【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト

しゃもじ

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ep4 王太子の婚約破棄01

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「まずは私と共にいるこの可憐な女性を紹介させてもらおう!」
 茶会の空気を読まず、語りはじめた王太子の話の内容はこうだ。

 オレ王太子!
 王立学園でラヴィと運命的な出会いを果たし、恋に堕ちたんだ。だけど許されぬ身分違いの恋……諦めかけた時、彼女に幸運が舞い降りた!
 彼女はその聡明さで爵位ある家柄(ギットギトの穏健派閥)の養女になれたんだ!これで晴れて誰もが認める関係になれる!
 てことで、今日この場でお披露目することにしたんだ!

 ……とのことだ。
 バカっぽいのは俺の演出だ。

 国王と王妃は興奮気味に話す愛息子を気分よく応援している。
 あの感じ、内容はまともに聞いちゃいない。

 王太子が喚く中、メルロロッティ嬢は静かにヴィルゴ宰相の傍に佇んでいた。
 俺はその凜とした美しい姿見て、手にぐっと力を込める。

 これからの彼女を思うと胸が痛んだ。
 拒絶の言葉を並べられ、謂れのない悪意をぶつけられる。
 平気な人間などいない。
 人間てのは、そんな強くできていない。

 今すぐにでも切り刻んでやりてぇ。
 心の中で何回か王太子をブチ殺しながら俺は目の前の茶番劇を睨み続けた。



「——よって、私はここに宣言する!
 スノーヴィア家の令嬢、メルロロッティ・スノーヴィアとの婚約を破棄することを!!」

 しばらくの後、満足行くまで語らった王太子は高らかに腕を振り上げ、ビシッと指さした。
 メルロロッティ嬢が最初に案内されたテーブル席に。

 当然彼女はいない。

「……あれ? 令嬢はどうした!?
 おい、あのへんに座る予定だと言ってなかったか?」
「いやーオレもあのへんに座ってるって聞いたけど?」
「あ、もしかして欠席?」
 王太子と取り巻き令息たちがオロオロしはじめた。

 ちなみに。
 この取り巻き令息たち、いわゆる『攻略対象』というやつだ。
 何となく顔に見覚えはあるが、マジで記憶が薄い。
 どのルートだろうとシミュレーションパートの難易度って変わらずだったもんな。
 ……うむ、仕方なし。

 一方。
 国王をはじめ国政を担う貴族たちは、王太子自らの婚約破棄宣言ということの重大さに凍りついている。

「王太子殿下、ご令嬢ならここに」

 そこに、低く威圧感のある声が響いた。

「今の婚約破棄宣言は本気で仰っておられるのか?」

 王太子含むすべての人間がその一声に怯み、しんと静まりかえった。
 声の主が誰なのか、ここにいる全員が知っている。

 皆の視線の先には、悠然と座るヴィルゴ宰相。
 そして傍に佇む令嬢メルロロッティ。

「宰相……あ、令嬢もそこにいたのか。はは、は……うん。婚約を進言したのは貴殿だからな。親しいのは当然か。そうか、そうか……」
 王太子は急に声を小さくして目を泳がせる。

 しかし自分にすがりつくラヴィの潤んだ上目遣いをみるやいなや、ぐっと顔をあげた。
 その度胸と勇気だけは褒めてやるよ。

「もう一度問おう、殿下。ご自身の立場と婚約破棄するという意味、理解して仰っておられるのか?」
 冷ややかな口調でヴィルゴは再度、王太子に確認した。

「ほほほ、本気だとも!それに立場と意味もわかっている。バカにするな!ラヴィと私が添い遂げるのは運命なんだ。運命は誰にも侵害できぬ、唯一無二のものだ!」
 ヴィルゴ宰相に気圧されながらも、惚れた女の手前ひくことができなくなった王太子は言葉を続ける。

「そ……そこの令嬢では私は嫌なのだ!わかるだろう。この女は私に愛嬌ひとつふりまけない。そんな伴侶で私がどれほど未来に不安を抱くか……」

 愛嬌ないのが逆にいいんだろうが。
 静かにキレ散らかす俺。

「未来に不安を?勘違いなさるな。未来は殿下のものではなく、サンドレア王国のものだ。王国の未来を殿下は担っているのですよ」
 ヴィルゴ宰相は王太子にむかって歩きはじめる。

「スノーヴィア家だけではない、他の者達もそうだ。国が愚鈍であれば見放し、落ちぶれれば離れていく。そして今。このサンドレア王国は脆く危うい状況にあることを、殿下も知っておられるはずだ」

 穏健派閥と革新派閥、その両方に届く声でヴィルゴ宰相が場を収めようとしているのがわかった。
 中立を保ち、サンドレア王国の再建を願っている男の言葉は静かに響き渡る。

「殿下。今すぐ婚約破棄の宣言を取り消し、メルロロッティ嬢に謝罪されよ」
 ヴィルゴ宰相の圧のある言葉。

 さすがに空気の悪さを察してか、国王が仲裁に入ってきた。
「あーいやいや。王太子よ落ち着きなさい。宰相も、そう怖い顔をせず……若気の至りというものだろう?いいではないか。正室にはなれぬであろうが、爵位があるのであれば側室で……」

「いいわけないだろう!?ラヴィは正室だ、他の女などいらない!!」
 顔を真っ赤にして声を荒げる王太子。もう手がつけられない状態だ。

「はっ!ならば宰相よ。それだけスノーヴィア家との繋がりが欲しく、そこの令嬢を可愛がっているのなら。お前の女にでもすれば良いだろう!
 その冷徹女と屈強な竜ともども、飼い慣らせばいい!!」
 王太子のその言葉はしんと静まり返ったサロンに高らかに響いた。

 ヴィルゴ宰相の顔は一瞬凍りつき、瞬時に怒気を露わにして王太子を睨む。

「今の発言は撤回なされよ」
 宰相の強く冷ややかな言葉に王太子はたじろぐが、撤回しない。


 その一瞬が決定打となった。
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