【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep21 招かれざる者02

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 残されたのは俺とメルロロッティ嬢に、エルマーとヴィルゴ宰相、その後ろに佇む側近。

 エルマーは側近によじ登りはじめている。微動だにしない側近すげーな…
 壁際に並んでいる8名のスノーヴィアの衛兵は、辺境伯の指示で残された。

「…まぁ、そうだろうね」
 堅苦しさの抜けたヴィルゴ宰相が脚を組んで背もたれに背中を預けながら、溜め息まじりにそう言った。


 俺とメルロロッティ嬢、そしてヴィルゴ宰相は特別な関係だったと思う。

 王立学園に通っている間、時間を見つけては三人で他愛のない話をしたものだ。
 出会った頃の思い出、学園生活のこと、王政についての愚痴。

 ポレロ辺境伯はそのことを知っていて、俺たちを残してくれたのだろう。
 話すべきことがあると信じて。


「……ヴィルゴ宰相閣下、なぜこのような暴挙に及んだのですか」
 メルロロッティ嬢が静かに尋ねた。

 ここへの突然の訪問もあるが、国王や王太子たちの処刑と穏健派閥貴族の虐殺のことだ。

 ヴィルゴ宰相はしばらく黙っていたが、静かにその重い口を開いた。
「私はね、他の者より記憶力が良い。君たちとはじめて出会った日の空の色や足元に咲いていた花の数、誰がその場にいて、どんな会話をしたか。一言一句まですべて覚えている」

 ……それは記憶力が良いの範疇超えてないだろうか。

「この記憶力で、サンドレア王国全域はもちろん、大陸のあらゆる場所から常に情報を集め、それらをすべて頭に叩き入れて、総合的に判断する。いくつもの選択肢の中から、最も王国のためとなり、できるだけ血の流れない選択をしてきたつもりだ」

 ヴィルゴ宰相は眉間に皺をよせ、不快そうな顔をしてこう続けた。

「…あの女が現れるまではね」

 はじめてみる彼の顔だった。
 メルロロッティ嬢もその顔の冷たさに少し緊張した面持ちだ。

「君たちも知っているだろう。いつの間にか王太子の隣にいた、ラヴィという女のことだ」

 その名前に俺はドクリと心臓が跳ねる。
 嫌と言うほど知っている、ゲームの主人公。

「あの女は駄目だ。人を虜にし判断を偏らせる、そういう性質を持っていた」


 ヴィルゴ宰相の話によると、婚約破棄の茶会後、しばらくしてラヴィが王太子とともにヴィルゴ宰相のもとに現れたそうだ。

 自分たちの婚姻を成就させるため「穏健派閥と結託し革新派閥を掃討したい」というとんでもない提案をひっさげて。


「当然棄却されるべき提案だが、あの女と話していると意思が歪められ、正しい判断ができなくなる。いつの間にか、あの女に最も都合の良い選択肢に偏るんだ。……自分で自分が制御できない。恐ろしい感覚だったよ」

 そして気づけばその提案を飲み、手遅れの状況になっていたのだそうだ。

「だから殺した。サンドレア王国のために」

 サンドレア王国全土を巻き込まず、これ以上の犠牲を出さないための犠牲。
 王族と反発する穏健派閥の掃討に乗り出すことに踏み切った。


「……あの日以来、嫌な感覚に襲われるようになった。脳が熱く煮えるような感覚。少しずつ自我を失うような感覚に。私はいつか二度と自我を取り戻せなくなるのではないかと、自分自身が恐ろしいよ」

 ヴィルゴ宰相は自嘲気味に微笑んでいる。
 その目には大きな犠牲を払ったことや自身の感覚への疲弊が克明に感じられた。少し痩せたかもしれない。


「メルロロッティ嬢」

 ヴィルゴ宰相は改めてその名を呼び、ソファに預けていた体を起こすと、メルロロッティ嬢へと向き直った。

 俺は直感する。

 彼がここに来た本当の目的は、おそらく今から口にすることなのだ、と。

 ヴィルゴ宰相はメルロロッティ嬢、そして俺を見てこう言った。

「グレイを私に譲ってはもらえないだろうか?」

 …………ん?え。俺?
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