【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

文字の大きさ
上 下
30 / 84

ep18 灰色に心乱されて01

しおりを挟む
「メルロロッティ嬢ばかりか、その従者にまで姿を見られてしまうとはね」

 貴賓室のソファに腰掛け、その愛らしい大きな耳を揺らしながら、イージスの護衛天馬騎士改めバルツ聖国女王エルメスタは俺にゆったりと微笑んだ。


「…何故、女王陛下というお立場を隠してまでスノーヴィアへ来訪されたのですか?」
 俺は貴賓室の床に正座した状態でエルメスタ女王に尋ねた。

 正座はメルロロッティ嬢の命令だ。
 賓客を押し倒した罰を受けている。


「…当然、彼女に会うために。だよ」

 エルメスタ女王はうっとりとした視線を、隣に座るメルロロッティ嬢へむけた。

「私としてもエルメスタの名で来訪したかったのだがな。聖国の神官連中に猛反対されてね。
 あれらは他所者が私の姿を見ると、その神聖さが奪われるなどと妄信している。
 正体を伏せ、教会からも信頼のあるイージスを伴うことで、ようやく説得できたのさ」
 そう言いながら、エルメスタ女王はメルロロッティ嬢の銀色の髪を掬い上げ、そっと髪に唇を寄せる。

「美しく聡明な姫だとは聞いていたが。…まさかこれほどとは、ね」
 再びうっとりとメルロロッティ嬢の顔を覗きみる。

 そんな一見歯が浮くような言動が完璧に決まるほどに、エルメスタ女王はすべてにおいて洗練された女性だった。

 …男だったら、俺もイチコロだったかもしれない。


「我が国では私のような者を『聖獣の落とし子』というんだ」

 エルメスタ女王は自らの頭上、その大きな耳を指さしながら、そう言った。

「こちらでは『忌み子』と言う方が馴染みがあるだろう」


 『忌み子』
 異種族との交わりで生まれた、人の姿を成した者たち。

 この大陸の多くでは蔑称である『忌み子』と呼ばれ、異種族の血が交わった容姿や特異な能力や体質を生まれ持つ彼らは、嫌遠されがちな存在だ。
 バルツ聖国では、天馬と人間の間に生まれたことで、聖獣に愛される者・神力を宿した者として神格化され、大事にされているのだろう。


「そういった私の出自もあってね。
 異種族である竜に愛されるご令嬢がいるとなれば、会いたくなるものだろう」

 そう言って、またメルロロッティ嬢を愛おしそうに眺めた。


「会いに来てくれて私も嬉しい」

「残酷な人だ。そんな心躍る言葉をくれるのに、私とは結ばれてくれないのだろう」

「婚約の申し出は受けられないわ。
 …でも、もう一度だけ。耳を触らせてくれる?」

「まったく、わがままな人だね。
 …だが貴女に弄ばれるのなら本望だ。構わないよ」

 そんな会話を繰り広げるふたり。


 エルメスタ女王とメルロロッティ嬢は互いに頬を染め、見つめ合いながら、耳をモフモフ触り、触られ続けている。

 …正座で何を見せられてるんだろう、俺。


 そんな二人の様子と同じくらい、実のところ俺は隣に座っている男の状況が気になっている。

 イージスだ。

 エルメスタ女王が貴賓室に戻ってから、最初は顔を蒼白にして慌てふためいていたものの、今はようやく大人しく座っている。

 座っている、のだが。
 一部大変なことになっている。

 イージスの股間。

 ずっと、ずーっと。
 彼のご立派なそれはギッチギチに聳り立ったままなのだ。

 もうしばらく時間も経つし、俺のことはあえて必死に視界に入れようにしている。

 それなのに、この状況。

 本人も自覚しているようで、ちょっと前傾姿勢になって、ずっと首まで真っ赤にして俯いている。


「………それにはな。私も困っているんだ」


 俺がイージスの股間をチラチラ見ている気配を察したのか、エルメスタ女王が溜め息まじりにそう言った。

 エルメスタ女王が俺に話かけたことで、メルロロッティ嬢が俺に正座をやめるよう促す。

 俺はようやくおすわりをやめて立ち上がった。
 わんわんっ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...