上 下
1 / 30
Re:プロローグ 《日常》の壊れる物語

第1話 エピローグ、あるいはプロローグ

しおりを挟む
 言野原 進ことのはらしんは、パタンとその手に持っていた本を閉じた。
 文庫本サイズの____世間一般的にラノベと呼ばれるものの中でも、硬派な作品であるそれを大切そうにバックの中にしまいこみながら、ふと隣が気になって顔を動かす。


里奈りな、何やってんだ?」


 その目線の先で幼馴染小都里奈が、スマホを使って何やら忙しなく指を動かし、怪しい動きをしていたので怪訝そうな顔をしながら聞く。


「何やってんの?」

 そんな疑問に、彼女はその画面から顔を上げて進の方を見返した。
 
「……何って、ゲームだけど。って、負けたし!?」
「いやお前、それってまるっきり校則違反なんじゃ……?」


「なんか言った?」
「ヴェ、マリモ!」


 進の反応を見てクスクスと里奈は、おもしろおかしそうに声を押さえて笑った。なんの含みもない楽しげなそれだった。
 それを面白くなさそうに見つめ返しながら、進はそのまま美少女キャラがぴょこぴょこ動いているそのスマホをヒョイと取り上げた。

 そうして、校則違反の彼女に一言。
 
「……おまっ、今回のガチャのトップキャラ引いてんじゃねぇか。いいなぁ」
「ちょ、スマホ返して! というか、進の方こそ引けてなかったの? 私よりプレイしてるでしょ?」

 注意をするわけではない。
 進も同じことをしないわけがないので、いうことができないというのが正しいか。
 
「ハッハッハ。俺の運の無さを舐めるなよ。現在絶賛350連爆死中だ!」
「無課金で?」

「……無課金で」
「それは災難だったね。代わりに私のプレイでもみとく?」


「ただの煽りにしか聞こえねぇ……」
「実際煽ってるだけだしね」
 

 チッ、と進は舌打ちする。
 本気で嫌がっているわけではなくあくまでも羨ましいなという感じのそれで。
 彼女との会話で思ったことを隠すようなことはしない。

 だとしても、


「ところで進。なんかあったの?」
「はぁ?」


 進は里奈の突拍子もない質問に怪訝そうな顔を返した。
 何かあったの、と聞かれてはいありましたと答える人間も少ないだろうな、なんて進は思いながら聞き返す。


「逆に、俺に何かがあったように見えるか?」
「ううん、そうは見えない」

「だろ?」
「でも、なんかいつもと気配が違うっていうか……。ほら私って進のこと見てなくても大体どこにいるか気配で察知できるじゃん?」


「そんなお話初めて聞いたんですけど? え、なに俺にだけ特化した探査魔法でも使えるわけ?」


 怖くなって、冗談だよなと進が効くと、返ってきた答えは半分ねという何とも言えない物だった。
 つまり、完全には否定してくれないのだ。

 そのせいで里奈という人間がさらに怖くなってきた進だったが、それが本当だったら面白いのにな、と少しだけ思ってしまっていた。

 言野原進という少年にはこの世界は退屈すぎる。
 異能も魔法もない世界なんて、なんの魅力も感じないじゃないか、とそう思ってしまうのは進のオタク気質な部分が顕著に出ているのだろう。


「まぁ、ただの勘だけど気をつけてね。私のサイドエフェクトがそう言ってる」
「でも実際それも馬鹿にできないからなぁ」

「進の勘っていうのは私以上に当たるからねぇ。というか、私のパロディに反応なし!?」
 

 まぁな、と適当に聞き流した進だったが少しだけ面白そうに口の端を歪めた。


(……勘、ねぇ)

「進?」


 だんまりとした進を不思議に思ったのか幼馴染が疑問系で自分の名前を呼んだのだが、それに対して進はまっすぐ目を見つめ返しながら答える


「なんだか面白いこと不可解なことが起こる気がするな」


 不思議と浮かれたような気分になった進だった。


 
 ***



 以上、回想終わり。


(うん、間違いない。ちゃんと授業を受けてバカな話をして、家に帰っていろんなことして寝たはずだ)


 進は今日一日の自分の行動を振り返ってみて、うんうんと頷いていた。
 何もない日常、変化のない高校生活。
 明日も学校があって、みんなと会って……。

 進はそんな日常をずっと謳歌するはず、なのだが。


(え、まじでどこだここ)
 

 今この瞬間、自身の置かれた状況が理解できずに彼はぱちぱちと瞬きを繰り返す。
 その場所は、だだっ広い真っ白な空間だった。

 否、そんな広い空間の中には終わりの見えない、長い長い本棚と大量の本が展開されていた。
 おそらくだが、世界一蔵書料の多い図書館なんか比ではないくらいの量の本があるのだろう。
 

 好奇心がくすぐられて、進が一歩を踏み出そうとしたまさにのその瞬間。


「やめておいた方がいいと思うよ。君の足の速さじゃ、終わりには辿り着けないだろうからね」
(っ!?)


 聞こえてきたのは、さらさらとした印象を残す少女らしいアルトの声。
 透き通るようなそれだったが、どこか神秘的なものを醸し出している気がして心地が良い。

 進はあまりにも驚きすぎたせいで振り向きざまに足を絡ませかてしまう。
 ズデン、と尻餅をつきながら進は疑念を抱く。


(誰、だ?)


 単純かつ明快。
 それを進は口に出そうとはしなかった。

 いいや、この場所では声を出すことができない。
 進という人間は発言を許されてはいないのか。


「“メモリー“って呼んでくれると嬉しいかな。真名的には違うんだけど、君とは対等に付き合っていきたいから」


 その少女の発言に、進は再び驚きをあらわにする。
 この少女、今まるで自分の心を読まなかったか、と。

 その確証は進には持てなかったのだが、そんなことで混乱する彼を見てメモリーはクスリと笑う。

 そのロングに伸びた黒髪がサラリと微弱に揺れる。


「心を読めるか読めないかでいけば、読めるよ。君の思考の最初から最後まで、ね」

(うっそぉ……。え、何。厨二病設定な訳じゃ……)


「そんな設定ありません~。私は妄想癖の行き過ぎた人とは違って本物なんですぅ。その証拠に君の名前くらいなら聞かずともわかるよ、ってこれはあんまり証拠にはならないか」


 まぁ頑張って調べればそんなもの手に入るだろうしな、と進は苦笑した。


「あ、こんなのならどう? 君____進くんのみんなに隠してる性癖は、巨ny」

(降参ですそれだけは暴露するの勘弁してください。もう厨二病なんじゃないかとか疑いませんから。えぇ本当に俺がバカでした。世の中にはそういう人がいてもおかしくないですしね。なんかもう生きててごめんなさい)


「えぇ……たかだか性癖のためだけに必死になりすぎじゃない?」

(男は女子に自分の性癖暴露されるだけで傷つくんだよ‼︎)


 そんな情けのないことを堂々と____とはいえ心の中で____宣言した進だったがメモリーは楽しそうに笑うだけであった。

 この無邪気な笑顔が進の怒りを鎮静するのに役立っている。
 というかむしろ美少女のニヤケ顔をずっと見ていられるのだから進にとっては眼福まである。


「進くん?」
(……ベツニオレハナニモヨコシマナコトハカンガエテナイヨ、ホントダヨ)


 本当である。

 なんて、そんな冗談はさておき進は改めて目の前のメモリーという少女を見つめ返す。
 その視線に気がついたのか、あるいは気がつく前からそうだったのか、深く美しい黒の瞳も真っ直ぐと見つめ返してきていた。

 可愛いな、なんてふざけている時はそう思ったのかもしれないがあいにく様そんなことを思うような思考は今現在進には存在しなかった。


(さて、こうしてお互い打ち解けることができたわけだし。少し俺にも情報が欲しいな)


 さてもの進とて、こんな場所に急に呼び出されてしまっては混乱を免れることはない。
 いや、むしろファンタジー的なアレだ、ヒャッホーなんて飛びついていってしまいそうな思考の持ち主だったが流石に、だ。


「たとえばどんな情報が欲しいの?」
(ここはどこ……っていう質問をしたかったんだけど……)

「けど?」

(いや、こんなミステリアスな場所の答えを先に聞いちゃうのは面白くなくね? 厨二心に反するくね?)


「うん、ここは世界中のありとあらゆる知識が常に更新され続ける、いわば《知識の大図書館》だよ?」

(そしてこっちの説明無視して答えを言いやがったよこの野郎。……いや、野郎ではないか、少女だし)


 進はその説明を受けてもう一度当たりを見渡してみる。
 やはり、どこをみても本棚、本棚、本棚、本棚____。

 あとは本棚が置かれている以外何もない白い空間だけ。
 なるほど、確かに《大図書館》だなと納得できるくらいにはそれに再び圧倒された。


「他にはどんな情報が欲しい?」
(なんかゲームのNPCみたいな定型分だな……)

「私はちゃんと意思を持っているけどね。他にはどんな情報が欲しい?」
(やっぱNPCの真似してるだろ、そうなんだろ!?)

「別にーー。というか、本当に私に教えて欲しいことはないの?」


 ふむ、と進は右手を顎の下まで持っていって考える。
 聞きたいこと、なんてそうやって簡単に言われると進は困るものだ。

 なんせ、聞きたいことが多すぎるのだから。
 メモリーはそうやって思い悩む進を見てじゃぁ、と口にする。


「根本的なところから話そうか。どうして君をここに呼んだのか、とかね」


 明るい彼女からは想像もできないような、不敵な笑みに進は目を見開く。
 彼女はそれでも楽しそうに口元に笑みを浮かべていた。


「ようこそ進くん。私たちの《旧世界》へ」


 そう言ってメモリーは、進の方へ右手を差し出してきた。
 その活発的な笑みを、進は一生忘れることはないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...