そして錬金術師へ、無限の先の到達点を。【改訂版:ルートα】

おとも1895

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Re:プロローグ 《日常》の壊れる物語

第1話 エピローグ、あるいはプロローグ

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 言野原 進ことのはらしんは、パタンとその手に持っていた本を閉じた。
 文庫本サイズの____世間一般的にラノベと呼ばれるものの中でも、硬派な作品であるそれを大切そうにバックの中にしまいこみながら、ふと隣が気になって顔を動かす。


里奈りな、何やってんだ?」


 その目線の先で幼馴染小都里奈が、スマホを使って何やら忙しなく指を動かし、怪しい動きをしていたので怪訝そうな顔をしながら聞く。


「何やってんの?」

 そんな疑問に、彼女はその画面から顔を上げて進の方を見返した。
 
「……何って、ゲームだけど。って、負けたし!?」
「いやお前、それってまるっきり校則違反なんじゃ……?」


「なんか言った?」
「ヴェ、マリモ!」


 進の反応を見てクスクスと里奈は、おもしろおかしそうに声を押さえて笑った。なんの含みもない楽しげなそれだった。
 それを面白くなさそうに見つめ返しながら、進はそのまま美少女キャラがぴょこぴょこ動いているそのスマホをヒョイと取り上げた。

 そうして、校則違反の彼女に一言。
 
「……おまっ、今回のガチャのトップキャラ引いてんじゃねぇか。いいなぁ」
「ちょ、スマホ返して! というか、進の方こそ引けてなかったの? 私よりプレイしてるでしょ?」

 注意をするわけではない。
 進も同じことをしないわけがないので、いうことができないというのが正しいか。
 
「ハッハッハ。俺の運の無さを舐めるなよ。現在絶賛350連爆死中だ!」
「無課金で?」

「……無課金で」
「それは災難だったね。代わりに私のプレイでもみとく?」


「ただの煽りにしか聞こえねぇ……」
「実際煽ってるだけだしね」
 

 チッ、と進は舌打ちする。
 本気で嫌がっているわけではなくあくまでも羨ましいなという感じのそれで。
 彼女との会話で思ったことを隠すようなことはしない。

 だとしても、


「ところで進。なんかあったの?」
「はぁ?」


 進は里奈の突拍子もない質問に怪訝そうな顔を返した。
 何かあったの、と聞かれてはいありましたと答える人間も少ないだろうな、なんて進は思いながら聞き返す。


「逆に、俺に何かがあったように見えるか?」
「ううん、そうは見えない」

「だろ?」
「でも、なんかいつもと気配が違うっていうか……。ほら私って進のこと見てなくても大体どこにいるか気配で察知できるじゃん?」


「そんなお話初めて聞いたんですけど? え、なに俺にだけ特化した探査魔法でも使えるわけ?」


 怖くなって、冗談だよなと進が効くと、返ってきた答えは半分ねという何とも言えない物だった。
 つまり、完全には否定してくれないのだ。

 そのせいで里奈という人間がさらに怖くなってきた進だったが、それが本当だったら面白いのにな、と少しだけ思ってしまっていた。

 言野原進という少年にはこの世界は退屈すぎる。
 異能も魔法もない世界なんて、なんの魅力も感じないじゃないか、とそう思ってしまうのは進のオタク気質な部分が顕著に出ているのだろう。


「まぁ、ただの勘だけど気をつけてね。私のサイドエフェクトがそう言ってる」
「でも実際それも馬鹿にできないからなぁ」

「進の勘っていうのは私以上に当たるからねぇ。というか、私のパロディに反応なし!?」
 

 まぁな、と適当に聞き流した進だったが少しだけ面白そうに口の端を歪めた。


(……勘、ねぇ)

「進?」


 だんまりとした進を不思議に思ったのか幼馴染が疑問系で自分の名前を呼んだのだが、それに対して進はまっすぐ目を見つめ返しながら答える


「なんだか面白いこと不可解なことが起こる気がするな」


 不思議と浮かれたような気分になった進だった。


 
 ***



 以上、回想終わり。


(うん、間違いない。ちゃんと授業を受けてバカな話をして、家に帰っていろんなことして寝たはずだ)


 進は今日一日の自分の行動を振り返ってみて、うんうんと頷いていた。
 何もない日常、変化のない高校生活。
 明日も学校があって、みんなと会って……。

 進はそんな日常をずっと謳歌するはず、なのだが。


(え、まじでどこだここ)
 

 今この瞬間、自身の置かれた状況が理解できずに彼はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
 その場所は、だだっ広い真っ白な空間だった。

 否、そんな広い空間の中には終わりの見えない、長い長い本棚と大量の本が展開されていた。
 おそらくだが、世界一蔵書料の多い図書館なんか比ではないくらいの量の本があるのだろう。
 

 好奇心がくすぐられて、進が一歩を踏み出そうとしたまさにのその瞬間。


「やめておいた方がいいと思うよ。君の足の速さじゃ、終わりには辿り着けないだろうからね」
(っ!?)


 聞こえてきたのは、さらさらとした印象を残す少女らしいアルトの声。
 透き通るようなそれだったが、どこか神秘的なものを醸し出している気がして心地が良い。

 進はあまりにも驚きすぎたせいで振り向きざまに足を絡ませかてしまう。
 ズデン、と尻餅をつきながら進は疑念を抱く。


(誰、だ?)


 単純かつ明快。
 それを進は口に出そうとはしなかった。

 いいや、この場所では声を出すことができない。
 進という人間は発言を許されてはいないのか。


「“メモリー“って呼んでくれると嬉しいかな。真名的には違うんだけど、君とは対等に付き合っていきたいから」


 その少女の発言に、進は再び驚きをあらわにする。
 この少女、今まるで自分の心を読まなかったか、と。

 その確証は進には持てなかったのだが、そんなことで混乱する彼を見てメモリーはクスリと笑う。

 そのロングに伸びた黒髪がサラリと微弱に揺れる。


「心を読めるか読めないかでいけば、読めるよ。君の思考の最初から最後まで、ね」

(うっそぉ……。え、何。厨二病設定な訳じゃ……)


「そんな設定ありません~。私は妄想癖の行き過ぎた人とは違って本物なんですぅ。その証拠に君の名前くらいなら聞かずともわかるよ、ってこれはあんまり証拠にはならないか」


 まぁ頑張って調べればそんなもの手に入るだろうしな、と進は苦笑した。


「あ、こんなのならどう? 君____進くんのみんなに隠してる性癖は、巨ny」

(降参ですそれだけは暴露するの勘弁してください。もう厨二病なんじゃないかとか疑いませんから。えぇ本当に俺がバカでした。世の中にはそういう人がいてもおかしくないですしね。なんかもう生きててごめんなさい)


「えぇ……たかだか性癖のためだけに必死になりすぎじゃない?」

(男は女子に自分の性癖暴露されるだけで傷つくんだよ‼︎)


 そんな情けのないことを堂々と____とはいえ心の中で____宣言した進だったがメモリーは楽しそうに笑うだけであった。

 この無邪気な笑顔が進の怒りを鎮静するのに役立っている。
 というかむしろ美少女のニヤケ顔をずっと見ていられるのだから進にとっては眼福まである。


「進くん?」
(……ベツニオレハナニモヨコシマナコトハカンガエテナイヨ、ホントダヨ)


 本当である。

 なんて、そんな冗談はさておき進は改めて目の前のメモリーという少女を見つめ返す。
 その視線に気がついたのか、あるいは気がつく前からそうだったのか、深く美しい黒の瞳も真っ直ぐと見つめ返してきていた。

 可愛いな、なんてふざけている時はそう思ったのかもしれないがあいにく様そんなことを思うような思考は今現在進には存在しなかった。


(さて、こうしてお互い打ち解けることができたわけだし。少し俺にも情報が欲しいな)


 さてもの進とて、こんな場所に急に呼び出されてしまっては混乱を免れることはない。
 いや、むしろファンタジー的なアレだ、ヒャッホーなんて飛びついていってしまいそうな思考の持ち主だったが流石に、だ。


「たとえばどんな情報が欲しいの?」
(ここはどこ……っていう質問をしたかったんだけど……)

「けど?」

(いや、こんなミステリアスな場所の答えを先に聞いちゃうのは面白くなくね? 厨二心に反するくね?)


「うん、ここは世界中のありとあらゆる知識が常に更新され続ける、いわば《知識の大図書館》だよ?」

(そしてこっちの説明無視して答えを言いやがったよこの野郎。……いや、野郎ではないか、少女だし)


 進はその説明を受けてもう一度当たりを見渡してみる。
 やはり、どこをみても本棚、本棚、本棚、本棚____。

 あとは本棚が置かれている以外何もない白い空間だけ。
 なるほど、確かに《大図書館》だなと納得できるくらいにはそれに再び圧倒された。


「他にはどんな情報が欲しい?」
(なんかゲームのNPCみたいな定型分だな……)

「私はちゃんと意思を持っているけどね。他にはどんな情報が欲しい?」
(やっぱNPCの真似してるだろ、そうなんだろ!?)

「別にーー。というか、本当に私に教えて欲しいことはないの?」


 ふむ、と進は右手を顎の下まで持っていって考える。
 聞きたいこと、なんてそうやって簡単に言われると進は困るものだ。

 なんせ、聞きたいことが多すぎるのだから。
 メモリーはそうやって思い悩む進を見てじゃぁ、と口にする。


「根本的なところから話そうか。どうして君をここに呼んだのか、とかね」


 明るい彼女からは想像もできないような、不敵な笑みに進は目を見開く。
 彼女はそれでも楽しそうに口元に笑みを浮かべていた。


「ようこそ進くん。私たちの《旧世界》へ」


 そう言ってメモリーは、進の方へ右手を差し出してきた。
 その活発的な笑みを、進は一生忘れることはないだろう。
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