【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep29 予感を残して02

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 俺はヴァンを掴む手の力を少し緩めて、俯き呟く。

「……久しぶりに会えて嬉しかったのに」
 淋しげにちらとヴァンを見やる。

「……次いつ会えるのかもわからないのに」
 少しだけヴァンの手に指を絡める。

 そう、泣き落とし作戦に出てみている。

 ヴァンはそんな俺をじろりと一瞥。
 言葉に嘘はないが、作戦はバレバレのようだ。


 俺は諦めて、静かにヴァンの手を放した。
 ヴァンは頑なだった。本当に触れられたくないのかもしれない。
 多少ごねたが、無理強いはしたくない。

 ヴァンは無言のまま、ようやく放された手を力無く下げると、長い溜め息をつく。

 そして。
 立ち去るかと思いきや、ヴァンは俺の肩に額を乗せて寄りかかってきた。

 思ってもなかったヴァンの行動に、俺は「え」と小さな声をあげて硬直してしまう。


「……もういい、わかった。強がりはやめよう」

 泣き落とし作戦は、まさかの成功を収めていた。
 

「本当はあんなところをグレイに見られて怖くなったんだ。
 君に幻滅されただろう、と。以前のような気持ちを向けてはくれないだろう、と。
 だから拒まれる前に自分から拒んだ」
 ヴァンは俺の肩に顔を埋めたまま、そう溢した。

 ヴァンの肩にそっと触れると、無言で額を肩に擦り寄せてくる。
 えぇえ……何このかわいい生き物?

「……そんなわけないだろ」
 俺がそう言ってヴァンの頬を撫でると、ヴァンはようやく顔をあげた。

 俺とはまだ目をあわせてくれないが、悩ましげな表情をしていた。
 頬を紅潮させ、少し潤んで熱を帯びた琥珀の瞳。

 あの夜と同じ扇状的な瞳だった。
 自分の理性が一気に吹っ飛びそうになる。


「……もう一度言うよ、ヴァン。君に触れたい」

 その瞳から目を逸らさないまま、俺はもう一度ヴァンに触れる許しを乞う。

 ヴァンもようやく俺を見上げる。
 互いの息づかいがわかるほどに近い距離で、俺とヴァンは見つめあった。

「……グレイ。本当は顔を見た時から、ずっと。私も君に触れたくてしょうがなかったよ」


 ヴァンのその言葉を聞いて。


 俺はヴァンの顔を両手で包み込み、優しく口づけた。
 唇が触れた瞬間、ヴァンへの愛おしさが込み上げた。

 抱きしめて、ヴァンの瞳を見つめて、もう一度唇を重ねる。ヴァンも待ち侘びたかのように俺に身体を寄せ、口づけを返す。

 何度か短く唇が触れた後、口づけはすぐ深いものになった。互いの舌先に触れ、入り口でなぞりあい、さらに奥で絡める。
 ヴァンは甘えるように舌を絡めては、より深い角度で口づけてきた。

 互いの身体に腕を回して強く抱きあい、たまに琥珀と灰色の瞳で見つめあう。
 視線が絡む度に、身体の奥から情欲が湧きあがった。

 もっと触れたい。

 そう思ったら、止められなくなった。
 ヴァンの服の中に手を伸ばし、背中や腰へ手を這わせて、衣服を乱す。

 口づけと抱擁のその先に行こうとしている俺に気づき、ヴァンが少し慌てた。

「……っ……グ、レイ、待て。これ以上は……」
 上擦った声でヴァンが俺を制止しようとする。

 俺はヴァンの身体に触れることをやめない。
「……もっと触れたい。ヴァンは嫌か?」
 自分でもわかる。あり得ないくらい興奮してた。

「……っ嫌、じゃない。……だが、そろそろ……」

 少し顔を離してヴァンを見ると、ヴァンはこれ以上ないくらい蕩けた顔をしていた。
 抱かれたくて堪らない、そんな顔。
 そんな顔で拒まれても説得力ゼロだ。

 そして俺もきっと今。
 抱きたくて堪らない顔をしている。

 俺がより深く交わろうとヴァンに身体を寄せた、その時。


「元気でた。盛るなグレイ。帰るぞ」
 まったく空気を読まない男ゼクスが、俺とヴァンの時間をぶち壊した。



 はじまるかと思われた俺とヴァンの甘く激しい時間は強制終了。サンドレア王国に戻らざるをえなくなった。
 俺はゼクスに、頼むからあと数時間寝てろと言ったのだが、帰るの一点張り。

 挙句「そんなに盛りたかったら、帰ってからヴィルゴとすればいいだろ」などと、情緒のカケラもないことをゼクスは言いやがった。
 ……いや、まぁ、俺も人のこと言えんけど!

 言い訳しようとヴァンを見たら、
「私は気にしない。なんとなく…そんな気はしていたし。ヴィルゴ殿も君のようなタイプは好きだろうし」
 そんなことを言って、あらぬ方向を見ていた。

 マジで覚えとけよゼクス。



「えっと……また、グレイ」

「あぁ、ヴァン。……その、また」

 若干のやりづらさは残ったものの、俺とヴァンは以前同様、短い別れの挨拶を交わした。

 でも以前の別れとは違った。
 互いに「また」と言い、再会を予感させる別れだった。


 きっとまた会える。
 これは予知じゃなく、予感だ。


 雄大な砂漠の空は、緩やかに明るさを帯び、夜の静謐さから明けはじめいた。


 ゼクスが欠伸をしながら「転移」と呟く。
 転移の眩い光の中。
 俺とヴァンは互いが見えなくなるまで、見つめあっていた。
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