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ep16 それぞれの愉しみ
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バルツ聖国一行がスノーヴィア領に来訪した翌日。
この日は雪もちらつくことなく陽光の心地よい、穏やかな一日となった。
スノーヴィア辺境伯城から竜の渓谷へと向かう途中に広がる広大な高原。
そこで飛竜騎士団と天馬騎士団の合同模擬演習を行うことになった。
提案したのは、我らがクラウス飛竜騎士団副団長。
承諾したのは、まさかのまさか。ルーフェウス天馬騎士。彼は今回の特使一行の編成部隊長なのだそうだ。
「へえ、見事な隊列ですね!少しも乱れがない」
空の高みで隊列編成を披露する天馬たちを眺め、愉しげに感心するクラウス副団長が、さりげなく足を組み替える。
隣のルーフェウスがびくりと肩を振るわせる。
「素晴らしいですよ、ルーフェウス。彼らの立ち回りは単独戦闘を好む飛竜たちには真似できないものです」
「えっ。あ、あぁ。天馬は協調性に富んだ知性ある生き物だからな……」
ボソボソと答えるルーフェウスを横目に、クラウス副団長が再び足を組み替える。
隣のルーフェウスがびくりと肩を振るわせる。
その隣でふたりの不穏な空気に気づくはずもなく、愉しげに上空を眺めるダングリッド団長。
クラウス副団長の圧倒的勝利を確信し、にやつく竜騎士たち。
自分たちの小隊長の挙動不審に戸惑いを隠せない天馬騎士たち。
何にも気づかないふりをして、メルロロッティ嬢とイージス神官に温かな紅茶の準備をする俺。
騎士団同士の確執に波乱を予感していたのだが、昨晩のうちにあっさりと勝負は決していたようだった。
クラウス副団長、流石です。
「そうだ!あとで模擬戦をしてみるのはどうだろう。互いに学ぶことがあるんじゃないかな?」
新たな命令、ではなく提案をクラウス副団長が朗らかに言い放つ。
これに声を荒げたのは、ルーフェウスではなく取り巻きの女天馬騎士たちだ。
「野蛮な飛竜どもと天馬たちを戦わせろだと!?ふざけるな!調子に乗るのも大概にしろ!」
「えー駄目ですか?ルーフェウス」
「…………いや。か、構わない。エルメスタ女王からも、スノーヴィアの方々には我々を知ってもらうよう取り計らえ、と言われているし」
「なっ!ルーフェウス隊長!?」
今のルーフェウスはクラウス副団長の提案を何でも呑み込んでくれるようだ。
昨晩はナニをその美しい口に咥えて、呑み込まされていたのだろうか……
あ、いけない!卑猥な妄想が捗ってしまった。まだお昼なのに。
「ありがとう、ルーフェウス。昔のよしみとはいえ、快く対応してくれて僕は嬉しいよ」
再び足を組み替えるクラウス副団長。
びくつくルーフェウス。
こういう時のクラウス副団長は、いつもの2割増くらいキラキラしている。
ほんと、愉しそうで何よりです。
騎士たちはそれぞれに模擬演習の場を楽しみつつ戸惑いつつ、穏やかな昼下がりは過ぎてゆく。
そしてこの場には、もう一組。
意外な組み合わせで会話を愉しんでいる者達がいる。
メルロロッティ嬢と聖国神官のイージスだ。
「それで、洗礼を受けた天馬と乗り手はどうなるのですか?」
興味津々でイージスにアレコレ尋ねているのはメルロロッティ嬢。
「次の月が満ちる日まで、寝食をともにします。人間の乗り手は幼き天馬の世話をひとりで行い、尽くすことで忠誠と信仰心を体現し、跨ることを許されるのです」
イージスも情熱的に天馬のことを語り続ける。
「……自身の愛馬となる存在に尽くし、互いを知り、唯一無二の片割れとなる。素晴らしいことですね」
メルロロッティ嬢はその瞳をキラキラさせ、素直に感動を言葉にしている。
ご覧頂けるとわかるだろうが、彼女が夢中になっているのはイージスではない。
彼が話す天馬に関するエピソードだ。
食いつきが半端ない。こんなにも輝いた顔のメルロロッティ嬢を見るのはいつぶりだろうか。
「貴女の天馬も同じような儀式を?」
メルロロッティ嬢は今度はイージスの隣に佇んでいた護衛の女天馬騎士をまっすぐみて尋ねた。
「えっ。あぁ……いや、はい。似たようなことをして参りました……」
「あとであなたの天馬が見たいわ。見せてくれる?」
「……え、ええ。喜んで」
あの忖度ゼロ塩対応令嬢が、目をキラキラさせて話を聞きたがるおかげで、護衛の天馬騎士もたじたじだ。
俺はそんな可愛らしさ3割増となっているメルロロッティ嬢にほっこりしながら、彼らに紅茶と茶菓子を給仕している。
イージスにはたまにわざと触れたり、やたら近くで囁いてみたり、紅茶を渡す度に目を見てニッコリ笑っているのだが、毎回頬を紅潮させては俺から目を逸らす。
イージスは神官であるため華やかな装いはしていないが、その顔立ちはバルツ聖国らしい造形美を讃え、短く切り揃えた若草色の髪や厚みのある筋肉質な体格は、男らしさを秘めた美しさに溢れている。
そんな良い男を翻弄するの、愉しすぎる。
気づけば、メルロロッティ嬢は質問攻めする標的をイージスから護衛の女天馬騎士に移し、さらに質問攻めにしていた。
ここまで自ら話しかけているメルロロッティ嬢は、相当に珍しい。
バルツ聖国とは相性が良いのかもしれない。
昨日は婚約の申し出を一刀両断していたが、もし俺の予知がなく、メルロロッティ嬢に想い人の存在がなければ。
バルツ聖国との婚約という道もゼロではなかったのではないだろうか?
飛竜と天馬。
ともに空を制し、大陸統治をも制す。
バルツ聖国の女王は、『神獣』と呼ばれる天馬の中でも最も崇高な信仰対象として崇められる、特別な天馬の乗り手なのだそうだ。
まぁ、間違いなく美しさや神々しさはメルロロッティ嬢並みだろう。
そんな美姫ふたりが愛し合い、手を取り合い、並ぶ姿を妄想する。
尊 い …
そんなこんなで。
波乱を予感させたバルツ聖国の滞在は、こうして平穏に過ぎて行くかと思われた。
だがしかし。穏やかな一日の終わりというのは、決まって事件が起こるものなのだ。
この日は雪もちらつくことなく陽光の心地よい、穏やかな一日となった。
スノーヴィア辺境伯城から竜の渓谷へと向かう途中に広がる広大な高原。
そこで飛竜騎士団と天馬騎士団の合同模擬演習を行うことになった。
提案したのは、我らがクラウス飛竜騎士団副団長。
承諾したのは、まさかのまさか。ルーフェウス天馬騎士。彼は今回の特使一行の編成部隊長なのだそうだ。
「へえ、見事な隊列ですね!少しも乱れがない」
空の高みで隊列編成を披露する天馬たちを眺め、愉しげに感心するクラウス副団長が、さりげなく足を組み替える。
隣のルーフェウスがびくりと肩を振るわせる。
「素晴らしいですよ、ルーフェウス。彼らの立ち回りは単独戦闘を好む飛竜たちには真似できないものです」
「えっ。あ、あぁ。天馬は協調性に富んだ知性ある生き物だからな……」
ボソボソと答えるルーフェウスを横目に、クラウス副団長が再び足を組み替える。
隣のルーフェウスがびくりと肩を振るわせる。
その隣でふたりの不穏な空気に気づくはずもなく、愉しげに上空を眺めるダングリッド団長。
クラウス副団長の圧倒的勝利を確信し、にやつく竜騎士たち。
自分たちの小隊長の挙動不審に戸惑いを隠せない天馬騎士たち。
何にも気づかないふりをして、メルロロッティ嬢とイージス神官に温かな紅茶の準備をする俺。
騎士団同士の確執に波乱を予感していたのだが、昨晩のうちにあっさりと勝負は決していたようだった。
クラウス副団長、流石です。
「そうだ!あとで模擬戦をしてみるのはどうだろう。互いに学ぶことがあるんじゃないかな?」
新たな命令、ではなく提案をクラウス副団長が朗らかに言い放つ。
これに声を荒げたのは、ルーフェウスではなく取り巻きの女天馬騎士たちだ。
「野蛮な飛竜どもと天馬たちを戦わせろだと!?ふざけるな!調子に乗るのも大概にしろ!」
「えー駄目ですか?ルーフェウス」
「…………いや。か、構わない。エルメスタ女王からも、スノーヴィアの方々には我々を知ってもらうよう取り計らえ、と言われているし」
「なっ!ルーフェウス隊長!?」
今のルーフェウスはクラウス副団長の提案を何でも呑み込んでくれるようだ。
昨晩はナニをその美しい口に咥えて、呑み込まされていたのだろうか……
あ、いけない!卑猥な妄想が捗ってしまった。まだお昼なのに。
「ありがとう、ルーフェウス。昔のよしみとはいえ、快く対応してくれて僕は嬉しいよ」
再び足を組み替えるクラウス副団長。
びくつくルーフェウス。
こういう時のクラウス副団長は、いつもの2割増くらいキラキラしている。
ほんと、愉しそうで何よりです。
騎士たちはそれぞれに模擬演習の場を楽しみつつ戸惑いつつ、穏やかな昼下がりは過ぎてゆく。
そしてこの場には、もう一組。
意外な組み合わせで会話を愉しんでいる者達がいる。
メルロロッティ嬢と聖国神官のイージスだ。
「それで、洗礼を受けた天馬と乗り手はどうなるのですか?」
興味津々でイージスにアレコレ尋ねているのはメルロロッティ嬢。
「次の月が満ちる日まで、寝食をともにします。人間の乗り手は幼き天馬の世話をひとりで行い、尽くすことで忠誠と信仰心を体現し、跨ることを許されるのです」
イージスも情熱的に天馬のことを語り続ける。
「……自身の愛馬となる存在に尽くし、互いを知り、唯一無二の片割れとなる。素晴らしいことですね」
メルロロッティ嬢はその瞳をキラキラさせ、素直に感動を言葉にしている。
ご覧頂けるとわかるだろうが、彼女が夢中になっているのはイージスではない。
彼が話す天馬に関するエピソードだ。
食いつきが半端ない。こんなにも輝いた顔のメルロロッティ嬢を見るのはいつぶりだろうか。
「貴女の天馬も同じような儀式を?」
メルロロッティ嬢は今度はイージスの隣に佇んでいた護衛の女天馬騎士をまっすぐみて尋ねた。
「えっ。あぁ……いや、はい。似たようなことをして参りました……」
「あとであなたの天馬が見たいわ。見せてくれる?」
「……え、ええ。喜んで」
あの忖度ゼロ塩対応令嬢が、目をキラキラさせて話を聞きたがるおかげで、護衛の天馬騎士もたじたじだ。
俺はそんな可愛らしさ3割増となっているメルロロッティ嬢にほっこりしながら、彼らに紅茶と茶菓子を給仕している。
イージスにはたまにわざと触れたり、やたら近くで囁いてみたり、紅茶を渡す度に目を見てニッコリ笑っているのだが、毎回頬を紅潮させては俺から目を逸らす。
イージスは神官であるため華やかな装いはしていないが、その顔立ちはバルツ聖国らしい造形美を讃え、短く切り揃えた若草色の髪や厚みのある筋肉質な体格は、男らしさを秘めた美しさに溢れている。
そんな良い男を翻弄するの、愉しすぎる。
気づけば、メルロロッティ嬢は質問攻めする標的をイージスから護衛の女天馬騎士に移し、さらに質問攻めにしていた。
ここまで自ら話しかけているメルロロッティ嬢は、相当に珍しい。
バルツ聖国とは相性が良いのかもしれない。
昨日は婚約の申し出を一刀両断していたが、もし俺の予知がなく、メルロロッティ嬢に想い人の存在がなければ。
バルツ聖国との婚約という道もゼロではなかったのではないだろうか?
飛竜と天馬。
ともに空を制し、大陸統治をも制す。
バルツ聖国の女王は、『神獣』と呼ばれる天馬の中でも最も崇高な信仰対象として崇められる、特別な天馬の乗り手なのだそうだ。
まぁ、間違いなく美しさや神々しさはメルロロッティ嬢並みだろう。
そんな美姫ふたりが愛し合い、手を取り合い、並ぶ姿を妄想する。
尊 い …
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波乱を予感させたバルツ聖国の滞在は、こうして平穏に過ぎて行くかと思われた。
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