【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep24 宰相の侍従02

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「次に俺を無視したり、約束の時間に遅れたら、ヴィルゴ宰相閣下に問題行動として報告するからな」
 俺の淡々とした物言いに、ピクリとゼクスは反応した。

「…………無視してない。約束も今から行こうとしてた」
 ヴィルゴに怒られるのは嫌らしい。

「舌打ちは報告にあげとく」

「……ヴィルゴの犬が」
 再びの舌打ち。

「犬じゃない、侍従だ。そしてお前のお目付け役でもある」

 俺はヴィルゴから直々にゼクスのお目付け役に抜擢された。

 ゼクスは反発する穏健派閥貴族の掃討作戦や貴族領制圧以外の時間は、サンドレア王城内にいる。
 面白いことに王城にいる間、ゼクスはこの世界に関する座学や一般教養、貴族教育をやらされているのだ。
 新王エルマーの護衛という立場として、最低限必要なのだそうだ。

 ゼクス本人に聞いたところによると、やはりもといた世界からいつのまにかこの世界に迷い込んだらしい。
 ——つまるところ、異世界転移者だ。

 もとの世界では誰でも使える異能力が、この世界には存在すらしないことに、新鮮味を感じたが魅力は感じなかったらしい。

 驚愕や畏怖の眼差しを向けられるくらいなら、何もしないで可能な限り目立ちたくないのだそうだ。

 俺にはわかる。コイツは生粋の陰キャだ。


 そしてその性質が祟ってか、ゼクスはとにかく見つけにくい。

 隠れているワケじゃないらしいのだが、日陰やじめっとした暗い場所。なおかつ、ちょっと回り込んだり分け入ったようなところにいつも座り込んで、じっとしているのだ。

 最初のうちはゼクスを探し当てるのに苦労したが、この1ヶ月で無駄に俺のかくれんぼスキルは上達した。


「立てゼクス。もうすぐ一般教養の座学の時間だ」

 俺はゼクスの腕をひっぱりあげる。
 余談だが、ゼクスは他の誰かに身体を触れられていると、例の異能力は使えないらしい。
 気が散るのだとか。

「うぅー離せ」
 嫌そうだが、しぶしぶ立ち上がるゼクス。


 ゼクスがこうして大人しく言うことを聞き、ヴィルゴに協力する理由は、王国の復興後、誰も近づくことのない静かな隠居場所を教えてもらうためらしい。
 いかにもゼクスらしい理由だ。
 そして、確かにヴィルゴの情報網を持ってすれば、最適な居場所は見つかりそうな気がする。


 座学の授業へと向かう俺の背中を見ながら、ゼクスがボソリと嫌味を言う。

「……あっさり懐柔されやがって」

 強硬手段で俺を攫ってきたにも関わらず、ヴィルゴの言いつけをしかと守り、お目付け役として小言を言い続ける俺が、ゼクスは気に入らないらしい。

「俺はもともとヴィルゴ宰相閣下は好きなんだ。この状況にさほど抵抗はない」

「身体も心もすっかりあいつのモノだもんな」

 たまにプレイ部屋や執務室でやらしーことしてることを俺もヴィルゴも隠していない。

「ヴィルゴ宰相閣下は最高な男だ。お前も一度抱かれてみたらわかる」
 勝ち誇った顔で俺は断言する。

「……フン。お前と竿兄弟になるのはゴメンだね」

「さおきょーだいってなに?」

 かわいい声で純粋無垢な質問が飛んできた。
 新王エルマーだ。

 ……気づかなかった。
 ゼクスの脇にへばりついてたのか。

「エルマー陛下。またこのような場所にへばりついておられたのですね」

「さおきょーだいってなに?」
 再びの質問。
 幼き王の口から出ていいワードではないね、うん。

「エルマー、お前王様のくせに何も知らないんだな」
 今度はゼクスが勝ち誇ったように鼻で笑う。

「竿ってのは男性器の隠語のことだ。兄弟ってのは同じその男性器を性行為を通して挿入……」

「4歳児に何教えてんだ」
 俺はエルマーの耳を塞ぎながら、ゼクスからエルマーをはがす。


 ゼクスはエルマーに相当に気に入られている。

 今日のように、エルマーが蝉のようにゼクスの服にへばりついているのを、たびたび目撃する。

 乳母や侍女がいなくなったエルマーを探す時、一番最初にゼクスの服にへばりついてないかをチェックするくらい、大概エルマーはゼクスにへばりついているのだ。

 幼き王とその護衛の距離感としては理想的なのかもしれないが。
 なかなかにシュールな光景だ。

 ゼクス的にはエルマーがへばりついているのはそれなりに邪魔ではあるらしく。
 その異能力を持って、へばりつかれている間はエルマーの周囲だけ重力調整を行なっているらしい。

 エルマーが自重に負けて落ちて怪我しないように、ゼクスはエルマーで重さを感じないようなっていると思われる。

 その証拠に、俺がエルマーを抱っこして離すと、エルマーがゼクスから手を離した途端にずしりと4歳児らしい重みが俺の腕にかかる。

 ……異能力の使いどころ、そこであってるのか?
 と正直思っている。


 どうでもいい事ばかりに万能を発揮しているゼクスに、以前俺は質問したことがある。

「頭の上に名前とかレベル見えちゃってるの?」
 とか、
「俺のステータスってどんな感じ?」
 とか。

 ゼクスには冷ややかな顔で、「お前…頭の病気なのか?」と失礼極まりないことを言われた。

 ゼクスとはそれ以来、異世界がらみの話はしなくなった。
 そのため、他にコイツのことは何も知らん。以上だ。



 ゼクスは今日も座学の教師から、王の護衛たるべき振る舞いから世間常識に至るまで、ビシバシ教え込まれていた。
 心から嫌そうな顔をしているが、大人しく授業を受けている。
 ……異能力なんてなければ、そのへんの若者と同じだな。

 そんなことを思いながら、ゼクスが無事授業に間に合ったことを見届け、俺は部屋を後にした。



 ゼクスはイヤな奴じゃない。
 エルマーも可愛い。
 ヴィルゴだって、心から尊敬できる人だ。

 彼らは多分。なにひとつ、間違ったことはしていない。

 ……絆されたワケじゃない、と思う。

 だが、俺には新たな心境が芽生えはじめていた。

 彼らやサンドレア王国の力になりたいと、心からそう思えるようになっていた。

 そして日々、俺がなすべき崇高な目的を思い出しては、葛藤する日々を送っていた。
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