【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep4 王太子の婚約破棄02

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「私ともども、竜を飼い慣らせ?」


 ヴィルゴ宰相や俺以上に、激昂を露わにした者の気配に茶会会場は一気に静まりかえった。

「王太子殿下」

 メルロロッティ嬢の突き刺すような視線と温度のない言葉に、王太子はおろか、国王と王妃までも気圧されていた。

「婚約破棄と今の発言。元婚約者としてスノーヴィア家次期当主として、王家からの侮辱と受けとるがよろしいか?」

 言葉がうまく見つからず青ざめているが、王太子は彼女の覇気に負けじと、言葉尻を必死に捉えようとする。

「はっ!何が次期当主だ。お前はスノーヴィア家の末女だろう。兄らを押し退けて当主にでもなるつもりか?強欲な!」
 その言葉に周囲がこれ以上はやめろと身振り手振りで王太子を諌める。

「スノーヴィア家は代々、その当主は竜の天啓より決められている。私はその天啓を受けた正当な次期当主だ」
 そう淡々と続けるメルロロッティ嬢に振り返ったヴィルゴ宰相がギョッとした顔をした。

 俺はこの時ようやく気づいた。

 令嬢の目が紅く緋く輝いていることに。
 王都のはるか北で一瞬聞こえた轟き。
 近づいてくる風を切る轟音に。

 慌ててヴィルゴ宰相を見やると、彼もまた目で頷き衛兵に叫ぶ。
「国王陛下と王妃をすぐに避難させよ!他の者たちもこの場を離れるように!」

 そして足早に王太子のもとに行くと、ヴィルゴ宰相は侮蔑に満ちた表情で、王太子の襟元を掴みあげた。

「おまえはここで赦しを乞え。赦されなければそれまでだ。死んで詫びろ」
 そのまま床に勢いよく王太子を叩き落とす。ラヴィも「きゃんっ」とか言って転げた。

「あぁ、大丈夫かいラヴィ!?おい宰相貴様!不敬だぞ!私はこの国の……」
 そう王太子が叫ぶ間もなく。


 サロンが轟音とともに爆ぜた。


 一瞬で粉々に砕け散るガラス。
 爆風に吹っ飛ばされるテーブルや椅子。
 露わになる空。

 竜巻が起きたかのような暴風の中。
 天井と壁が爆ぜ飛んだサロン上空、その虚空に巨大な黒い塊が現れた。

 艶やかな鋼のような鱗が、翼を動かすたびに鈍く乱反射する。
 体長20メートルをゆうに超えるであろう、巨躯の黒竜。

 現れた黒竜はメルロロッティ嬢のすぐ後ろへと降り立つ。
 着地の重低音とともに風がぶわりと舞った。

 メルロロッティ嬢の視線はいまだ王太子から逸らされない。
 王太子はもはや腰を抜かして、声にならない声で何事かを言っているようだった。

「今この瞬間より、王家とスノーヴィア家の間で交わされた盟約を白紙とする。スノーヴィア家は受けた侮辱を忘れない。
 今後、王家の者は何人も我が領内へ踏み入るな。破られた場合、敵とみなし自領の防衛として武力を行使する」
 そう告げたメルロロッティ嬢の瞳が不快げに細められる。
 それに呼応するように、黒竜が王太子に首を近づけ歯を剥き出しにした。

 ヴィルゴ宰相がメルロロッティ嬢に何か言うより早く、彼女は黒竜の鼻先に触れこう呟いた。

「……美味しくないわ」

 メルロロッティ嬢はヴィルゴ宰相へ向き直ると、再び美しく完璧な挨拶をする。

 次は王太子のもとへ。
 へたりこんでいた王太子の襟元をつかみあげ、そして。

 美しい右ストレートを王太子の頬に叩き込んだ。

 こうして婚約破棄が宣言された王城での茶会は、想像を絶する破壊と混乱をもたらし、幕引きとなった。
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