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ep22 正しさと悪01
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メルロロッティ嬢は即答だった。
「いやよ」
「グレイは私の従者よ。誰にも譲らないわ」
淡々と拒否する。
その言葉が嬉しすぎて、変な声がでる俺。
咳払いして誤魔化すが、多分ふたりにはバレた。
彼女の返答は想定内だったのか、ヴィルゴ宰相は顔色ひとつ変えず言葉を続ける。
「一時的に借り受けたいだけだ。サンドレア王国のため、グレイの予知を必要としている」
俺はもう一度咳払いをし、ヴィルゴ宰相に現状を伝える。
「ヴィルゴ宰相閣下、申し訳ございません。私の予知は今、情勢とのズレが起こっています。お力にはなれないかと」
断りの理由の補足でもある。
「構わない。それでも私は君が欲しい」
おぅ……♡
この台詞、別の機会にもう一回言ってほしい。
互いに一歩も引かないメルロロッティ嬢とヴィルゴ宰相。
しばらく無言で火花を散らしていたが、この沈黙を破ったのはメルロロッティ嬢だった。
「ヴィルゴ宰相閣下。どうか諦めてお帰りを。スノーヴィア領はサンドレア王国との再びの盟約は望まず、協力も一切しない。私たちはマルゴーン帝国の手をとります。……グレイの予知を信じて」
その言葉にヴィルゴ宰相は不愉快極まりないといった顔怪訝な顔をした。
「……あの侵略国家の手をとるのかね。あれに力を貸して大陸統治など目指せば、どれだけの血が流れると思っている」
これには俺が反論する。
「ヴィルゴ宰相閣下。貴方が守ろうとしているサンドレア王国は滅びます。イタズラに延命措置をすることこそ、多くの血が流れるのではないのですか」
俺の言葉に、ヴィルゴ宰相は首を振りながら溜め息をつく。
そしてゆっくりと俺を見上げてこう言った。
「グレイ。君の予知は正しさの証明ではないよ」
呆れるように言われたその言葉に、俺は苛烈な情動が沸き上がった。
それは、自分が信じるものを否定されたことへの許しがたい感情。
「予知が導くものが、この世界で多くの血が流れる選択なのであれば、それは悪だ。君の成そうとしていることは悪だよ。正しい行いではない」
はっきりとそう言い切ったヴィルゴ宰相の言葉に、頭を鈍器で殴られたような感覚になる。
「……多くの血を流れる選択をした貴方に、言われたくはありません」
「言ったろう。あの時私にできた最も犠牲の少ない選択だ」
「では、貴方が私の予知を欲しがる理由は何ですか? 私の予知は正しくないのでしょう」
「あぁ。私の選択が間違っていないかの答え合わせに使いたいだけだ」
だんだんと声を荒げて余裕をなくす俺。
そんな俺を冷めた目で見据え、ヴィルゴ宰相は最後にこう尋ねた。
「予知の導きで多くの血が流れた先にあるものが、君は欲しいのか? 何のためだ。誰のためにだ?」
ゲームクリアするための大陸統治。
それを悪役令嬢のメルロロッティ嬢の幸せとともに。
とても言葉にできなかった。
動揺で焦点がずれ、視界が歪んだような感覚になる。
乾ききった唇を動かし、何か言葉を搾り出そうとした、その時。
応接間の扉が破れんばかりの勢いで開け放たれた。
「いやよ」
「グレイは私の従者よ。誰にも譲らないわ」
淡々と拒否する。
その言葉が嬉しすぎて、変な声がでる俺。
咳払いして誤魔化すが、多分ふたりにはバレた。
彼女の返答は想定内だったのか、ヴィルゴ宰相は顔色ひとつ変えず言葉を続ける。
「一時的に借り受けたいだけだ。サンドレア王国のため、グレイの予知を必要としている」
俺はもう一度咳払いをし、ヴィルゴ宰相に現状を伝える。
「ヴィルゴ宰相閣下、申し訳ございません。私の予知は今、情勢とのズレが起こっています。お力にはなれないかと」
断りの理由の補足でもある。
「構わない。それでも私は君が欲しい」
おぅ……♡
この台詞、別の機会にもう一回言ってほしい。
互いに一歩も引かないメルロロッティ嬢とヴィルゴ宰相。
しばらく無言で火花を散らしていたが、この沈黙を破ったのはメルロロッティ嬢だった。
「ヴィルゴ宰相閣下。どうか諦めてお帰りを。スノーヴィア領はサンドレア王国との再びの盟約は望まず、協力も一切しない。私たちはマルゴーン帝国の手をとります。……グレイの予知を信じて」
その言葉にヴィルゴ宰相は不愉快極まりないといった顔怪訝な顔をした。
「……あの侵略国家の手をとるのかね。あれに力を貸して大陸統治など目指せば、どれだけの血が流れると思っている」
これには俺が反論する。
「ヴィルゴ宰相閣下。貴方が守ろうとしているサンドレア王国は滅びます。イタズラに延命措置をすることこそ、多くの血が流れるのではないのですか」
俺の言葉に、ヴィルゴ宰相は首を振りながら溜め息をつく。
そしてゆっくりと俺を見上げてこう言った。
「グレイ。君の予知は正しさの証明ではないよ」
呆れるように言われたその言葉に、俺は苛烈な情動が沸き上がった。
それは、自分が信じるものを否定されたことへの許しがたい感情。
「予知が導くものが、この世界で多くの血が流れる選択なのであれば、それは悪だ。君の成そうとしていることは悪だよ。正しい行いではない」
はっきりとそう言い切ったヴィルゴ宰相の言葉に、頭を鈍器で殴られたような感覚になる。
「……多くの血を流れる選択をした貴方に、言われたくはありません」
「言ったろう。あの時私にできた最も犠牲の少ない選択だ」
「では、貴方が私の予知を欲しがる理由は何ですか? 私の予知は正しくないのでしょう」
「あぁ。私の選択が間違っていないかの答え合わせに使いたいだけだ」
だんだんと声を荒げて余裕をなくす俺。
そんな俺を冷めた目で見据え、ヴィルゴ宰相は最後にこう尋ねた。
「予知の導きで多くの血が流れた先にあるものが、君は欲しいのか? 何のためだ。誰のためにだ?」
ゲームクリアするための大陸統治。
それを悪役令嬢のメルロロッティ嬢の幸せとともに。
とても言葉にできなかった。
動揺で焦点がずれ、視界が歪んだような感覚になる。
乾ききった唇を動かし、何か言葉を搾り出そうとした、その時。
応接間の扉が破れんばかりの勢いで開け放たれた。
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