上 下
3 / 30
Re:1st 《錬金術師》と狂気の異世界

第3話 では、《異世界》へ

しおりを挟む
 夢の世界から、現世へと帰還するのは実に一瞬のことである。
 その間に、夢の中での記憶のほとんどは脳のどこかに保管され、取り出せなくなってしまう。

 通常ならば。


(……やけに鮮明に覚えてるな)


 目覚めた進は体を動かすよりも先にそう思った。
 それから、寝起きの体を伸ばして目をもう一度しっかりと開ける。

 そこでやっと、違和感に気がついた。


(知らない、部屋……)

「あぁ、そうか。本当に俺は異世界に来たのか……。え、まじで?」


 若干自分の口から声が出ることに感動を覚えながら進は困惑したような声を漏らした。

 “異世界転移“なんてものに飛びついてしまった進だったが、実はただの夢なんじゃないかと心の奥底ではその言葉を疑っていたことは否定できない。

 故に今こうして困惑しているのだから。


「誘拐……なんかじゃなさそうだな。しかも」


 ガシャァァァ____と、進はその部屋で閉まっていたカーテンを一気に開放する。
 そうして開けた先で進の目に飛び込んできたのは壮大な青空と共に大地を埋め尽くさんばかりの建物……ではなかった。

 確かに建物はそれなりに密集してはいるが、東京都区画____俗に言う二三区内に比べればそこまでと言ったところだ。

 問題なのは、


「ここが、西部区域の中ってところだよな」


 一概に東京都とは言っても人口の少ない部分、もっといえば自然浸食されていない場所というものは存在した。
 二三区より西側に行くにつれてそれが多くなるというのは分かりきったことだったが。

 今まさに目にしている光景はその進の常識を遥かに覆すものだった。


(東京西部を開発して街にしてしまうって……どこの学園都市だよ)
 

 この区画内にかなり優秀な中学、高校が集まっていると進がメモリーに半ば無理矢理突っ込まれた知識の中に存在したので、それもあながち間違いではなかったが。

 流石に人口の八割が学生だなんてそんなことはないよな、と進は苦笑しながらそう思った。

 しかし違和感を感じるのは、高層ビルなどが少なくそれなりに辺りを見渡せてしまうことか。


(____まぁとりあえず)
 

 メモリーのいうことが本当なのならば、と進は口元を歪める。

 《ウエポン》という異能力。
 《錬金術》という、現世にありそうでなかったもの。

 あるいは____。


(ロマン!!)
 

 オタクのサガにはどうやら抗えないようで、進は不気味に声にならない声をあげていた。

 正直、進は自分でも気持ち悪い行動をしていることはわかっていたが、そこは御法度ということで。


「とはいえこの時間に部屋の中でゴロゴロしてるってのも面白くないしな……」


 あちらの世界でならば、スマホをいじってゲームを延々とすることも少なくはなかったのだが、それはあくまでも退屈な世界からの現実逃避だった。

 せっかくの新しい世界、せっかくの異能。
 そんな自分に退屈な日々を送らせてくれないような要素があるのに今までと同じ生活を送るなんて、進のプライドが許すはずがない。

 キィ、とそんな小さな音を立ててドアを開けるとそこの空気を進は思いっきり吸い込んだ。


(____うん、まずい)


 仮にも都市開発されて、都会となった場所。
 農村や山奥の中で吸う空気とは全く違う味がするのは当たり前なのか、と進は苦笑する。

 苦笑してなお、もう一度大きく息を吸い込んだ。


「書を捨てよ、街へ出よう……か。なるほど、確かに街は未知に溢れてる」


 ヒュゴォ、とどこからか風がなびいてきたのを感じた進は、その方角を見やった。
 たいしてそれに意味はなかったので、いわゆる条件反射といったところだろう。


「さぁて、行ってみますか異世界探索‼︎」


 
 ***

 

 それからしばらくの時間が経って、昼過ぎ。
 

 街自体はそこまで異質さを感じさせなかったが、やはり細部まで見てみれば進たちの世界セカンドとはまるで異なる商品が売られていることに気がつくのだった。

 進が物珍しそうに、ひっそりと佇んでいた店のそのショウウィンドウに並べられた商品を眺めていると、店の経営者のいかついおっさんに声をかけられた。


「そこら辺は、《能力の核オーブ》の放出を助けるタイプの補助機器だが……、兄ちゃんそっち関係が不得意だったりするのか?」

(……《能力の核オーブ》って、えぇと?)


 ありえないくらいに短時間で詰め込まれた知識の中からそれの情報を進は引っ張り出す。

 《能力の核オーブ》。
 あるいは、《万能元素》。

 周期表の中に収まるということを知らない、どこにも属さず環境によってどんな性質でさえも・・・・・・・・・示してしまう世界にとって異質な存在。

 
 というのが進がメモリーから受け渡された知識だ。


「特にそんなことはないですね。ただ気になったから見ていただけ、というか」


 まぁそもそもの話、《ウエポン》の一回も発動させたことはなかったのだが、そこら辺は話すべきことでもないので黙っておこうと進は思った。

 進のその反応に対しておっさんが腕を組んで、うむむ……と唸るのが見えたので首を傾げる。


「いや、兄ちゃんはそういうけどよ。俺から見れば兄ちゃんはなんていうか……。そうだな、まるで赤子だ」

「っ!?」


 赤子、というのは間接的な比喩だ。
 このおっさんは、自分が他とは違う存在だとその目で気がついたのだと進は理解して、危うく声が出そうになった。

 別に法に触れるようなものではないはずだから隠す必要はないのだが。


(これも、《ウエポン》の?)

「あぁ、そんな警戒しないでくれよ。こちとら日頃からその分野において最強格と言ってもいいくらいの人間と関わってるからなぁ。なんとなくだなんとなく」


「……なんとなく?」


「おうよ。俺の《ウエポン》が観察するタイプのやつだってことは間違いないけどよ。あくまでもこの目は職業柄だ。力はまだ他にある」


 つまり、このおっさんは進のそれをただ見るだけで看破した、とでもいうのか。
 ゾクリ、と進は背筋に悪寒ともまた違う何かが走るような感覚を味わった。


「おっさん、何気にすごい人?」

「おうよ、何を隠そう俺はすげぇやつだ。神と呼んでくれてもかまわんぞ?」

「ハッハッハ。だが断る!」


 人柄がいい、ということがその目を恐怖の対象にできない所以なのかもしれないと進は思う。
 その目を職業だけに使っているとは限らないが、敵意を感じることは一切ないのだから。

 フッと進は口元に笑みを浮かべた。


「おっさんはそこに座って仕事をしているだけで退屈にならないのか?」

「あぁ? 確かにこの店はそこまで客が入ってこねぇ店だけどよ。今この瞬間を退屈だとは思ったことないぜ?」


 ほぅ、と進は嘆息する。
 刹那の時間の関わりだが、このおっさんは面倒臭ぇとかいって逃げ出しそうだなと進自身が思っていたから。


「なぜって顔をしているな」

「……まぁ」


 図星なのを進は否定はしない。


「理由は二つあるな。一つ目は、今兄ちゃんみたいなおもしれぇ客に出会えることがあるってことだ。大量に客を呼び込んで利益を出すあのクソみてぇな職業だったら俺は今頃辞めてるだろうさ」


「へぇ、どうして?」

「対等なコミュニケーションがないってのは窮屈だろうが。“お客様は神様です“なんてうたってる店もあるけどよ、客も店主も平等だろ平等。あと、洗練されただけの対話術ってのは面白くねぇ」


「じゃぁ少なくともこの職業をしている間は面白いんだ?」

「だから退屈しねぇっていってるだろう? 客は面白れぇしな。ハッハッハ!」
 

 本当に楽しそうなもんだ、と進は心の中でそう呟く。
 同時にこのおっさんはやっぱりすごい人間なんだなとも。

 当たり前の日常に、何かスパイスになるようなことをする。
 日常から逃げてきた進にはできなかったことだから。

 進は自分の選択を間違えたとは思わないが、少しだけこのおっさんを羨ましいなと思った。


「あぁ、それと二つ目の理由だがな」


 ニヤリと、おっさんは口角を上げる。
 進がそれに対して戸惑いの念を返した瞬間のことだった。

 ガラガラと音がして、今となっては珍しい手動のしかも横開きのドアが彼の後ろで少しの息を衣をつけて開けられた。

 新しい客か、なんて思って振り返った進におっさんは面白そうに呟きかける。


「彼女が二つ目の理由だな」


 そこに立っていたのは、学校の制服を身につけた少女だった。
 そのロングに伸ばされた髪の毛がサラサラと気持ちよさそうに揺れていた。

 飾り気はない。

 でも、それでも進は彼女を綺麗だと思った。



「全国一億人弱のウエポン権能者、中でも百人程度しか名乗ることのできない全国区としてのS級。そのNo4」

 

 ____星見琴 光ほしみこと ひかり
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手

Outlook!
ファンタジー
経緯は朝活動始まる一分前、それは突然起こった。床が突如、眩い光が輝き始め、輝きが膨大になった瞬間、俺を含めて30人のクラスメイト達がどこか知らない所に寝かされていた。 俺達はその後、いかにも王様っぽいひとに出会い、「七つの剣を探してほしい」と言われた。皆最初は否定してたが、俺はこの世界に残りたいがために今まで閉じていた口を開いた。 そしてステータスを確認するときに、俺は驚愕する他なかった。 理由は簡単、皆の授かった固有スキルには強スキルがあるのに対して、俺が授かったのはバットスキルにも程がある、状態異常倍加だったからだ。 ※不定期更新です。ゆっくりと投稿していこうと思いますので、どうかよろしくお願いします。 カクヨム、小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...