこにはイグナーツがいた。彼はすやすやと寝息を立てており、その寝顔は普段からは想像も出来ないほどに無防備だ。
「……あぁ、そっか。結婚、したんだっけ」
寝台の近くにある窓から、外を見つめる。そこでは太陽が昇りつつあり、まだまだ早い時間だと告げていた。
壁掛け時計が示すのは、いつもの起床時間。
これまでのローゼは、寄宿舎暮らしのときも、実家にいたときも。この時間に起きていた。
「……イグナーツ様のこと、起こすの忍びないなぁ」
そんな言葉を零して、ローゼはもう一度毛布に潜り込む。
大人が二人寝そべっても余裕のあるこの寝台は、きっとかなり高額なものなのだろう。
心の中でそう零しつつ、ローゼはすやすやと眠るイグナーツの寝顔を見つめる。
「寝顔は、すっごく幼く見える」
彼の頬をつつきつつ、ローゼはそう零した。
そして、それとほぼ同時に――昨夜のことを思い出し、顔にカーっと熱が溜まるのを実感する。
「……それに、好き、って」
ふと、意識を失う前。彼はローゼに向かって『好き』と言ったような気がした。
気のせいではなければ、彼はローゼを好きと言って、可愛い可愛いと連呼して――。
「私、可愛くないのに」
どちらかと言えば、ローゼはきれいと称されることの多い顔立ちだ。可愛いなんて、成長してからは言われたことがない。大体の褒め言葉はいつだって「きれいだね」だったのだから。
そう思っていれば、イグナーツが瞼を開いた。その視線は周囲をきょろきょろと見渡した後、ローゼを射貫く。
「おはようございます、イグナーツ様」
ローゼのその声は、ほんの少し震えていた。なんというか、照れくさかったのだ。
彼と昨日あんなにも激しく行為に及んだ。思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
「……あぁ、ローゼ。寝起きにローゼを見るなんて、夢なのか?」
至極真面目にイグナーツがそう言葉を零す。どうやら、彼は寝ぼけているらしい。
それに気が付き、ローゼは彼のほうに手を伸ばしてみた。彼はその手を掴んで、自身の頬に添える。
「ローゼは、いつ見ても可愛いな……」
彼が惚けたような声で、そう言う。……完全に、寝ぼけている。
「イグナーツ様。これは夢じゃありませんよ」
イグナーツの分厚い胸を軽くたたきつつ、ローゼがそう言葉を発する。そうすれば、彼の目が大きく見開いた。
「昨日、結婚したじゃありませんか」
追い打ちをかけるようにそう言えば――イグナーツがガバッと起き上がった。それから、自身の頬をつねる。
「……夢じゃ、ない」
何とも古典的な夢か確かめる方法ではあるが、それが一番確実なのはローゼにもわかった。
なので、イグナーツにほんの少し笑みを向けてみた。……その瞬間、ローゼの頬を彼の手が挟む。
「じゃあ、目覚めの口づけをしても、いいんだな?」
「……え」
けれど、さすがにそれは……と思う間もなく、ちゅっと唇が重なった。
ローゼの顔に、カーっと熱が溜まっていく。それを、否応なしに理解させられる。
「あ、あの、イグナーツ様……まだ、寝ぼけていらっしゃいますよね……?」
そうだ。そうだと言ってくれ。昨日のことはアルコールに流されて、今日は寝ぼけている。
……昨日イグナーツがどれほど酒を飲んだのかは、いまいちよくわからないが。
「いや、しっかりと目が覚めた。俺は、寝ぼけてなどいない」
彼がそう言って、寝台から下りる。かと思えば、散らばった衣服を回収していた。
それに気が付き、ローゼも慌てて下着とナイトドレスを回収する。
「……ぁ」
毛布をめくると、シーツには微かな赤が零れ出ていた。……正真正銘、ローゼが純潔を失った証だ。
(なんていうか、こんなの見ると、本当に生々しいというか……)
昨夜の行為が脳裏によぎって――ローゼがいたたまれなくなる。
そんなローゼに気が付いていないのか、イグナーツは淡々と下穿きと寝間着を身に着けた。
「今日は朝食はここに運ばせよう」
「……え」
「ローゼも、動くのが辛いだろう?」
彼はさも当然のようにそう言ってくる。
確かにローゼの腰は鈍く痛んでいるが、動けないほどではない。これはきっと、日頃女騎士として鍛えていたからこそのことなのだろう。多分、ほかの令嬢ならば動けないほどだ。
「い、いや、私は――」
一応訂正しようとするものの、それよりも早くにイグナーツが寝室を出て行ってしまった。
残されたのは、ただ下着とナイトドレスを抱きしめるローゼ一人。
ローゼの身体には、いつの間に付けられたのか赤い痕が散りばめられていた。この痕がなんなのか、理解できないほどローゼだって鈍くない。
「……これは、所有の証、よね」
そっと赤い痕を撫でながら、ローゼがそう零す。これは所有の証。……自分が、イグナーツのものになったという、証拠なのだ。
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