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Re:プロローグ 《日常》の壊れる物語
第2話 《旧世界》
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(____旧世界?)
進はメモリーから放たれたその言葉で、脳内が疑問符に埋め尽くされた。
厨二病ワードすぎるだろ、と一瞬思わなくもなかったが、そもそもそんなことを気にしていられないくらい摩訶不思議な空間にいることを思いだす。
「そう、旧世界。あるいは《オリジン》。君たちの住む、無数の可能性を持った《セカンド》の基準点」
進は、訳がわからず眉を顰めた。
オリジンだかセカンドだかそんなことを言われても、と気分は一週間学校を休んだ後の数学とか物理とかの授業か。
「あぁ、《並行世界》と《交差世界》って言った方がわかりやすいかな?」
(はぁ……?)
「え、あれ。わからなかった?」
(《並行世界》の方はなんとなく。《交差世界》の方はよくわからん)
物語の題材になるのは大体が前者で、後者は聞くことすらなかったから。
「すべての《並行世界》に交わるように作られた、その基準点かな。時系列で言うと、《交差世界》の方が先に作られたから、《並行世界》が後付けだけどね」
(簡単にいえば、異世界?)
「that's right! 正確にいうと、全く別次元の地球と言った方が正しいのかも知れないけど」
要するに、と進は今の現状を一言で表そうとする。
それに相応しい言葉をひとときも置かずに思い浮かんだ進だったが、自分自身の状況にこの言葉を使うことになるとは思っていなかったので苦笑をこぼした
(“異世界転移“、か)
まるきり、フィクションの中のお話だと思っていたな、なんて進は思う。
今の状況は異常、非現実的。夢と言われた方が進にはしっくりとくる。
(でも、この状況をどこか喜んでいる自分もいることは否定できない)
トクンと進の心臓が跳ねる。
心拍数はいつもより少し高いくらいで落ち着いていても、自分の心臓の音が感じられた。
先に提示したように、進には日常というものが退屈すぎた。
高校生ながら、学校が乗っ取られないかとか、クラス転生なんかが起こらないかとか、そんなことを妄想してしまうくらいには刺激が足りなかった。
だから、進という少年はメモリーという不思議の塊のような少女に聞く。
(そっちは退屈しないのか?)
少女は、傲慢だとは言わなかった。
ただ、口元に笑みを浮かべて端的に答えを返してきた。
「少なくとも君の住んでいた世界よりかは、ね」
進が、異世界転移に拒否感を抱かなくなった瞬間であった。
「本来ならここでチートスキルを与えたりするのがテンプレなんだろうけど、あいにくさまそんなサービスはしてないんだよね。世界を跨いであっちに入れば《ウエポン》は自然に開花するだろうし」
(……《ウエポン》?)
「あぁ、よくあるスキルと同系統と考えてくれればそれでいいよ。どちらかというと、超能力に近いかも、だけど」
続けて、君のウエポンは《錬金術》かな、とメモリーはそういった。
(わかる、のか?)
「私は、ね」
まるで自分は他とは違って特別なのだ、とでもいうようなメモリーを見て進はそれを鼻で笑った。
「むぅ、信じてないね?」
(いや、信じてないわけではないんだけどな……)
目の前の少女は本当に何者なのだろうか、と進は思う。
こんな場所に一人でいるくらいなのだから世間一般的に見れば異質であることに変わりはなかったのだが。
(まぁ、そんなのはどうでもいいか)
そんなことを考えて、結局一切の疑問点は無視しようと進が決めると、メモリーは時を見計らったかのように、よしっと声を上げる。
「残りの知識は、直接頭に叩き込むことにしようか」
(……は? よぅし、一旦落ち着こうかメモリーさん。残りの知識の量がどれくらいかは知らないけどそれをやられた場合俺がどうなるかも考えてくれ!?)
「大丈夫だよ、進くん。私がこれに関してミスすることはないから」
(それなら……いい、のか?)
「多分、おそらく、知らないけどね?」
(ハッハッハ、メモリー。やっぱり不安だわ俺逃げてもいい?)
「ダメだけど?」
(ですよねぇ~)
トンと、抵抗虚しく進の頭に手が乗せられる。
メモリーとの距離がグッと近づくが進はグッと目を瞑っていたので気が付かなかった。
刹那。
それまで一切の揺らぎすら感じることのなかった、存在するかもわからない空気が静かに凪いだ。
微弱なその流れを、目を瞑ったまま進は確かに感じ取る。
クイッと、少しだけ力が込められた気がした。
「はい、終了」
と、ほとんどタイムラグなしにメモリーは進の頭から手を離す。
それを確認した進が目を開けるとあいかわらずの本棚を真っ白な空間。
「どうかな。少しはあっちについてわかった?」
(……これ、は)
同時に進が感じたのは、少しの浮遊感にも似た感覚だった。
例えるならば、飛行機から降りた時の感覚というのが一番近いかもしれない。
ふらついてしまいそうになる足を気合いで押さえつけて、進は呆然とした笑みを浮かべた。
(すげぇな、流石にこんな感覚は初めてだ)
まぁ、そうだろうねとメモリーは返した。
本来ならば、何ヶ月単位で学ぶようなことを一度に頭に叩き込まれたのだから。
今の進は、知らないのにその場所を知っているというある一種のデジャヴ状態に駆けられていることだろう。
だが、それでも進はそれに対しての嫌悪をしなかった。
「ね、何にもならなかったでしょ?」
(……だな)
どちらかというと、この目の前のメモリーという少女を興味深く感じただろう。
「ということで、最後にどうして進くんが世界を転移しないといけないかという根本的なことを説明しないといけないね」
(あぁ、そういえば確かに)
異世界転移できるのならそんな説明なくとも喜んでそっちに行くけどな、と進は思って、そんな彼の思考を読んだのかメモリーはそれじゃぁダメでしょ、と言いながらも笑った。
「……とはいえ、進くんに何かをやってほしいってわけでもなかったりするんだよねぇ」
笑いながらメモリーはぶっちゃけるように進にそう言う。
その顔の笑みが引っ込むことはなく、どうやら本当のことらしかった。
(じゃぁどうしてなんだよ……。ぶっちゃけるけど、俺よりもそう言うのに向いてそうな奴は世界中のどこにでも転がってるぞ?)
「どこにでも、か。これでも私、君を探し出すためだけに結構な時間と労力を重ねたんだよ?」
(俺を見つけ出すため?)
「そう、特別な人間を見つけるのには苦労したよ。時間軸なんて、何万回遡ったことか……。なんて、暇だったから特に文句はないけどね。とりあえず進くん、あなたは特別なんです」
ビシッと突き出された右手の人差し指を進は適当に払いのけた。
(ふっ、この私に用とはいったいなんなのかね、メモリーとやら)
「ほう、貴様はこの場所に呼び出された本当の意味がわかっていないようね。そんなことだから運命に翻弄されるのよ」
(御託はいい、要件を話せ)
「そうね、今日は貴様の性癖を____」
(すみません降参です、もう強キャラムーブをあなた様の前ではしませんだから性癖だけはどうかぁ……)
完全にいじられるポイントを作ってしまったのは、進の勘違いではない気がする。
「ははは、軽い牽制よ。貴様のようなろくに力を持たないものが威張るな、というな」
(それでもまだこのムーブを続けやがるのか……。ところで、メモリーしゃん)
「ん、なになに?」
ノリのいい彼女は、テンションの切り替えも抜群に速かった。
進がふざけないようにしている間はちゃんと真面目に聞いてくれる。
彼女の好ましいところはそう言ったところだと進は思う。
(何かをやらなくていいというならさ、俺は何をしとけばいい?)
「当分は、非日常的な日常を送ってもらうことにはなるだろうね。ま、退屈はしないと思うよ?」
へぇ、と進は面白そうにつぶやいた。
思わずして、口の端が吊り上がってしまったのは気のせいではないだろう。
不思議な少女の言う退屈しない日常。
進にとってとても魅力的な誘いだったのだから。
「私はついていけないけど、たまに寝ている間とかにここに呼ぶことはあるかもしれないね。その時はよろしく」
(はいはい。ここに一人で過ごしてて寂しくなったら呼んでくれ。少しの話し相手くらいにはなってやる)
「そうだね、進くんをいじりたくなったらまた呼ぶから。一旦お別れの時間だ」
(ん____)
グワン、と進の見る世界が歪んだ。
とけていくような、崩れ去っていくようなそんな感覚を味わいながら進の意識は堕ちていく。
あるいは、体験したことのないような日常へと浮上していく。
「じゃぁね進くん。是非とも《交差世界》を楽しんで。それに、今度こそ私は_________」
***
そうして、進のいなくなった《大図書館》でメモリーと呼ばれる少女は悲壮感と歓喜の入り混じったような複雑な表情をして、虚空へとつぶやく。
「必ず、必ず導いてみせる。前回と同じような失敗は……絶対にしない」
この少女の特異性はどこか計り知れないものだあった。
しかし、その世界の全てを見通しているかのような、あるいは見通してなお何かの知識を求めるようなそんな少女が眉を顰めて呟いた。
____イレギュラーなのは、《無限》?
進はメモリーから放たれたその言葉で、脳内が疑問符に埋め尽くされた。
厨二病ワードすぎるだろ、と一瞬思わなくもなかったが、そもそもそんなことを気にしていられないくらい摩訶不思議な空間にいることを思いだす。
「そう、旧世界。あるいは《オリジン》。君たちの住む、無数の可能性を持った《セカンド》の基準点」
進は、訳がわからず眉を顰めた。
オリジンだかセカンドだかそんなことを言われても、と気分は一週間学校を休んだ後の数学とか物理とかの授業か。
「あぁ、《並行世界》と《交差世界》って言った方がわかりやすいかな?」
(はぁ……?)
「え、あれ。わからなかった?」
(《並行世界》の方はなんとなく。《交差世界》の方はよくわからん)
物語の題材になるのは大体が前者で、後者は聞くことすらなかったから。
「すべての《並行世界》に交わるように作られた、その基準点かな。時系列で言うと、《交差世界》の方が先に作られたから、《並行世界》が後付けだけどね」
(簡単にいえば、異世界?)
「that's right! 正確にいうと、全く別次元の地球と言った方が正しいのかも知れないけど」
要するに、と進は今の現状を一言で表そうとする。
それに相応しい言葉をひとときも置かずに思い浮かんだ進だったが、自分自身の状況にこの言葉を使うことになるとは思っていなかったので苦笑をこぼした
(“異世界転移“、か)
まるきり、フィクションの中のお話だと思っていたな、なんて進は思う。
今の状況は異常、非現実的。夢と言われた方が進にはしっくりとくる。
(でも、この状況をどこか喜んでいる自分もいることは否定できない)
トクンと進の心臓が跳ねる。
心拍数はいつもより少し高いくらいで落ち着いていても、自分の心臓の音が感じられた。
先に提示したように、進には日常というものが退屈すぎた。
高校生ながら、学校が乗っ取られないかとか、クラス転生なんかが起こらないかとか、そんなことを妄想してしまうくらいには刺激が足りなかった。
だから、進という少年はメモリーという不思議の塊のような少女に聞く。
(そっちは退屈しないのか?)
少女は、傲慢だとは言わなかった。
ただ、口元に笑みを浮かべて端的に答えを返してきた。
「少なくとも君の住んでいた世界よりかは、ね」
進が、異世界転移に拒否感を抱かなくなった瞬間であった。
「本来ならここでチートスキルを与えたりするのがテンプレなんだろうけど、あいにくさまそんなサービスはしてないんだよね。世界を跨いであっちに入れば《ウエポン》は自然に開花するだろうし」
(……《ウエポン》?)
「あぁ、よくあるスキルと同系統と考えてくれればそれでいいよ。どちらかというと、超能力に近いかも、だけど」
続けて、君のウエポンは《錬金術》かな、とメモリーはそういった。
(わかる、のか?)
「私は、ね」
まるで自分は他とは違って特別なのだ、とでもいうようなメモリーを見て進はそれを鼻で笑った。
「むぅ、信じてないね?」
(いや、信じてないわけではないんだけどな……)
目の前の少女は本当に何者なのだろうか、と進は思う。
こんな場所に一人でいるくらいなのだから世間一般的に見れば異質であることに変わりはなかったのだが。
(まぁ、そんなのはどうでもいいか)
そんなことを考えて、結局一切の疑問点は無視しようと進が決めると、メモリーは時を見計らったかのように、よしっと声を上げる。
「残りの知識は、直接頭に叩き込むことにしようか」
(……は? よぅし、一旦落ち着こうかメモリーさん。残りの知識の量がどれくらいかは知らないけどそれをやられた場合俺がどうなるかも考えてくれ!?)
「大丈夫だよ、進くん。私がこれに関してミスすることはないから」
(それなら……いい、のか?)
「多分、おそらく、知らないけどね?」
(ハッハッハ、メモリー。やっぱり不安だわ俺逃げてもいい?)
「ダメだけど?」
(ですよねぇ~)
トンと、抵抗虚しく進の頭に手が乗せられる。
メモリーとの距離がグッと近づくが進はグッと目を瞑っていたので気が付かなかった。
刹那。
それまで一切の揺らぎすら感じることのなかった、存在するかもわからない空気が静かに凪いだ。
微弱なその流れを、目を瞑ったまま進は確かに感じ取る。
クイッと、少しだけ力が込められた気がした。
「はい、終了」
と、ほとんどタイムラグなしにメモリーは進の頭から手を離す。
それを確認した進が目を開けるとあいかわらずの本棚を真っ白な空間。
「どうかな。少しはあっちについてわかった?」
(……これ、は)
同時に進が感じたのは、少しの浮遊感にも似た感覚だった。
例えるならば、飛行機から降りた時の感覚というのが一番近いかもしれない。
ふらついてしまいそうになる足を気合いで押さえつけて、進は呆然とした笑みを浮かべた。
(すげぇな、流石にこんな感覚は初めてだ)
まぁ、そうだろうねとメモリーは返した。
本来ならば、何ヶ月単位で学ぶようなことを一度に頭に叩き込まれたのだから。
今の進は、知らないのにその場所を知っているというある一種のデジャヴ状態に駆けられていることだろう。
だが、それでも進はそれに対しての嫌悪をしなかった。
「ね、何にもならなかったでしょ?」
(……だな)
どちらかというと、この目の前のメモリーという少女を興味深く感じただろう。
「ということで、最後にどうして進くんが世界を転移しないといけないかという根本的なことを説明しないといけないね」
(あぁ、そういえば確かに)
異世界転移できるのならそんな説明なくとも喜んでそっちに行くけどな、と進は思って、そんな彼の思考を読んだのかメモリーはそれじゃぁダメでしょ、と言いながらも笑った。
「……とはいえ、進くんに何かをやってほしいってわけでもなかったりするんだよねぇ」
笑いながらメモリーはぶっちゃけるように進にそう言う。
その顔の笑みが引っ込むことはなく、どうやら本当のことらしかった。
(じゃぁどうしてなんだよ……。ぶっちゃけるけど、俺よりもそう言うのに向いてそうな奴は世界中のどこにでも転がってるぞ?)
「どこにでも、か。これでも私、君を探し出すためだけに結構な時間と労力を重ねたんだよ?」
(俺を見つけ出すため?)
「そう、特別な人間を見つけるのには苦労したよ。時間軸なんて、何万回遡ったことか……。なんて、暇だったから特に文句はないけどね。とりあえず進くん、あなたは特別なんです」
ビシッと突き出された右手の人差し指を進は適当に払いのけた。
(ふっ、この私に用とはいったいなんなのかね、メモリーとやら)
「ほう、貴様はこの場所に呼び出された本当の意味がわかっていないようね。そんなことだから運命に翻弄されるのよ」
(御託はいい、要件を話せ)
「そうね、今日は貴様の性癖を____」
(すみません降参です、もう強キャラムーブをあなた様の前ではしませんだから性癖だけはどうかぁ……)
完全にいじられるポイントを作ってしまったのは、進の勘違いではない気がする。
「ははは、軽い牽制よ。貴様のようなろくに力を持たないものが威張るな、というな」
(それでもまだこのムーブを続けやがるのか……。ところで、メモリーしゃん)
「ん、なになに?」
ノリのいい彼女は、テンションの切り替えも抜群に速かった。
進がふざけないようにしている間はちゃんと真面目に聞いてくれる。
彼女の好ましいところはそう言ったところだと進は思う。
(何かをやらなくていいというならさ、俺は何をしとけばいい?)
「当分は、非日常的な日常を送ってもらうことにはなるだろうね。ま、退屈はしないと思うよ?」
へぇ、と進は面白そうにつぶやいた。
思わずして、口の端が吊り上がってしまったのは気のせいではないだろう。
不思議な少女の言う退屈しない日常。
進にとってとても魅力的な誘いだったのだから。
「私はついていけないけど、たまに寝ている間とかにここに呼ぶことはあるかもしれないね。その時はよろしく」
(はいはい。ここに一人で過ごしてて寂しくなったら呼んでくれ。少しの話し相手くらいにはなってやる)
「そうだね、進くんをいじりたくなったらまた呼ぶから。一旦お別れの時間だ」
(ん____)
グワン、と進の見る世界が歪んだ。
とけていくような、崩れ去っていくようなそんな感覚を味わいながら進の意識は堕ちていく。
あるいは、体験したことのないような日常へと浮上していく。
「じゃぁね進くん。是非とも《交差世界》を楽しんで。それに、今度こそ私は_________」
***
そうして、進のいなくなった《大図書館》でメモリーと呼ばれる少女は悲壮感と歓喜の入り混じったような複雑な表情をして、虚空へとつぶやく。
「必ず、必ず導いてみせる。前回と同じような失敗は……絶対にしない」
この少女の特異性はどこか計り知れないものだあった。
しかし、その世界の全てを見通しているかのような、あるいは見通してなお何かの知識を求めるようなそんな少女が眉を顰めて呟いた。
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