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第1章
妹の婚約話 2
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その後、ローゼはエリーの部屋の前に立つ。ゆっくりと手を伸ばして扉をノックすれば、中から「だれ?」という声が聞こえてきた。
「ローゼよ」
端的にそう言えば、中からどたどたという足音が聞こえ、慌ただしくエリーが顔を見せた。
彼女はおっとりとして見えるその真っ赤な目をぱちぱちと瞬かせつつ、小首をかしげた。
「姉さん? 部屋まで来るなんて珍しいね」
エリーがそう言ってくるので、ローゼは肩をすくめた。
「まぁね。少し、話がしたくて」
「……あ、もしかして、母さんからいろいろと聞いた?」
エリーがその金色の髪を指で弄りながら、そう言ってくる。
だからこそ、ローゼはこくんと首を縦に振った。
「……そっか」
ローゼのその様子を見て、エリーは何処となく悲しそうに視線を下げる。……大方、相手と結婚できないかもしれないことが、心に突き刺さっているのだろう。
「まぁ入ってよ。……中でお話ししよう」
そんな風に言葉を紡いで、エリーは部屋の扉を開けてくれた。なので、ローゼはゆっくりと歩を進めて部屋の中に入る。
部屋の中は相変わらずというべきか、殺風景だった。物があまりないのは、貧乏であるが故。ドレスもまともに用意できず、ワンピースも数着を着まわしている状態だったりもする。
「……お相手は、伯爵家の嫡男だと聞いたわ」
単刀直入にそういうと、エリーは苦笑を浮かべた。これは、図星なのだろう。
「そんな良縁、何処でつかんできたのよ」
一番気になっていたことを、ローゼは問いかける。そうすれば、彼女はそっと視線を逸らした。きっと、なれそめを語るのが恥ずかしいのだろう。
「買い物、してたときなんだけれどね」
「……うん」
「私、転んじゃって。そこを助けてもらったのが、きっかけ」
……どうやら、割と庶民的な出逢いだったらしい。
そう思いつつ、ローゼはエリーを見つめる。彼女はその目に確かな悲しみを宿している。……やはり、彼と結婚したいのだ。
「何処のどちらさまなのかしら?」
「シーレンベック伯爵家のエクムント様よ」
その名前には、ローゼも聞き覚えがある。シーレンベック伯爵家は、歴史を重んじる家系だったはずだ。
(なるほど。だったら、持参金はやっぱり用意しなくちゃならないわよね……)
伯爵家の中でもいろいろとタイプがある。場合によっては持参金の額はそうでもないところもあるが、シーレンベック伯爵家だとそうはいかないだろう。
「私、彼のしっかりとしたところに惹かれたの。なんていうんだろ……しっかりと自分を持っている、みたいな。私には、ないものだったから」
エクムントのことを語るエリーは、本当に恋する乙女のようだった。
だからだろうか。尚更、ローゼは彼女をシーレンベック伯爵家に嫁がせてやりたいと思った。
エクムントと婚約させて、ゆくゆくは結婚してほしいと思った。
「だけどね、姉さん。私、家の負担にはなりたくないの」
「……エリー」
「本当は無理だってわかってたんだ。……だから、私、エクムント様のプロポーズを断ろうと思う」
そっと視線を下げて、彼女がそういう。その声は露骨に震えており、本当は彼と結婚したいのだということは容易に想像が出来た。
(私は恋をしたことがない。恋愛なんてあきらめてきた。……だから、恋する気持ちはこれっぽっちもわからないわ)
同僚だった女騎士たちの話によれば、恋はとても甘酸っぱくて、苦しいものらしい。……まぁ、彼女たちもみな結婚して退職してしまったのだが。
「ねぇ、エリー」
そう思ったら、ローゼは彼女の両肩を掴んでいた。エリーが、驚いたような表情を浮かべる。
「本当は結婚したいんでしょ?」
ゆっくりと。けれど、はっきりとそう問いかける。
すると、エリーは控えめに頷いた。
「……うん」
そして、小さく声を上げる。
そのため、ローゼは決めた。
「じゃあ、姉さんに任せて頂戴」
「……え」
「姉さんが、持参金はなんとしてでも用意するから」
エリーの目を見てそう言うと、彼女の真っ赤な目がみるみるうちに見開かれていく。……相当、驚いているようだ。
「だ、だけど、姉さん……」
「大丈夫よ。私はこれでも一家の大黒柱。……なんとでも、してやるわ」
自身の胸をたたいて、ローゼはにっこりと笑ってそう告げた。
そうすれば、しばらくしてエリーがぽろりと涙を零した。
「……ありがとう」
それから、少し置いて礼を言ってくれる。
「そんなに泣かないの。……まったく、あなたって成長してもずっと泣き虫ね」
「だ、だってぇ……!」
溢れる涙を必死に拭いつつ、エリーは笑った。
その笑みを見ていると、なんとしてでもエリーと恋人を結婚させたいと、ローゼは思う。
(何とか、しなくちゃね……)
発した言葉は取り消せない。有言不実行は嫌なので、有言実行するしかない。
そんなことを思いつつ、ローゼはエリーの頬を伝う涙を拭っていた。
彼女は、ずっとローゼに「ありがとう」と告げていた。……引き返すに、引き返せなかった。
「ローゼよ」
端的にそう言えば、中からどたどたという足音が聞こえ、慌ただしくエリーが顔を見せた。
彼女はおっとりとして見えるその真っ赤な目をぱちぱちと瞬かせつつ、小首をかしげた。
「姉さん? 部屋まで来るなんて珍しいね」
エリーがそう言ってくるので、ローゼは肩をすくめた。
「まぁね。少し、話がしたくて」
「……あ、もしかして、母さんからいろいろと聞いた?」
エリーがその金色の髪を指で弄りながら、そう言ってくる。
だからこそ、ローゼはこくんと首を縦に振った。
「……そっか」
ローゼのその様子を見て、エリーは何処となく悲しそうに視線を下げる。……大方、相手と結婚できないかもしれないことが、心に突き刺さっているのだろう。
「まぁ入ってよ。……中でお話ししよう」
そんな風に言葉を紡いで、エリーは部屋の扉を開けてくれた。なので、ローゼはゆっくりと歩を進めて部屋の中に入る。
部屋の中は相変わらずというべきか、殺風景だった。物があまりないのは、貧乏であるが故。ドレスもまともに用意できず、ワンピースも数着を着まわしている状態だったりもする。
「……お相手は、伯爵家の嫡男だと聞いたわ」
単刀直入にそういうと、エリーは苦笑を浮かべた。これは、図星なのだろう。
「そんな良縁、何処でつかんできたのよ」
一番気になっていたことを、ローゼは問いかける。そうすれば、彼女はそっと視線を逸らした。きっと、なれそめを語るのが恥ずかしいのだろう。
「買い物、してたときなんだけれどね」
「……うん」
「私、転んじゃって。そこを助けてもらったのが、きっかけ」
……どうやら、割と庶民的な出逢いだったらしい。
そう思いつつ、ローゼはエリーを見つめる。彼女はその目に確かな悲しみを宿している。……やはり、彼と結婚したいのだ。
「何処のどちらさまなのかしら?」
「シーレンベック伯爵家のエクムント様よ」
その名前には、ローゼも聞き覚えがある。シーレンベック伯爵家は、歴史を重んじる家系だったはずだ。
(なるほど。だったら、持参金はやっぱり用意しなくちゃならないわよね……)
伯爵家の中でもいろいろとタイプがある。場合によっては持参金の額はそうでもないところもあるが、シーレンベック伯爵家だとそうはいかないだろう。
「私、彼のしっかりとしたところに惹かれたの。なんていうんだろ……しっかりと自分を持っている、みたいな。私には、ないものだったから」
エクムントのことを語るエリーは、本当に恋する乙女のようだった。
だからだろうか。尚更、ローゼは彼女をシーレンベック伯爵家に嫁がせてやりたいと思った。
エクムントと婚約させて、ゆくゆくは結婚してほしいと思った。
「だけどね、姉さん。私、家の負担にはなりたくないの」
「……エリー」
「本当は無理だってわかってたんだ。……だから、私、エクムント様のプロポーズを断ろうと思う」
そっと視線を下げて、彼女がそういう。その声は露骨に震えており、本当は彼と結婚したいのだということは容易に想像が出来た。
(私は恋をしたことがない。恋愛なんてあきらめてきた。……だから、恋する気持ちはこれっぽっちもわからないわ)
同僚だった女騎士たちの話によれば、恋はとても甘酸っぱくて、苦しいものらしい。……まぁ、彼女たちもみな結婚して退職してしまったのだが。
「ねぇ、エリー」
そう思ったら、ローゼは彼女の両肩を掴んでいた。エリーが、驚いたような表情を浮かべる。
「本当は結婚したいんでしょ?」
ゆっくりと。けれど、はっきりとそう問いかける。
すると、エリーは控えめに頷いた。
「……うん」
そして、小さく声を上げる。
そのため、ローゼは決めた。
「じゃあ、姉さんに任せて頂戴」
「……え」
「姉さんが、持参金はなんとしてでも用意するから」
エリーの目を見てそう言うと、彼女の真っ赤な目がみるみるうちに見開かれていく。……相当、驚いているようだ。
「だ、だけど、姉さん……」
「大丈夫よ。私はこれでも一家の大黒柱。……なんとでも、してやるわ」
自身の胸をたたいて、ローゼはにっこりと笑ってそう告げた。
そうすれば、しばらくしてエリーがぽろりと涙を零した。
「……ありがとう」
それから、少し置いて礼を言ってくれる。
「そんなに泣かないの。……まったく、あなたって成長してもずっと泣き虫ね」
「だ、だってぇ……!」
溢れる涙を必死に拭いつつ、エリーは笑った。
その笑みを見ていると、なんとしてでもエリーと恋人を結婚させたいと、ローゼは思う。
(何とか、しなくちゃね……)
発した言葉は取り消せない。有言不実行は嫌なので、有言実行するしかない。
そんなことを思いつつ、ローゼはエリーの頬を伝う涙を拭っていた。
彼女は、ずっとローゼに「ありがとう」と告げていた。……引き返すに、引き返せなかった。
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