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ep28 琥珀の約束02
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自分自身の愚かさに打ちのめされながら、俺は両手で顔を覆ったまま吐露しはじめた。
「……俺は自分が情けない。ずっと、ずっと間違ってた」
ヴァンは静かに俺の言葉に耳を傾けてくれている。
「予知でこの世界を知り尽くした気になって。大陸統治なんて大それたことを願って。
一番大切なメルロロッティ嬢の幸せすら危険に晒して」
目指したその先が、実際にどんな未来かも考えずに。
なんて、なんて愚かなのか。
しゃがみ込む俺に、ヴァンは優しく尋ねた。
「グレイはなぜ、間違いだと思うんだ?」
「誰も幸せにならない道だからだ……ヴィルゴにもその道は悪だと言われた」
「ヴィルゴ殿が?」
「俺の予知は正しさの証明ではないと、多くの血が流れるその道は悪だと。そう諌められた。でも俺はその言葉に、どうしても納得できなくて」
「それなのに彼の侍従をやっているのか?」
「……それでも傍にいろと言われたんだ」
その言葉を聞いて、ヴァンはクスクス笑った。
「ふふ、優しいなヴィルゴ殿は。そして君は愛されてる」
それは俺も知ってる。
あの人はやり方や言葉は粗野だが、周囲の人間をとても大切にしている。
ゼクスもそれを知っているから、ヴィルゴから離れない。彼を慕っている。
「彼が君を傍に置いたのは、そのことに気づいてほしかったからだろう」
「……きっとそうだ。今ならわかる。だからヴァンのもとに行けと、言ってくれたんだ」
項垂れながら言葉を溢し続ける俺に、ヴァンはずっと優しく微笑んでいてくれた。
その優しさに、さらに俺は情けなさが込み上げた。
「……それで。これからグレイはどうするんだ?」
しばらく俺の様子を眺めていたヴァンが、あえて尋ねてくれた。
俺は俯いたまま、首を静かに横に振る。
「わからない。上手く気持ちの整理がつかない」
思考放棄して自己嫌悪に陥っている俺には、先のことなど考える余裕などなかった。
自分が心の支えにしてきた目標が足元から崩れ去ったのだ。
新しい道など、どう探ればいいのか。
俺の言葉を聞くと、ヴァンは手で口元を覆い何か考える仕草をした。
それから俺を覗き込むように首を傾げてこう言った。
「ならば私から、君にひとつ提案を」
優しい口調のまま、ヴァンは言葉を続ける。
「叶うのなら、私はまた君に会いたいと思っているよ」
その言葉に俺は覆っていた両手からゆっくり顔をあげた。
「本来の君の予知が導く未来には、きっと私はいないのだろう。それは私が辿り着きたい未来ではないからね。
だが私が願う未来であれば、当然私はその未来にいる。だから、もし。君もまた私に会いたいと、そう思ってくれるのならば。
グレイ、君には私と同じ未来を目指してほしいんだ」
ヴァンは顔を上げた俺と視線を合わせると、慈しむようにその瞳を細めた。
「ヴィルゴ殿のもとにいれば、きっと目指す場所は同じだ。君が願うメルロロッティ嬢の幸せも必ずそこにある」
そう言葉を続けたヴァンの琥珀の眼差しは、優しくも強いまっすぐな光を宿していた。
「私と同じ未来を目指せグレイ。その未来で私はまた君に会いたい」
その言葉に、その瞳に。
俺の心臓が跳ねた。
聡明で気高く、眩いほど綺麗で。
俺より年上なのにこんなにも華奢で。
その笑顔は誰よりも可愛いくて。
こんなにも美しい人が存在するのか。
こんな人が俺に道を示してくれるのか。
自分の鼓動が高鳴る。
顔が熱を帯びていくのがわかった。
俺はそんな自分自身に戸惑いながら、ヴァンの言葉に黙って頷く。
そしてたった一言、言葉にするのが精一杯だった。
「約束する」
その言葉を聞いたヴァンは心から嬉しそうな笑みを俺に向け「約束だ」と返してくれた。
「……俺は自分が情けない。ずっと、ずっと間違ってた」
ヴァンは静かに俺の言葉に耳を傾けてくれている。
「予知でこの世界を知り尽くした気になって。大陸統治なんて大それたことを願って。
一番大切なメルロロッティ嬢の幸せすら危険に晒して」
目指したその先が、実際にどんな未来かも考えずに。
なんて、なんて愚かなのか。
しゃがみ込む俺に、ヴァンは優しく尋ねた。
「グレイはなぜ、間違いだと思うんだ?」
「誰も幸せにならない道だからだ……ヴィルゴにもその道は悪だと言われた」
「ヴィルゴ殿が?」
「俺の予知は正しさの証明ではないと、多くの血が流れるその道は悪だと。そう諌められた。でも俺はその言葉に、どうしても納得できなくて」
「それなのに彼の侍従をやっているのか?」
「……それでも傍にいろと言われたんだ」
その言葉を聞いて、ヴァンはクスクス笑った。
「ふふ、優しいなヴィルゴ殿は。そして君は愛されてる」
それは俺も知ってる。
あの人はやり方や言葉は粗野だが、周囲の人間をとても大切にしている。
ゼクスもそれを知っているから、ヴィルゴから離れない。彼を慕っている。
「彼が君を傍に置いたのは、そのことに気づいてほしかったからだろう」
「……きっとそうだ。今ならわかる。だからヴァンのもとに行けと、言ってくれたんだ」
項垂れながら言葉を溢し続ける俺に、ヴァンはずっと優しく微笑んでいてくれた。
その優しさに、さらに俺は情けなさが込み上げた。
「……それで。これからグレイはどうするんだ?」
しばらく俺の様子を眺めていたヴァンが、あえて尋ねてくれた。
俺は俯いたまま、首を静かに横に振る。
「わからない。上手く気持ちの整理がつかない」
思考放棄して自己嫌悪に陥っている俺には、先のことなど考える余裕などなかった。
自分が心の支えにしてきた目標が足元から崩れ去ったのだ。
新しい道など、どう探ればいいのか。
俺の言葉を聞くと、ヴァンは手で口元を覆い何か考える仕草をした。
それから俺を覗き込むように首を傾げてこう言った。
「ならば私から、君にひとつ提案を」
優しい口調のまま、ヴァンは言葉を続ける。
「叶うのなら、私はまた君に会いたいと思っているよ」
その言葉に俺は覆っていた両手からゆっくり顔をあげた。
「本来の君の予知が導く未来には、きっと私はいないのだろう。それは私が辿り着きたい未来ではないからね。
だが私が願う未来であれば、当然私はその未来にいる。だから、もし。君もまた私に会いたいと、そう思ってくれるのならば。
グレイ、君には私と同じ未来を目指してほしいんだ」
ヴァンは顔を上げた俺と視線を合わせると、慈しむようにその瞳を細めた。
「ヴィルゴ殿のもとにいれば、きっと目指す場所は同じだ。君が願うメルロロッティ嬢の幸せも必ずそこにある」
そう言葉を続けたヴァンの琥珀の眼差しは、優しくも強いまっすぐな光を宿していた。
「私と同じ未来を目指せグレイ。その未来で私はまた君に会いたい」
その言葉に、その瞳に。
俺の心臓が跳ねた。
聡明で気高く、眩いほど綺麗で。
俺より年上なのにこんなにも華奢で。
その笑顔は誰よりも可愛いくて。
こんなにも美しい人が存在するのか。
こんな人が俺に道を示してくれるのか。
自分の鼓動が高鳴る。
顔が熱を帯びていくのがわかった。
俺はそんな自分自身に戸惑いながら、ヴァンの言葉に黙って頷く。
そしてたった一言、言葉にするのが精一杯だった。
「約束する」
その言葉を聞いたヴァンは心から嬉しそうな笑みを俺に向け「約束だ」と返してくれた。
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