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Re:1st 《錬金術師》と狂気の異世界
第9話 《ゴーレム》
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「えぇ……あれに対して最初に思うのがそれなの?」
光が若干引いたような視線を向けていたが、進はそんな些細なこと気にしない。
気にしようとも思えないくらい気分が高揚しているのだろう。
それがたとえ自分に牙を向く存在だったとしても。
「単純に土人形……。ファンタジー作品だと鉄人形とか、超巨大人形とか、色々存在するけどこの世界にも存在するのか? それともそいつらは全く別の存在として存在していて一般に土で作られた自立式の人形を《ゴーレム》って呼ぶのか?」
「おーい。おーい、進。聞こえてますかぁーー?」
視界の先で光がフルフルと手を振っているが、進は無意識にそれを意識の外に追いやってしまっている。
彼の頭の中に存在するのは今目の前のファンタジーだけなのだ。
「土人形となると、やっぱり弱点属性は水か? それとも特定の条件下でしか討伐することができない? 本来のそれは額に文字が刻まれているらしいけど、そんなものもあいつには存在しないし____」
「聞こえてます、かっ!!」
進の正面の空気が、突然爆ぜた。
「うおっ!?」
「うおっ、じゃないわよ! あんな不格好なやつのことばっかり考えてないで私のことも構いなさいよ!」
「えっと……。光って実は寂しがり?」
「あ、ちょっタンマ。やっぱり今のなし。なしだからね!?」
「分かったよ。たくさんかまってやるから機嫌直してくれ」
「だから今の話って言ってるでしょうが!!」
ズドン、と進の体は不自然に発生した以上なまでの威力の風によって吹き飛ばされ、「理不尽!」と叫ぶ前に進はアスファルトに着地した。
一瞬でも受け身を取るのが遅れていたら大怪我にでもなっていたかもしれない。
いや、今ので大怪我にならないのは普通におかしいか。
「なんで受身だけそんなにうまいのよ……」
おそらく地面に着く前に助けようとして、収束させた空気が一気に霧散されてそよ風となって進の髪の毛を凪いだ。
呆れたような光の声に進は誇るように言い返す。
「親友の幼馴染を助けるために車に逆に撥ねられた男を舐めるなよ!」
「誇って言ってるけど、結果普通にダサい終わり方してるからね!?」
「ちなみにその時も無傷でした! ダサくはないですぅ」
なんて、戦闘が起こりかねない場所で会話する内容ではなかったのかもしれないが、それはそれで良かったのかもしれない。
「で、そうこうしている間にあの《ゴーレム》さんは着々と大きくなっているわけだけど」
「どうせさっきのつけて来た人の置き土産でしょうね。まったく、これだから男は」
「それは俺のことも含めて言ってます?」
「進は特別だから」
「勘違いしちゃうからやめようネ」
クシャリ、と二人はその顔を大袈裟に歪めて笑みを作った。
さぁ、ここからは楽しい楽しい戦闘の時間だ、狂っていけよとでもお互いに言い聞かせるように。
進はその一歩を大きく踏み出した。
すでにゴーレムの全長は三メートルを超えてしまっていて、横にも広くなってしまっている。
(刃物は絶対に通らない……。直接触れて、そうこうみたいに纏っている岩どもを《変形》、あるいは《分解》できるか試してみるしかないか)
そう考えて、あと少しというところまで近づいた瞬間にそれは動いた。
岩を十分に取り込んでぶくぶくと肥大化した剛腕が、ありえないような速度で迫ってくる。
(いや、筋力とかそういう概念が存在しないのは知っていましたけど。となると、こいつには体力の限界ってのもなさそうだよな……)
ゴロン、と横へ転がってそれを避けながら進はそう思う。
「っぶねぇ」
グォン、と耳元を大きすぎる質量の物質が音を残響させて通り過ぎていったため相当肝が冷える結果になったことには変わりがないが。
あれに当たってしまえばその瞬間死が確定してしまうような。
「触れれ……る?」
「進のその《ウエポン》が致命傷をくらわせることができるなら、触れさせてあげるわよ!」
風。
認識にしたのはたったそれだけのことだ。
一瞬遅れてか、遅れてはいなかったか。
少なくともそんな刹那の時間に、ゴーレムのその腕は削ぎ落とされることとなった。
「マジかよ、俺いらないんじゃね?」
なんて思った進だったが、せっかく光が作ってくれたそのチャンス。
逃すほど進は光という存在の凄さに飲まれてはいない。
すでにゴーレムの腕の再生は始まっているが、それが終わるよりも先に進の腕は巨体に届く!
「《分解》!」
叫ぶと同時に進が感じたのは、多大な抵抗だった。
「あっ、ぐっ!」
自分の中から何かが抜けていくような。
あるいは自分の中に何かが入り込んでくるような。
この一週間ずっと何かを《錬成》し続けてきたが、それでもこんなことが起こったことは一度たりともない。
それでも、
「効くには効くのか……、っておいおいおい、やばいって!!」
足の一部が抉り取られたように消え失せて、それでバランスを崩したらしいゴーレムが進の方へ倒れ込んでくる。
____自分の牽制が一番命を奪いかねない結果になるとか聞いてねぇよ!?
咄嗟に何もできずに、目を瞑って防御するような体制をとったが、もちろん無駄なことである。
「この、お馬鹿さん!!」
その時、光が風で進を掬い上げて安全な場所まで運んでくれなかったら本当に死んでいただろう。
多分、おそらくなんかじゃなくて確実に。
「すまん、さんきゅ」
「お礼はいいけど、成果は?」
「____一応効いた……けど。正直言ってこの方法は何回もやらない方がいいと思う」
光がどうして、と怪訝な顔を見せた。
進はその顔をチラリと一瞬だけ見ると、今まさに立ちあがろうとしているゴーレムを見て舌打ちと共に言葉を紡ぐ。
「こっちの経験値が足りていないのか、それ以外の理由があるのかはわからないけど……。あれは確かに、俺の体の中にある《能力の核》を吸い上げようとやがった。それだけだ」
「っ、それは……」
「いや、多分光クラスになると大丈夫だとは思うけどな?」
まぁ、なんにせよ進は防御に徹するかそもそも戦闘をしない方向性にした方がいいか。
なんて考えてきたが、それは彼自身のプライドが許さなかった。
「原初たる爆弾でも作れれば話は変わってきそうだけど……」
流石にこの場で材料を調達するとなるとそれはそれで難しい話であった。
それに、それは取り扱いを間違えれば、相手よりも先に進の方がお陀仏しそうな代物だ。
「つか、根本的な問題。ゴーレムってどうやったら倒せるんだ?」
「体のどこかにあるゴーレムの核を壊すことよ」
「うへぇ、こんなやつにも《万能元素》が使われてんのかよ……。まじで万能だなおい!」
そもそも、この世界にはファンタジーチックなものが溢れかえっているから、今更進もそこに対して文句を言う気にはなれなかったのだが、しかし少しくらいは《万能》の名を冠する《オーブ》にも欠点があっていいんじゃないかと、そう思うのだ。
拳。
とも言い表すのには不定形すぎるものが、進と光の二人を再び襲う。
「っ!」
「進、そこから動かないでよね!」
それでも結果は結局同じ。
それが光によって吹き飛ばされるだけだ。
周囲の人間はこの騒ぎをを見て慌てて逃げ出していっていたが、その中の誰が見ても土人形の腕が勝手に吹き飛んでいったようにしか見えなかったのではないだろうか、と進は思う。
(俺から見ても、そうとしか思えなかったからな……。風を肌で感じなかったら、何をしたのかわからず終いだったかも)
ヒェェ、と思わず茶化すような声が漏れてなかなか自分も余裕があるな、と進は認識した。
さて、と誰にも聞こえないくらいの声を漏らして進は思考に耽る。
(核さえ壊してしまえばあいつは死ぬ。____問題はそれがどこにあるか、だけど)
むやみやたらに攻撃して見つかるものなのだろうか、と進はゴーレムの方を見ながら考えた。
ゴーレムがゴーレムである以上それがどこかに存在していると言うのは間違いないのだろう。
「……でも」
そうこうしている間にも、光はゴーレムに一方的な攻撃を喰らわせている。
その度に、ゴーレムの地面を吸い上げてできた装甲は壊されていくが……。
(光はおそらく周囲の被害を最低限に抑えるために手加減をしている……っ)
だからだろうか。
光がゴーレムを壊す速度よりも、ゴーレムが再生する速度の方が圧倒的に速いのだ。
傷つけられながらも成長している、と言った方がいいだろうか。
(あと一発。最大術力で《分解》すれば、核までぶち抜けるかもしれないのに!)
外してしまえば、その瞬間進の死は確定する。
故に、一発で核を撃ち抜かなければならない。
それが成功したとしても、打ち抜けるかもしれないだけなのだが。
(えぇい、焦ったいな。こうなったらワンチャン賭けて____)
「おいおいおい、待てよ兄ちゃん。焦っても何にもならねぇぜ?」
進の肩に手がポンと置かれる。
遠くに聞こえる喧騒とは待ったく異なる、陽気な声。
「店の、おっさん?」
「おうよ!」
してやったり、とその顔には満面の笑みが浮かんでいる。
進はそれを見てたった一言。
「え、なんで?」
光が若干引いたような視線を向けていたが、進はそんな些細なこと気にしない。
気にしようとも思えないくらい気分が高揚しているのだろう。
それがたとえ自分に牙を向く存在だったとしても。
「単純に土人形……。ファンタジー作品だと鉄人形とか、超巨大人形とか、色々存在するけどこの世界にも存在するのか? それともそいつらは全く別の存在として存在していて一般に土で作られた自立式の人形を《ゴーレム》って呼ぶのか?」
「おーい。おーい、進。聞こえてますかぁーー?」
視界の先で光がフルフルと手を振っているが、進は無意識にそれを意識の外に追いやってしまっている。
彼の頭の中に存在するのは今目の前のファンタジーだけなのだ。
「土人形となると、やっぱり弱点属性は水か? それとも特定の条件下でしか討伐することができない? 本来のそれは額に文字が刻まれているらしいけど、そんなものもあいつには存在しないし____」
「聞こえてます、かっ!!」
進の正面の空気が、突然爆ぜた。
「うおっ!?」
「うおっ、じゃないわよ! あんな不格好なやつのことばっかり考えてないで私のことも構いなさいよ!」
「えっと……。光って実は寂しがり?」
「あ、ちょっタンマ。やっぱり今のなし。なしだからね!?」
「分かったよ。たくさんかまってやるから機嫌直してくれ」
「だから今の話って言ってるでしょうが!!」
ズドン、と進の体は不自然に発生した以上なまでの威力の風によって吹き飛ばされ、「理不尽!」と叫ぶ前に進はアスファルトに着地した。
一瞬でも受け身を取るのが遅れていたら大怪我にでもなっていたかもしれない。
いや、今ので大怪我にならないのは普通におかしいか。
「なんで受身だけそんなにうまいのよ……」
おそらく地面に着く前に助けようとして、収束させた空気が一気に霧散されてそよ風となって進の髪の毛を凪いだ。
呆れたような光の声に進は誇るように言い返す。
「親友の幼馴染を助けるために車に逆に撥ねられた男を舐めるなよ!」
「誇って言ってるけど、結果普通にダサい終わり方してるからね!?」
「ちなみにその時も無傷でした! ダサくはないですぅ」
なんて、戦闘が起こりかねない場所で会話する内容ではなかったのかもしれないが、それはそれで良かったのかもしれない。
「で、そうこうしている間にあの《ゴーレム》さんは着々と大きくなっているわけだけど」
「どうせさっきのつけて来た人の置き土産でしょうね。まったく、これだから男は」
「それは俺のことも含めて言ってます?」
「進は特別だから」
「勘違いしちゃうからやめようネ」
クシャリ、と二人はその顔を大袈裟に歪めて笑みを作った。
さぁ、ここからは楽しい楽しい戦闘の時間だ、狂っていけよとでもお互いに言い聞かせるように。
進はその一歩を大きく踏み出した。
すでにゴーレムの全長は三メートルを超えてしまっていて、横にも広くなってしまっている。
(刃物は絶対に通らない……。直接触れて、そうこうみたいに纏っている岩どもを《変形》、あるいは《分解》できるか試してみるしかないか)
そう考えて、あと少しというところまで近づいた瞬間にそれは動いた。
岩を十分に取り込んでぶくぶくと肥大化した剛腕が、ありえないような速度で迫ってくる。
(いや、筋力とかそういう概念が存在しないのは知っていましたけど。となると、こいつには体力の限界ってのもなさそうだよな……)
ゴロン、と横へ転がってそれを避けながら進はそう思う。
「っぶねぇ」
グォン、と耳元を大きすぎる質量の物質が音を残響させて通り過ぎていったため相当肝が冷える結果になったことには変わりがないが。
あれに当たってしまえばその瞬間死が確定してしまうような。
「触れれ……る?」
「進のその《ウエポン》が致命傷をくらわせることができるなら、触れさせてあげるわよ!」
風。
認識にしたのはたったそれだけのことだ。
一瞬遅れてか、遅れてはいなかったか。
少なくともそんな刹那の時間に、ゴーレムのその腕は削ぎ落とされることとなった。
「マジかよ、俺いらないんじゃね?」
なんて思った進だったが、せっかく光が作ってくれたそのチャンス。
逃すほど進は光という存在の凄さに飲まれてはいない。
すでにゴーレムの腕の再生は始まっているが、それが終わるよりも先に進の腕は巨体に届く!
「《分解》!」
叫ぶと同時に進が感じたのは、多大な抵抗だった。
「あっ、ぐっ!」
自分の中から何かが抜けていくような。
あるいは自分の中に何かが入り込んでくるような。
この一週間ずっと何かを《錬成》し続けてきたが、それでもこんなことが起こったことは一度たりともない。
それでも、
「効くには効くのか……、っておいおいおい、やばいって!!」
足の一部が抉り取られたように消え失せて、それでバランスを崩したらしいゴーレムが進の方へ倒れ込んでくる。
____自分の牽制が一番命を奪いかねない結果になるとか聞いてねぇよ!?
咄嗟に何もできずに、目を瞑って防御するような体制をとったが、もちろん無駄なことである。
「この、お馬鹿さん!!」
その時、光が風で進を掬い上げて安全な場所まで運んでくれなかったら本当に死んでいただろう。
多分、おそらくなんかじゃなくて確実に。
「すまん、さんきゅ」
「お礼はいいけど、成果は?」
「____一応効いた……けど。正直言ってこの方法は何回もやらない方がいいと思う」
光がどうして、と怪訝な顔を見せた。
進はその顔をチラリと一瞬だけ見ると、今まさに立ちあがろうとしているゴーレムを見て舌打ちと共に言葉を紡ぐ。
「こっちの経験値が足りていないのか、それ以外の理由があるのかはわからないけど……。あれは確かに、俺の体の中にある《能力の核》を吸い上げようとやがった。それだけだ」
「っ、それは……」
「いや、多分光クラスになると大丈夫だとは思うけどな?」
まぁ、なんにせよ進は防御に徹するかそもそも戦闘をしない方向性にした方がいいか。
なんて考えてきたが、それは彼自身のプライドが許さなかった。
「原初たる爆弾でも作れれば話は変わってきそうだけど……」
流石にこの場で材料を調達するとなるとそれはそれで難しい話であった。
それに、それは取り扱いを間違えれば、相手よりも先に進の方がお陀仏しそうな代物だ。
「つか、根本的な問題。ゴーレムってどうやったら倒せるんだ?」
「体のどこかにあるゴーレムの核を壊すことよ」
「うへぇ、こんなやつにも《万能元素》が使われてんのかよ……。まじで万能だなおい!」
そもそも、この世界にはファンタジーチックなものが溢れかえっているから、今更進もそこに対して文句を言う気にはなれなかったのだが、しかし少しくらいは《万能》の名を冠する《オーブ》にも欠点があっていいんじゃないかと、そう思うのだ。
拳。
とも言い表すのには不定形すぎるものが、進と光の二人を再び襲う。
「っ!」
「進、そこから動かないでよね!」
それでも結果は結局同じ。
それが光によって吹き飛ばされるだけだ。
周囲の人間はこの騒ぎをを見て慌てて逃げ出していっていたが、その中の誰が見ても土人形の腕が勝手に吹き飛んでいったようにしか見えなかったのではないだろうか、と進は思う。
(俺から見ても、そうとしか思えなかったからな……。風を肌で感じなかったら、何をしたのかわからず終いだったかも)
ヒェェ、と思わず茶化すような声が漏れてなかなか自分も余裕があるな、と進は認識した。
さて、と誰にも聞こえないくらいの声を漏らして進は思考に耽る。
(核さえ壊してしまえばあいつは死ぬ。____問題はそれがどこにあるか、だけど)
むやみやたらに攻撃して見つかるものなのだろうか、と進はゴーレムの方を見ながら考えた。
ゴーレムがゴーレムである以上それがどこかに存在していると言うのは間違いないのだろう。
「……でも」
そうこうしている間にも、光はゴーレムに一方的な攻撃を喰らわせている。
その度に、ゴーレムの地面を吸い上げてできた装甲は壊されていくが……。
(光はおそらく周囲の被害を最低限に抑えるために手加減をしている……っ)
だからだろうか。
光がゴーレムを壊す速度よりも、ゴーレムが再生する速度の方が圧倒的に速いのだ。
傷つけられながらも成長している、と言った方がいいだろうか。
(あと一発。最大術力で《分解》すれば、核までぶち抜けるかもしれないのに!)
外してしまえば、その瞬間進の死は確定する。
故に、一発で核を撃ち抜かなければならない。
それが成功したとしても、打ち抜けるかもしれないだけなのだが。
(えぇい、焦ったいな。こうなったらワンチャン賭けて____)
「おいおいおい、待てよ兄ちゃん。焦っても何にもならねぇぜ?」
進の肩に手がポンと置かれる。
遠くに聞こえる喧騒とは待ったく異なる、陽気な声。
「店の、おっさん?」
「おうよ!」
してやったり、とその顔には満面の笑みが浮かんでいる。
進はそれを見てたった一言。
「え、なんで?」
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