【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep19 仔馬曰く01

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 バルツ聖国一行、滞在3日目。

 エルメスタ女王とイージス、そして天馬騎士団が帰国する日となった。


 スノーヴィア辺境伯城の城門前は帰還を控えた天馬たちとその騎士団が帰還の準備を進め、それをスノーヴィア領の者達も温かく見守っている。少し離れた場所で飛竜騎士団も遠巻きに彼らを眺めていた。

 イージスはポレロ辺境伯とメルロロッティ嬢と別れの挨拶をしている。
 表向きは婚約申し出の返事を待っていた3日間だ。
 メルロロッティ嬢は正式に断りの書状をしたため、その書簡を手渡していた。


「イージスのために一肌脱いでくれたこと、感謝するよ」

 護衛騎士の姿で兜を身につけたエルメスタ女王が俺にそう言った。


 昨夜は俺の協力のもと、イージスの童貞卒業を行うことになった。
 メルロロッティ嬢の許可も得て、辺境伯城で最も人の往来が少ない貴賓室の一室を借りた。


 イージスは凄まじかった。

 その筋肉隆々な体躯はもちろん素晴らしいの一言だし、初めてとは思えない腰の唸らせぶり。
 凶悪とも言える太く逞しい一物もまた見事としか言いようのない絶倫状態で。

 一番盛り上がったのは、イージスに目隠しをした時だ。
 彼の目の前には、俺じゃない崇高な神獣様が映っていたようで「あぁ、何て淫らで穢らわしい行為を、私は…貴方に…!お赦しください…あぁっ!」とか言いながら、ゆるゆると引き抜いては最奥を力強く打ちつける行為を繰り返していた。
 繰り返される快楽の波と背徳感で、俺もイージスもどうかなりそうだった。

 ちなみに、イージスは途中から理性など吹っ飛んでいただろうに「中には出すなよ」という俺の言いつけだけは律儀に守っていた。
 東の空が明るくなるまでイージスは何度も何度も、俺の腹の上に白濁をぶちまけ、俺も幾度となく果てた。

 俺にとっても、大変満足な一夜となった。


「…まぁ、馬のかわりだったとはいえ。私も良い思い出ができました。イージスは素晴らしい男でしたよ」
 俺は飄々と返答する。

 女王とはいえ彼女は今、あくまで護衛の天馬騎士だ。
 あまり周囲に気取られないよう、軽めに俺は答えた。

 実は今朝一番、俺とイージスはエルメスタ女王のもとに赴き、耳と尻尾をみせてもらった。
 イージスの股間の隆起具合の確認だ。

 そこはまるで、美しく凪いだ静かな海の如く。

 イージスは泣いて喜び、俺の灰色の髪を抱きしめ、ずっと感謝していた。


 つまり、イージスの女王の傍に控える神官としての問題も無事解決したということだ。


「貴女は随分とお嬢様をお気に召されていた。本当に諦めて良いのですか?」
 俺はエルメスタ女王に婚約の申し出のことを、改めて尋ねた。

「残念ながら、彼女の意志は変わらなそうだったからね。仕方ないさ」
 女王は爽やかに続ける。

「それにグレイ。もし私の肩を持ってくれるのならば、君の予知とやらで私を選んで欲しいものだね。
 そうすれば間違いなく彼女は私のものになってくれただろうさ」

 メルロロッティ嬢はエルメスタ女王に予知のことを話したのか。
 婚姻は断ったが、彼女のことをかなり信頼しているようだ。

「…それは何と言うか、申し訳ありません」
 俺は嘘で飾らず素直に謝る。
 嘘はよくない。ヴァンに教わった。

「ふん、正直すぎる男は嫌われるぞ」
 エルメスタ女王は笑いながらそう言った。


 辺境伯らに挨拶を終えたイージスがこちらに戻ってきている。
 エルメスタ女王はイージスに目を向けたまま、俺に尋ねた。


「君の予知に、バルツ聖国がスノーヴィア領に訪問して、友好関係を求めるような歴史の遷移はなかったんじゃないか?」


 俺はその言葉に息を呑み、エルメスタ女王の顔を見る。

「私の仔馬がね、言っていたんだ。
 この場所を起点に、歴史が歪曲していると」

 仔馬。バルツ聖国の神獣のことだろう。


  エルメスタ女王の目線はなおイージスに向けられたまま。
 口調もまるで天気の話でもするような感じだ。

「…どう、いう意味、なのですか?」

「わからない。でも仔馬はそう言っていた」

 穏やかな笑顔のまま、エルメスタ女王は言葉を続けた。

「残念ながら、私は聖獣の落とし子というだけで、特別な能力があるわけではない。君やメルロロッティ嬢のように、ね。
 だが神獣のように…空を制する存在は古来より特別だ。
 ここへはあの子のために確認しに来た、というのもある」


 この大陸の御伽話にはこんな一節がある。


 竜はその威を持って世界の均衡を保ち、天馬は世界の異変を駆けて知らせ、グリフォンはその鉤爪で世界に仇なす者を狩る。


 この世界の平穏は空を制する者たちがもたらしている、と謳うものだ。

 俺も子供の頃聞かされた、御伽話の最初の一節。


「君の予知が、本来のこの世界の筋書きであるならば。
 それとは違う道に進みたいと願う何者かがいるのかもしれないな」


 そしてエルメスタ女王は最後に俺を見て、こう告げた。

「どちらが正しいかは知らない。
 が。もし判断に迫られた時、見誤らないよう気をつけたまえ。グレイ」

 そう言うと、エルメスタ女王は俺のもとを離れ、出発の準備のためイージスと話しはじめた。


 俺は何も言えずにそこに立ち尽くす。
 

 歴史が歪曲している


 その言葉にどんな意味があるのだろうか?
 俺の予知と、歴史の遷移はどうなるんだ?


「………グレイ殿?」

 呼ばれてはっとする。
 イージスがこちらをに覗き込んでいた。

「…すみません、イージス様。考えごとをしていました」

「あ、いえ、大丈夫です。そんな顔をしているなぁと…見惚れていただけです」
 これまでの経験上、多分見惚れる顔ではないと思われる。

「ふふ、考えごとしてる私の顔は変でしょう。よく周りから言われるんです」
「えっ…そんなことはないですよ。グレイ殿はどんな時も、その、とても素敵です」

 イージスはどんな顔の俺も褒めてくれそうだ。
 良い男だ。抱かれて悔いなし。


 バルツ聖国の一行は出発間近のようだ。

 イージスはエルメスタ女王との話が終えて、俺への最後の挨拶に来てくれたのだろう。

 エルメスタ女王に言われた懸念を払い、俺は笑顔をむけた。

「…昨晩は一夜の夢をありがとうございました。あなたは灰色の髪でなくとも…本当に、素敵な方でした」
 照れながら絶妙なフォローを入れるイージス。

「こちらこそ。なかなかに稀有な思い出となりました。
 またスノーヴィアに来ることがあれば、灰色の馬に跨りに来てください」

 俺がいたずらっぽく笑って答えると、イージスはいつもの真っ赤な顔になった。


 イージスはあたりをキョロキョロ見回した後、俺の頬にそっとキスをする。

 誰にも見られていないつもりなのだろうが、飛竜騎士団の連中がニヤニヤしながらこちらを見ている。

 俺はお返しにぐいとイージスを引き寄せ、思いきり唇に長めのキスをする。
 イージスは首まで真っ赤にして照れていた。

 妙な性癖がなければ、本当に可愛らしい男だ。


 こうしてバルツ聖国の短い滞在は終わり、その白い一団は再び北西の空へと羽ばたいていった。


 俺に一抹の不安を残して。
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