【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep40 争奪戦01

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 スノーヴィアに帰領したその日の晩餐。

 俺はメルロロッティ嬢に接触禁止令を出された為、アルヴァンドの側仕えとして控えていた。

 アルヴァンドはメルロロッティ嬢に優しく声をかけては気遣っているのだが。
 対するお嬢様、めっちゃ塩対応。
 どうしたよ……


 昼に行われた親睦会を知る者に聞いたところ、メルロロッティ嬢はアルヴァンドからの申し出を断り続けているらしい。
 そしてアルヴァンドも引き下がらず、平行線なのだそうだ。

 世界は平和への道を歩んでいるというのに、難儀すぎる。


 晩餐後、気遣い疲れでげんなりしているアルヴァンドに、俺は食後の紅茶を淹れていた。
 場所はスノーヴィア辺境伯城一番の貴賓室だ。

「……君が言っていた通りだ、グレイ。今まで出会ったどのご令嬢よりも、頑固で融通がきかない」

「そこが魅力のお嬢様ですので……」
 俺が何とも言えない顔ではにかむと、アルヴァンドは不満げな顔をする。

「何故あそこまで拒むんだ?彼女の言葉に虚勢や偽りがない分、つけ入る隙がない」
 ため息混じりに愚痴をこぼすアルヴァンドの言葉に、俺はちくりと胸を刺される。

「スノーヴィア領にとってもマルゴーン帝国にとっても良縁のはずだ。何故そこまで拒むのか、理由がわかるか?」
 紅茶をぐいと飲むと、アルヴァンドは俺を見上げた。


 この世界は平和へと歩みはじめたとはいえ、いつ不安定になるかもわからない時世だ。
 スノーヴィア領は独立領になるとはいえ、マルゴーン帝国と懇意にしておくに越したことはない。
 それはメルロロッティ嬢にもわかっているはず。

 では何故、一度は承諾していた婚姻の件を再び拒むのか?
 思い当たるのは多分アレ。


「……陛下には、その。言いにくいの、ですが。メルロロッティ嬢には誰にも言えない想い人が、います」

「……そうなのか?」
 俺のボソボソと絞り出した言葉に、アルヴァンドは意外といった顔をする。

「誰なのかは頑なに教えてくださらなくて。私も、心当たりがなく……」

 俺がごにょごにょ言っている間。
 口元に手をあててしばらく考え込んでいたアルヴァンドは、俺を再び見上げこう言った。

「明日はグレイも一緒に来てくれ。おそらく、だが。ご令嬢を攻略する算段がつきそうだ」
 そう言うと、不敵にも思える笑顔でアルヴァンドはニッコリと笑った。

 ええ……
 アルヴァンドがメルロロッティ嬢を口説く現場に同席するの、俺?

 テンションを限界まで下げ、俺は了承した。



 そして翌日。

 この日はスノーヴィア辺境伯城内とその付近をメルロロッティ嬢が案内し、飛竜の厩舎や訓練場をアルヴァンドに見せて回った。

 昨晩、訓練場ではゼクスと竜騎士たち、とりたててハーシュが模擬戦をしていたそうだ。
 ゼクスは異能力はもちろんなのだが、あのジェスカやサシャとも対等に渡り合えるほどの剣術を持ち合わせている。
 竜騎士の中でゼクスに一本とれたのはダングリッド団長だけだったらしい。


 飛竜の厩舎では、飛竜のうねる背中の独特な動きを眺めていたアルヴァンドが「これが飛竜跨ぎか」と呟き、ベテラン竜騎士たち全員がむせ返り、一斉に俺を睨むというアクシデントもあった。

 『飛竜跨ぎ』とは、日々飛竜に跨り鍛えあげられた竜騎士たちに受け継がれる、快楽を最高潮に高める秘奥義みたいなものだ。

 うん、確かに俺がアルヴァンド、いやヴァンに野営地で教えた。
 仕方ないだろ。皇帝陛下になられるお方なんて、知らなかったんだから。



 そんな城内見学を終えた頃。

 城から少し離れた庭園の一角で、この日はティータイムを過ごすことになった。


 庭園は色とりどりの春の花に彩られているが、最も多く花壇に溢れんばかりに咲き誇っているのは、背の低い小さな白い花たちだ。

 サンドレアの国花。

 数世代前の当主の時代、友好の証としてサンドレア王国から贈られたらしいのだが、スノーヴィアの過酷な冬にも負けず、群生してここの庭園の顔になってしまったらしい。

 その不屈で強かな姿はサンドレアの国花に相応しいと俺は思う。


 そんな白い花たちに囲まれて、紅茶を淹れ給仕するのは俺の役目となった。

 メルロロッティ嬢は俺がいない間、専属侍女であるアグナとソネアを従者のかわりに側に置いていた。

 ソネアは今まで通りの侍女服だが、アグナの方は俺とよく似たテールコートを着用していた。
 端正ですらりとしたアグナによく似合ってる。

 今日も二人は少し離れた場所で待機していた。


「さて、昨日の話の続きをしても?」

 テーブルを囲んだところで、アルヴァンドが溢れんばがりの美しい微笑みで早速切り出した。

 すごーく嫌そうな顔のメルロロッティ嬢。
 そして同じく、すごーく嫌そうな顔の俺。
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