【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep36 予知との決別

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 ヴィルゴがジェスカとサシャの組織『孤月の帷』と契約し、細かな依頼の打ち合わせを終わらせたその後。

 ヴィルゴの指示で、ゼクスはジェスカとサシャの負った怪我を治癒してやっていた。

 腕を動かし「痛くない」と自身の身体に驚くサシャを、ジェスカは無言で抱きしめていた。
 それはもう、愛おしそうに。
 サシャは頭の上に「???」を並べてポカンとした顔をしていたが。

 俺を含め、その場にいた全員が「はよ告れ」と思っていたに違いない。


 レリウスはゼクスの異能力で手足の自由を奪われてた。
 微動だにせず虚な目で沈黙している。


 俺はそんなレリウスから距離をとり、予知の強制力からはある程度解放されていたものの、飲まされた媚薬の影響なのか、たまに妙な衝動に駆られて身体が疼いていた。
 その度に冷静になれと自分を言い聞かせ、部屋の隅に座っていた。

 そんな俺をしげしげと眺めるヴィルゴ。

「……ゼクス。グレイはどうなってる」

「毒のデバフがかかってる。具体的な効果はわからないが『媚薬』ってのが付与効果についてるな」

 もはやステータス画面が見えていることを俺に隠さなくなったゼクスが、俺の頭の上を視線でなぞりながら状態異常を解説する。

「ふむ、お前の力で解毒したら付与効果は消えるのか?」

「まぁ、たぶん」

「ではグレイはこのままで」
 なんでだよ。


 こうしてレリウスによる俺の拉致事件は無事に一件落着し、ゼクスの転移で俺とヴィルゴはファルマン伯爵の別邸を後にした。

 ちなみに、転移先はヴィルゴの指定でプレイ部屋だった。
 媚薬漬けの俺とヴィルゴのこの後のあれやこれやについては、刺激が強すぎるので割愛させてもらう。


 ヴィルゴは王城にもどるとすぐ、ファルマン伯爵とその息子が殺害された件について、情報操作の根回しをした。

 脅されていた穏健派閥貴族との不和で殺害された、という筋書きに書き換えたのだ。
 婚約破棄も穏健派閥からの依頼ではじめたものとし、彼らの死と共に革新派閥内にあった確執をも取り除いてしまった。
 結果、ファルマン伯爵家の犠牲は革新派閥の結託をより強くすることに繋がった。

 ヴィルゴのどんなことも利用していく強かさには頭が下がる。



 一方、ゼクスは孤月の帷と行動をともにしていたらしく、1週間ほどもどってこなかった。

 その1週間、ゼクスがいないことに延々と泣きじゃくるエルマーの叫びがサンドレア王城に響き渡っていた。
 さすがのヴィルゴも「ゼクスの貸し出しは3日までにしよう……」と眉間に皺を寄せてぼやいていた。


 そして、ゼクスがサンドレア王城に帰還してからほどなく。
 マルゴーン帝国内で起こった第七皇子の誘拐と救出劇についての一報が帝国から届いた。

 麗しい兄弟愛のもと弟自ら兄を救出し、見事な手腕で国内に蔓延していた奴隷組織の掃討作戦をも成し遂げた第十九皇子。
 国中から賛美と賞賛を受けたらしい。

 救出の後。第七皇子は惜しくも命を落としたが、次期皇帝と謳われた第七皇子の意志を継ぐ者として第十九皇子はその期待を背負うこととなったようだ。

 そう、すべて。ヴィルゴの計画通りに。


 嘘に塗り固められた美談の真実はどうであれ、その一報は歴史の歪曲を確固たるものにし、予知が導く歴史の遷移とは決別したことを俺たちに伝えていた。


 決別といえば。

 俺は拉致されたあの日から眼鏡をかけることをやめた。ファルマン別邸で割られてしまったからだ。

 さよなら、従者な俺のアイデンティティ。
 うん、まぁ。伊達だったしね。


 俺はほとぼりが冷めた頃、何故今回の一件に至るまでレリウスを放置していたのかを、ヴィルゴに尋ねたことがあった。
 ゼクスの異能力を持ってすれば、襲撃を受けるより早い段階でレリウスをどうとでも出来たのではないかと思ったのだ。

 理由はふたつあった。
 ひとつは最も活用できる契機を見計らっていたこと。
 そしてもうひとつは、最初の襲撃以降、レリウスの居場所を特定できず、捕らえられなかったのが理由だと言っていた。

 レリウスは俺と同じように、本名で名を辿り追跡することが出来なかったのだそうだ。

 マルゴーン帝国第七皇子という輝かしい『レリウス』の名は、彼自身にとって自分を示す名前ではなかった。

 彼が自分自身だと自覚している名と、その名を誰に呼ばれていたのか。

 もう誰も知る由はない。

 レリウスは俺の心に、小さな棘を遺していった。



 再び俺は、目まぐるしい日々を過ごす。

 忙しなくも穏やかに過ぎゆく日々。
 サンドレア王国で3ヶ月が過ぎようとしていた。
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