【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

文字の大きさ
上 下
19 / 84

ep11 一夜明けて

しおりを挟む
 マルテが翼を広げ伸びをした音で、俺は目を覚ました。

 霞がかった針葉樹の森は冴え渡った空気を纏い、鳥のさえずりが遠くで聴こえる。
 東の空が微かに明るくなりはじめていた。

 俺とヴァンは互いの外套と携帯用毛布に折り重なるように埋もれ、互いを温め合うように手足を絡めて眠っていた。

 俺はそっと離れて、身支度を整える。
 ヴァンは起きない。

 焚き火は消えていたが、仄かに温かさが残っていた。
 荷物をとりまとめ、マルテに荷物を固定する。
 ヴァンは……まだ起きない。

 俺はいつまでも起きないヴァンの肩を優しく揺すった。

「起きてくれ、ヴァン。そろそろ発ちたい」
 ヴァンは眉をひそめ、うっすらとその琥珀の瞳を開いた。

「………………ん?……あー……グレイ。そうか………うん?
 ……ちょっと待て。………んー」

 めっちゃ寝ぼけてる。なんか意外だ。

 ヴァンは目を閉じたままゆーらゆら揺れていたが、ペタペタと俺の腕に触れる。
 そして両手で俺の服をぎゅっと掴んだまま、ぽそりと呟いた。

「………グレイの紅茶が飲みたい」
 ずるいだろ、ソレ。

 俺が出発できたのは、日がすっかり昇りきってからとなった。



 ヴァンはしばらく揺れていたが、ようやく目を覚ますと、俺が淹れた紅茶を優雅に飲み、身支度を整えはじめた。

 その間、俺たちの距離は保たれていた。
 出会ったばかりの互いを偽っていた遠さもなければ、濃密な一夜を過ごした近さもない。
 互いの立場にもどる準備を整えた、そんな距離感だ。

 ヴァンに再度そろそろ発つ旨を伝えると、ここで別れて問題ないとあっさり言われた。

「ではなグレイ。世話になった」
 間近の飛竜を物珍しげに眺めながら、ヴァンは俺に微笑む。

「あぁ」
 俺も微笑み返し、短い別れの挨拶を交わした。
 これでいい。



 俺は翼を広げたマルテと高く飛び立った。

 ふと、南東の空に黒い影が見え隠れしているのに気づく。
 ヴァンのグリフォンか。名前は確か、モルローだ。

 こちらの様子を伺うように、構ってほしそうに、クルクル回っている。
 ……なるほど、大人しいと愛嬌があって可愛いんだな。

 俺はその場で南東にむかってくるりと旋回し、そのまま高度をあげ、野営地を去った。

 最後にちらりと野営地を振り返る。
 ヴァンはまだ、俺たちを眺めていた。



 その後のスノーヴィア領への帰路は順調で、たまにマルテの翼を休めながら最短ルートを翔け抜けた。

 マルテは終始機嫌がよく、メルロロッティ嬢が単独で乗る時と同じくらいの速度で飛んでくれた。
 結果的に辺境伯城へは、当初の予定から多少遅れたものの、4日目の深夜に到着することとなった。

 途中立ち寄った要塞で確認したところ、メルロロッティ嬢はすでに城にもどっており、ハーシュ一行も問題なくこちらに向かっているとのことだ。


+++++


 久しぶりのスノーヴィア領辺境伯城の自室。

 俺の部屋は城の東側、飛竜騎士団の宿舎が近い棟にある。
 人目を盗んでは宿舎を往来する俺にとって、大変便利な場所です。ええ。

 俺は数日間の旅で荒れた身なりを整え、軽く眠り、メルロロッティ嬢との再会に備えることにした。
 明日は辺境伯とメルロロッティ嬢に、王都での顛末、俺の予知、そしてマルゴーン帝国との今後について話をする。

 部屋の浴室で湯を沸かして浸かると、一気に眠気が襲ってきた。
 微睡みながら、ここ数日で起こったことを思い出す。

 メルロロッティ嬢が婚約破棄され、茶会で守り手の黒竜を呼び寄せたこと。

 サンドレア王家とスノーヴィア家の盟約が白紙となり、離縁したこと。

 ハーシュが王都に来て、久しぶりに宿屋で熱を交わしたこと。
 ハーシュは相変わらず主導権を握り、いやらしい言葉で攻め立てるのが大好きだったこと……

 帰領の途中でヴァンに出会い、濃密な一夜を過ごしたこと。
 ヴァンは俺の騎士団仕込みの技の数々に大変満足し快がっていたこと……
 幾度目かのラウンドではヴァンが「君を喜ばせよう」と可愛らしくもあられもない上級者向け体位で俺を骨抜きにしたこと……


 ………うん。
 思い出さなくていいことばかり、思い出してきたな。


 俺は早々に湯からあがり、少し伸びていた髭を剃り、髪と眉を適度に整える。
 そして足早にベッドに入った。

 思い出して妙な気分になる前に、寝てしまおう。
 そう思い瞼を閉じているうちに、俺は静かな眠りについた。

 ……てのは嘘だ。
 1回抜いてから寝た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...