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ep39 再びの帰領02
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「ようこそおいでくださいました、マルゴーン帝国皇帝陛下。
スノーヴィア領現当主、メルロロッティ・スノーヴィアにございます」
俺がいない間にメルロロッティ嬢は正式に当主の座を継承していたようだった。
「マルゴーン帝国皇帝のアルヴァンドだ。ようやくお会いできて光栄だ、メルロロッティ嬢。
グレイから貴女の話は毎日のように聞いていたよ。噂に違わぬ美しい人だ」
そう言うと、アルヴァンドは俺を促す。
「おいでグレイ」
そう言われて、俺は緊張気味に一歩前に出る。
「大変ご無沙汰しております、お嬢様。
お別れしたあの日から私は…」
俺のメルロロッティ嬢への猛る愛を語り終わるより早く。
あれ?なんか俺を見た瞬間メルロロッティ嬢の目が紅く緋くなったような…と俺が思ったより速く。
渾身の令嬢右ストレートが俺の頬に炸裂した。
ハッと意識を取り戻すと、俺はかつての自室のベッドに横になっていた。
ベッドの前で、ハーシュが呆れ顔で俺を見下ろしている。
「熱烈な出迎えだったな。ま、自業自得だ」
ハーシュは淡々と俺をなじった。
ハーシュは手紙では一度も教えてくれなかったのだが。
メルロロッティ嬢は俺が彼女の許可なく独断でヴィルゴのもとへ行ってしまったことに、ひどくお怒りになったそうだ。
一因となったハーシュ含め、飛竜騎士団の面々が謝罪するも、聞く耳持たず。
その怒り度合いは何とビックリ。
1ヶ月もの間、辺境伯城の上空に守り手の巨竜が常駐することになったらしい。
しかも5匹。
あの黒竜サイズが5匹て。こっわ…
そう語るハーシュもいまだ相当怒っているようで、俺への物言いが冷たい。
「それで…あの。お嬢様は?」
「今頃、皇帝陛下と親睦深めてるだろ」
そっけなくハーシュは言い捨てる。
「よかったな。お前が望んだお嬢の幸せが叶うだろうよ」
言われて俺は記憶を呼び起こす。
そうだった。
メルロロッティ嬢に時期マルゴーン帝国皇帝との婚姻を勧めたのだった。
予知にズレが生じていたものの、それでもメルロロッティ嬢は俺の言葉を信じてくれていたのだ。
アルヴァンドも「手紙が来ていた」と言っていたっけ。
今回、アルヴァンドは俺の返還とスノーヴィア領の将来のためにここに来たのだ。
『メルロロッティ嬢の幸せを』
その約束を果たすために。
「そっか。よかった…」
ハーシュは俺を見下ろしながら、立ち上がる。
「美貌の帝国皇帝陛下と無敵のお嬢なら、誰も文句言わないだろーな」
続けて「お前に出る幕はないから部屋で休んでろ」とだけ言い、部屋を去っていった。
残された俺は、なんだろうか。
胸にちくりと痛みが残った。
メルロロッティ嬢とアルヴァンドの婚姻。
俺も望んでいたことだ。
でも、今必要不可欠かと聞かれるとそうでもないよな?
この世界は着実に平和への道を歩み出してて。
スノーヴィア領も独立領となり、バルツ聖国との友好関係も結んでる。
メルロロッティ嬢の想い人の件もうやむやになってるし。
無理強いしなくても…
…。
…今のは、詭弁だ。
わかってる。わかってるんだ。
今、俺がハーシュに言われて、頭をよぎったのは。
ヴァンが彼女に微笑む横顔。
その琥珀の眼差しが自分にむけられていないことを妬ましく思う、俺の姿だ。
ヴァンがここにいなくてよかった。
きっと心を見透かされていた。
俺は良い男が好きだ。
色事多き男だと自分でも思う。
たくさんの出会いと別れを楽しんできた。
でもヴァンは違う、少し特別だ。
はじめて会ったあの夜をずっと忘れなかった。
再会した時、どうしようもなく心を掻き乱された。
誰かにその琥珀の眼差しが向けられると想像するだけで、無性に腹が立った。
この数ヶ月ともにいて。
その存在はどんどん大きくなって、かけがえのないものになっていた。
ここに来て。ここまで来て。
俺はこんなしょーもなく傲慢で、ワガママなわけ?
俺は自分に呆れて、頭を抱えてしまった。
スノーヴィア領現当主、メルロロッティ・スノーヴィアにございます」
俺がいない間にメルロロッティ嬢は正式に当主の座を継承していたようだった。
「マルゴーン帝国皇帝のアルヴァンドだ。ようやくお会いできて光栄だ、メルロロッティ嬢。
グレイから貴女の話は毎日のように聞いていたよ。噂に違わぬ美しい人だ」
そう言うと、アルヴァンドは俺を促す。
「おいでグレイ」
そう言われて、俺は緊張気味に一歩前に出る。
「大変ご無沙汰しております、お嬢様。
お別れしたあの日から私は…」
俺のメルロロッティ嬢への猛る愛を語り終わるより早く。
あれ?なんか俺を見た瞬間メルロロッティ嬢の目が紅く緋くなったような…と俺が思ったより速く。
渾身の令嬢右ストレートが俺の頬に炸裂した。
ハッと意識を取り戻すと、俺はかつての自室のベッドに横になっていた。
ベッドの前で、ハーシュが呆れ顔で俺を見下ろしている。
「熱烈な出迎えだったな。ま、自業自得だ」
ハーシュは淡々と俺をなじった。
ハーシュは手紙では一度も教えてくれなかったのだが。
メルロロッティ嬢は俺が彼女の許可なく独断でヴィルゴのもとへ行ってしまったことに、ひどくお怒りになったそうだ。
一因となったハーシュ含め、飛竜騎士団の面々が謝罪するも、聞く耳持たず。
その怒り度合いは何とビックリ。
1ヶ月もの間、辺境伯城の上空に守り手の巨竜が常駐することになったらしい。
しかも5匹。
あの黒竜サイズが5匹て。こっわ…
そう語るハーシュもいまだ相当怒っているようで、俺への物言いが冷たい。
「それで…あの。お嬢様は?」
「今頃、皇帝陛下と親睦深めてるだろ」
そっけなくハーシュは言い捨てる。
「よかったな。お前が望んだお嬢の幸せが叶うだろうよ」
言われて俺は記憶を呼び起こす。
そうだった。
メルロロッティ嬢に時期マルゴーン帝国皇帝との婚姻を勧めたのだった。
予知にズレが生じていたものの、それでもメルロロッティ嬢は俺の言葉を信じてくれていたのだ。
アルヴァンドも「手紙が来ていた」と言っていたっけ。
今回、アルヴァンドは俺の返還とスノーヴィア領の将来のためにここに来たのだ。
『メルロロッティ嬢の幸せを』
その約束を果たすために。
「そっか。よかった…」
ハーシュは俺を見下ろしながら、立ち上がる。
「美貌の帝国皇帝陛下と無敵のお嬢なら、誰も文句言わないだろーな」
続けて「お前に出る幕はないから部屋で休んでろ」とだけ言い、部屋を去っていった。
残された俺は、なんだろうか。
胸にちくりと痛みが残った。
メルロロッティ嬢とアルヴァンドの婚姻。
俺も望んでいたことだ。
でも、今必要不可欠かと聞かれるとそうでもないよな?
この世界は着実に平和への道を歩み出してて。
スノーヴィア領も独立領となり、バルツ聖国との友好関係も結んでる。
メルロロッティ嬢の想い人の件もうやむやになってるし。
無理強いしなくても…
…。
…今のは、詭弁だ。
わかってる。わかってるんだ。
今、俺がハーシュに言われて、頭をよぎったのは。
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その琥珀の眼差しが自分にむけられていないことを妬ましく思う、俺の姿だ。
ヴァンがここにいなくてよかった。
きっと心を見透かされていた。
俺は良い男が好きだ。
色事多き男だと自分でも思う。
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でもヴァンは違う、少し特別だ。
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誰かにその琥珀の眼差しが向けられると想像するだけで、無性に腹が立った。
この数ヶ月ともにいて。
その存在はどんどん大きくなって、かけがえのないものになっていた。
ここに来て。ここまで来て。
俺はこんなしょーもなく傲慢で、ワガママなわけ?
俺は自分に呆れて、頭を抱えてしまった。
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