【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

文字の大きさ
上 下
15 / 84

ep10 そこに至るまでの経緯01

しおりを挟む
 サンドレア王国の北部、黒々とした針葉樹が続く静かな森。

 少し奥まった崖の岩場で静かに燃える焚き火は、そろそろ新たな薪をくべても良い頃合いだ。
 表面が燃えきって炭となった薪はじっくりと熱を持ち、火は赤々と一帯をゆるやかに照らしている。

 そんな仄かな灯りに照らされる中。

 ヴァンと俺は深く唇を重ねていた。

 俺がヴァンを押し倒した状態。たまに琥珀と灰色の視線をあわせ、角度を変え、唇に短く触れては、また深く舌を絡ませる。

 互いの熱を確認しては、その熱に自分の情欲を溶かすような、甘やかなキスを繰り返す。

 ……うん。
 いや、言いたいことはわかるよ。
 わかってる。

 この展開に至るまでの経緯、ならびに言い訳をさせてほしい。


+++++


 互いに名乗りあった俺たちは、短い問答をしばらく続けた。

 とりあえず俺はストレートに尋ねる。
「君は誰に仕えているんだ?」

「誰にも」
 …教える気はないらしい。

「逆に問うが、私が誰に仕えているかで君の私への振る舞いは変わるのか?」

「多少は」

「マルゴーン帝国は皇位継承争い真っ只中だからな。皇帝となり得る者と懇意にしたい、か」

「そんなところだ」

「スノーヴィアは強かだな」

「褒め言葉として受け取っておく」

 ヴァンからは彼自身のことを全くと言っていいほど聞き出せなかった。
 逆に俺はそのことに安堵する。

 彼が密談のためにサンドレア王国へ訪問に来ているのであれば、身分は明かせないし、口外もできない。

 第七皇子関係者であれば何ら問題はないが、いたずらに他の皇子と繋がりができることを俺は懸念していた。
 だが、ヴァンとの出会いがマルゴーン帝国とスノーヴィア領の未来に影響することはないだろう。

 その後もしばらく、ヴァンとはそんな問答を繰り返し、互いに出せる情報を出しきった頃。
 俺は食後に紅茶を入れることを提案し、ヴァンは快諾した。
 帝国でも茶は嗜まれる。好きなのかもしれない。

「君のグリフォンはここにはいない。明日はどうするつもりなんだ?」
 携帯用マグカップに紅茶を淹れながら、明日のヴァンの予定をそれとなく探る。

「モルローなら問題ない。あの子はあれで臆病だ。近くの森に潜んでいるだろう。
 明日になれば、呼び声で私の元にもどってくるさ」
 そう言いながら、ヴァンはどこか嬉しそうに紅茶の入ったマグカップを受け取る。

 モルロー……あのグリフォンの名か。
 あの巨体で臆病なのかよ。

 隙あらばすぐ居眠りするマルテが眠らず南東ばかり見ているのは、その方角にグリフォンが潜んでいるからかもしれない。

「他国との密談など、誰でもできることじゃない。君は表舞台では何をしているんだ?」

「質問が多い。次は私の番だ」
 探りを入れる俺を軽くあしらい、ヴァンは紅茶をすいと飲みきる。

 空になったマグカップを俺に差し出す。
 ヴァンのターン。おかわり所望ね。

「グレイという名。嘘ではないが、本名でもないだろう。周りの人間にそう呼ばれているのか?」

「…あぁ」

 なぜそんなことまでわかるんだ?
 内心驚きつつ俺は肯定する。

 俺の本当の名前はグレイじゃない。
 髪と目の色が何色にも寄らない灰色だから、メルロロッティ嬢や辺境伯、親しい者たちが愛称としてそう呼んでいるだけだ。

「ふぅん、なるほどな」
 ヴァンはそう呟くと、俺が紅茶を淹れる様子をじっと観察しはじめた。

 ちょっとしたやりとりでも、ヴァンは何かを察してくる。
 見透かされているようで、正直気が気じゃない。

 やめろ。
 その顔面偏差値で俺を舐めるように見るな。
 手元が狂うだろ!

「紅茶の淹れ方がうまい。主人はさぞかし紅茶にうるさいのだろうな」
 琥珀色の瞳を楽しそうに細める。

 従者ということが、たった今バレたらしい。
 何でだよ!?

「ふふ、君はわかりやすい。考えごとをしている時それが顔によく出ている。
 あまり嘘をつくのに向いていない性分だと、自覚した方がいい」

 またしても俺の考えごとしてる顔について。
 ……もう何とでも言ってくれ。

「今日、縁ができたのが君でよかった」

 俺のやりづらそうな態度を察したのか、ヴァンは口元に笑みを浮かべたまま、視線を焚き火にもどしてそう言った。

 ヴァンはそれ以上は何も言わない。
 彼の中ではこれ以上の探り合いは終わりにしたいようだ。

「気に入ってもらえたなら、光栄だ」
 俺もそれ以上は何も言わない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
 離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。  狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。  表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。  権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は? 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう 【注意】※印は性的表現有ります

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

処理中です...