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第2章
永遠(仮)の愛、誓います 1
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それからはあっという間に時間が過ぎ、三ヶ月の月日が流れた。
そして、この日。王国一の大聖堂にて、ローゼとイグナーツは永遠の愛を誓うこととなった。
(……っていうか、私、変じゃないよね……?)
ローゼはそう思いつつ、姿見に映った自分自身を見つめる。レースがふんだんに使われた真っ白なウェディングドレスはかなりの高級品である。イグナーツが早急に依頼し、仕立てたそうだ。
もちろん、早急に作ってほしいとなれば追加料金がかかってしまう。ローゼはその金額を詳しくは知らないが、人気の仕立て屋ということもありローゼには想像も出来ないレベルの金額なのだろう。それだけは、容易に想像が出来た。
「っていうか、姉さん、何でそんな浮かない顔をしているのよ……」
「だって……」
ローゼの側に居たエリーが、そう声をかけてくる。
だからこそ、ローゼは肩をすくめた。
「なんていうか、突然すぎて頭がついていかないのよ……」
実際に、そうだ。イグナーツに契約結婚を申し込まれ、まだ三ヶ月しか経っていない。
彼は一刻も早くローゼと結婚したいといい、挙式の準備も急ピッチで進めた。
だからなのだろうか。ローゼには、結婚するという意識がなかった。
(母さんや父さんにも好印象を与えていたし……)
ふと思い出すのは、イグナーツがローゼと結婚したいと屋敷を訪れたときのこと。
イグナーツは緊張の表情を浮かべ、手土産片手にレーヴェン子爵邸を訪れた。しかも、とても真剣な面持ちでローゼの両親に挨拶をしたのだ。
『ぜひ、ローゼ嬢を妻にもらいたく』
そう言った彼の表情は騎士団でも見たことがないほどに、強張っていた。
(契約的な結婚なのだから、そんな真面目にしなくても……)
ローゼはそう言ったものの、イグナーツは首を縦には振らなかった。ただ、真面目な表情を浮かべ続けるだけだ。
その結果、ローゼの両親は大層イグナーツを気に入り、ローゼをぜひ嫁にもらってほしいと言い出す始末。挙句の果てには、何処でこんないい人を捕まえてきたのかと、年頃の妹たちには質問攻めに遭った。……まったく、疲れ果ててしまって仕方がない。
「それにしても、まさか姉さんが結婚するなんて……」
「……エリー。その言い方はないんじゃない?」
「だって、姉さん美人なのに男っ気がなかったんだもの」
エリーのその言葉は間違いない。ローゼは今まで恋人がいたこともなければ、騎士団の面々以外で親しい男性もいなかったのだ。
「……なんていうか、私も嬉しい」
「エリー……」
「姉さんが家族のために自分を犠牲にして働いてるの、ちょっと見ていられなかったの」
苦笑を浮かべてエリーがそういう。……この結婚もいわばエリーのための犠牲ではあるのだが、それを言うのは憚られた。だから、ローゼは口を閉ざす。
「姉さん。……幸せになってね」
「……うん」
さすがにここで本当のことを言うのはダメだ。そんな勇気、ローゼは生憎持ち合わせちゃいない。
(幸せになれるかどうかはわからないけれど……団長のことだし、私のことを手酷くは扱わないわよね)
一人で納得して、ローゼは挙式の開始時間を待つ。
この大聖堂は伯爵家以上の貴族が結婚する際にしか使用されない。というのも、使用料金が大層高いのだ。到底、下位貴族や平民に払える金額ではない。
そのためなのか、この大聖堂で結婚式を挙げると幸せになれる……などというジンクスまで広まってしまった。この大聖堂で結婚式を挙げるのは、女性たちの一種の夢なのだ。
(まぁ、団長の顔を立てるためだしね……)
実際はほんの少し、少し嬉しい。けれど、それを悟られないようにそう思う。……そうだ。これはイグナーツの面子を潰さないためのもの。……そのためにローゼに極上のウェディングドレスを用意し、大聖堂を予約して……。
(なんていうか、あの日以来団長の様子も少しおかしいけれどさ)
あの日以来、イグナーツは何かとローゼに構うようになった。さりげなくエスコートしてくれるかと思えば、困っていると即座に現れて助けてくれる。
その所為なのか、周囲は驚いていた。ただ唯一、アントンが豪快に笑っていたことだけは、瞼の裏に焼き付いている。
(あぁ、余計なことは考えてはダメよ。……私は団長の跡取りを生むためだけに、娶られた妻なのだから)
しかし、そう思いなおそう。
そう思い直していたときだった。ふと、控室の扉がノックされる。
慌ててローゼが返事をすれば、聞こえてきたのは女性の声。
「花嫁様。マッテス伯が一度対面したいと訪れております」
女性は扉越しにそう声をかけてくる。
(団長が?)
挙式の際の新郎新婦はバージンロードで対面するのが普通である。でもまぁ、平民の中にはこういう感じの挙式もあるというし、そこまで気にすることでもないか。
心の中でそう思い、ローゼは肯定の返事をした。
「じゃあ、姉さん。私は会場で待ってるから」
「うん、また後で」
エリーがそう言って控室を出ていく。そして、入れ替わるようにイグナーツがローゼの控室にやってきた。
「……ローゼ」
彼が、そう名前を呼んでくる。
そっと顔を上げれば、そこには騎士の正装に身を包んだイグナーツがいた。彼はローゼのことを見て、ごくりと息を呑む。
そして、この日。王国一の大聖堂にて、ローゼとイグナーツは永遠の愛を誓うこととなった。
(……っていうか、私、変じゃないよね……?)
ローゼはそう思いつつ、姿見に映った自分自身を見つめる。レースがふんだんに使われた真っ白なウェディングドレスはかなりの高級品である。イグナーツが早急に依頼し、仕立てたそうだ。
もちろん、早急に作ってほしいとなれば追加料金がかかってしまう。ローゼはその金額を詳しくは知らないが、人気の仕立て屋ということもありローゼには想像も出来ないレベルの金額なのだろう。それだけは、容易に想像が出来た。
「っていうか、姉さん、何でそんな浮かない顔をしているのよ……」
「だって……」
ローゼの側に居たエリーが、そう声をかけてくる。
だからこそ、ローゼは肩をすくめた。
「なんていうか、突然すぎて頭がついていかないのよ……」
実際に、そうだ。イグナーツに契約結婚を申し込まれ、まだ三ヶ月しか経っていない。
彼は一刻も早くローゼと結婚したいといい、挙式の準備も急ピッチで進めた。
だからなのだろうか。ローゼには、結婚するという意識がなかった。
(母さんや父さんにも好印象を与えていたし……)
ふと思い出すのは、イグナーツがローゼと結婚したいと屋敷を訪れたときのこと。
イグナーツは緊張の表情を浮かべ、手土産片手にレーヴェン子爵邸を訪れた。しかも、とても真剣な面持ちでローゼの両親に挨拶をしたのだ。
『ぜひ、ローゼ嬢を妻にもらいたく』
そう言った彼の表情は騎士団でも見たことがないほどに、強張っていた。
(契約的な結婚なのだから、そんな真面目にしなくても……)
ローゼはそう言ったものの、イグナーツは首を縦には振らなかった。ただ、真面目な表情を浮かべ続けるだけだ。
その結果、ローゼの両親は大層イグナーツを気に入り、ローゼをぜひ嫁にもらってほしいと言い出す始末。挙句の果てには、何処でこんないい人を捕まえてきたのかと、年頃の妹たちには質問攻めに遭った。……まったく、疲れ果ててしまって仕方がない。
「それにしても、まさか姉さんが結婚するなんて……」
「……エリー。その言い方はないんじゃない?」
「だって、姉さん美人なのに男っ気がなかったんだもの」
エリーのその言葉は間違いない。ローゼは今まで恋人がいたこともなければ、騎士団の面々以外で親しい男性もいなかったのだ。
「……なんていうか、私も嬉しい」
「エリー……」
「姉さんが家族のために自分を犠牲にして働いてるの、ちょっと見ていられなかったの」
苦笑を浮かべてエリーがそういう。……この結婚もいわばエリーのための犠牲ではあるのだが、それを言うのは憚られた。だから、ローゼは口を閉ざす。
「姉さん。……幸せになってね」
「……うん」
さすがにここで本当のことを言うのはダメだ。そんな勇気、ローゼは生憎持ち合わせちゃいない。
(幸せになれるかどうかはわからないけれど……団長のことだし、私のことを手酷くは扱わないわよね)
一人で納得して、ローゼは挙式の開始時間を待つ。
この大聖堂は伯爵家以上の貴族が結婚する際にしか使用されない。というのも、使用料金が大層高いのだ。到底、下位貴族や平民に払える金額ではない。
そのためなのか、この大聖堂で結婚式を挙げると幸せになれる……などというジンクスまで広まってしまった。この大聖堂で結婚式を挙げるのは、女性たちの一種の夢なのだ。
(まぁ、団長の顔を立てるためだしね……)
実際はほんの少し、少し嬉しい。けれど、それを悟られないようにそう思う。……そうだ。これはイグナーツの面子を潰さないためのもの。……そのためにローゼに極上のウェディングドレスを用意し、大聖堂を予約して……。
(なんていうか、あの日以来団長の様子も少しおかしいけれどさ)
あの日以来、イグナーツは何かとローゼに構うようになった。さりげなくエスコートしてくれるかと思えば、困っていると即座に現れて助けてくれる。
その所為なのか、周囲は驚いていた。ただ唯一、アントンが豪快に笑っていたことだけは、瞼の裏に焼き付いている。
(あぁ、余計なことは考えてはダメよ。……私は団長の跡取りを生むためだけに、娶られた妻なのだから)
しかし、そう思いなおそう。
そう思い直していたときだった。ふと、控室の扉がノックされる。
慌ててローゼが返事をすれば、聞こえてきたのは女性の声。
「花嫁様。マッテス伯が一度対面したいと訪れております」
女性は扉越しにそう声をかけてくる。
(団長が?)
挙式の際の新郎新婦はバージンロードで対面するのが普通である。でもまぁ、平民の中にはこういう感じの挙式もあるというし、そこまで気にすることでもないか。
心の中でそう思い、ローゼは肯定の返事をした。
「じゃあ、姉さん。私は会場で待ってるから」
「うん、また後で」
エリーがそう言って控室を出ていく。そして、入れ替わるようにイグナーツがローゼの控室にやってきた。
「……ローゼ」
彼が、そう名前を呼んでくる。
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