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後 Even if you die.
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気がつけば、ここがどこかもはっきりしないぼんやりとした空間に一人の少年がポツンと佇んでいた。
水面に映ったその顔が、自分のものだと認識するのに数秒を要するほどにはその少年の思考は停止していたのだろう。
「ここ……、は」
いったいどこなのだ、と呆然とした格好で少年は佇む。
しかし、そこから動いてしまってはいけない気がして。
不意に、後ろから銀鈴のような透き通った声が聞こえた気がして、無意識的に振り返ってみた。
そうして、そこにあった同い年くらいの人影を認識した瞬間、ブワリと、ぼやけていた景色が鮮明になるまで加速した。
どこからか、懐かしい匂いも流れてきている気がする。
「ハール! あそぼ!」
無邪気に話しかけてきた。
そこにいた彼女は、とうに死んでしまった少女のはずだった。
彼自身が、その手で殺した少女のはずだった。
「シ、リア?」
少年は訳もわからずにその名を呼んだ。
声に出さないとそれは幻想となって消えてしまいそうで少年はそれが怖かった。
「うん、シリアだよ。おかえり、ハル」
まるで赤子と話すときのように、少女は少年にゆっくりと笑顔で言葉をかけた。
「……俺、は」
「あなたはその生涯を終えて、ここにきたんだよ。きちんと彼方の世界で役目を終えてね」
少年は、その声を発している少女の口元を見ながら弱々しく笑った。
「とすると、ここは死後の世界なのか?」
「うん。どうにもそうみたいだね。私もずっとここにいた。あなたがここへ来るのを待っていたの」
約束だったから、と少女は言った。
そういえばそうだったな、と少年は苦笑した。
「忘れてたの?! ひどいよ!」
「……いや、別に忘れてた訳じゃなくてさ。なんていうか、ほら。信じられないんだよ」
世界の崩壊を数百年、数千年に渡る年月見続けてきて、人間という魑魅魍魎を延々と睥睨してきて幻滅して。
だから、少年は今その瞬間を信じることができないのだ。
「君と過ごした日々が、嘘なんじゃないかって最後の方は思い始めていたから」
それを聞いた少女は、堪えきれないと言った様子でプハッと笑いをこぼした。
抑えようとして抑えきれなかったような、そんな笑いだった。
「バッカ。私はいつもあなたと一緒にいたよ、ずっと。……それに、戦果が私たちを引き裂いても私の心の中にはずっとあなたとの思い出があったの。あなたもそうだったでしょう?」
「そうだな。多分、君は俺の心の中のどこかにずっといてくれたんだと思う。でもさ、今はもう薄れてしまったんだ。大切な思い出なのに、思い出せるのは少しだけ。……本当に、ごめん」
勇者だった少年は顔を地面の方に下げた。
それを魔王だった少女がクイッと持ち上げた。
少年の顔を両手で優しく包み込んで。
「いいの。これから、思い出していきましょう。あなたが忘れてしまっていたとしても、私はちゃんと覚えているから」
「……」
「これからたくさん思い出を作っていきましょう。もう、私たちを引き裂くものは何もないのだから」
その言葉に少年は目を見開いた。
____そうか。この少女は死んでしまって、一度追いついてしまっても一緒に歩いてくれるのだ。
勇気をもらったこのように、少年は顔を明るくした。
「あぁ、そうだな。それからはずっと君と一緒だ」
だからさ、とどちらからともなく切り出して。
むず痒くなってお互い変な隙間を挟んだが、結局同時に同じ言葉を口にした。
「「もう一度会ってくれてありがとう。感謝してるから、よそよそしいのはもうやめよう」」
今までずっと、苦しんでいた。
今までずっと、願っていた。
今までずっと、追い続けてきた。
今までずっと、待ち続けてきた。
だから、これくらいの休暇を取っても別に誰も咎めないはずだ。
「改めまして、お久しぶりですシリア」
「改めまして、お帰りなさい。ハル」
「あぁ、ただいまシリア」
「全く、久しぶりすぎるんだよあなたは!」
辛い時間はもう終わった。
二人の物語は幕を閉じた。
これからは、ずっと幸せな時間が続くのだろう。
思い出が、思いが消えない限り。
「さてと、まずは何から話そうか」
「思いついたこと全部でいいでしょ。私、ハルとならずっと話していられるよ!」
「そっか。それじゃぁまずは、シリアの____」
「え?! ちょっと待って、え?! それだけはやめて、恥ずかしいから! というか数少ない覚えてることにそれが含まれてるの?!」
「さてね。今君が考えていることかどうかは」
「その顔は絶対面白がっている顔だ。よーし、だったらこっちは____」
『追伸』
最後にもう一つだけ、____に伝えておかなければならないことがあったのでここに追伸として記入しておきます。
選択を間違えないでくれてありがとう。
もう一度出会えるチャンスを与えてくれて、本当にありがとう。
幸せな時間をくれるチャンスをありがとう、過去の____。
やっとここまで辿り着けたよ。
《後編、完____If story へ続く》
水面に映ったその顔が、自分のものだと認識するのに数秒を要するほどにはその少年の思考は停止していたのだろう。
「ここ……、は」
いったいどこなのだ、と呆然とした格好で少年は佇む。
しかし、そこから動いてしまってはいけない気がして。
不意に、後ろから銀鈴のような透き通った声が聞こえた気がして、無意識的に振り返ってみた。
そうして、そこにあった同い年くらいの人影を認識した瞬間、ブワリと、ぼやけていた景色が鮮明になるまで加速した。
どこからか、懐かしい匂いも流れてきている気がする。
「ハール! あそぼ!」
無邪気に話しかけてきた。
そこにいた彼女は、とうに死んでしまった少女のはずだった。
彼自身が、その手で殺した少女のはずだった。
「シ、リア?」
少年は訳もわからずにその名を呼んだ。
声に出さないとそれは幻想となって消えてしまいそうで少年はそれが怖かった。
「うん、シリアだよ。おかえり、ハル」
まるで赤子と話すときのように、少女は少年にゆっくりと笑顔で言葉をかけた。
「……俺、は」
「あなたはその生涯を終えて、ここにきたんだよ。きちんと彼方の世界で役目を終えてね」
少年は、その声を発している少女の口元を見ながら弱々しく笑った。
「とすると、ここは死後の世界なのか?」
「うん。どうにもそうみたいだね。私もずっとここにいた。あなたがここへ来るのを待っていたの」
約束だったから、と少女は言った。
そういえばそうだったな、と少年は苦笑した。
「忘れてたの?! ひどいよ!」
「……いや、別に忘れてた訳じゃなくてさ。なんていうか、ほら。信じられないんだよ」
世界の崩壊を数百年、数千年に渡る年月見続けてきて、人間という魑魅魍魎を延々と睥睨してきて幻滅して。
だから、少年は今その瞬間を信じることができないのだ。
「君と過ごした日々が、嘘なんじゃないかって最後の方は思い始めていたから」
それを聞いた少女は、堪えきれないと言った様子でプハッと笑いをこぼした。
抑えようとして抑えきれなかったような、そんな笑いだった。
「バッカ。私はいつもあなたと一緒にいたよ、ずっと。……それに、戦果が私たちを引き裂いても私の心の中にはずっとあなたとの思い出があったの。あなたもそうだったでしょう?」
「そうだな。多分、君は俺の心の中のどこかにずっといてくれたんだと思う。でもさ、今はもう薄れてしまったんだ。大切な思い出なのに、思い出せるのは少しだけ。……本当に、ごめん」
勇者だった少年は顔を地面の方に下げた。
それを魔王だった少女がクイッと持ち上げた。
少年の顔を両手で優しく包み込んで。
「いいの。これから、思い出していきましょう。あなたが忘れてしまっていたとしても、私はちゃんと覚えているから」
「……」
「これからたくさん思い出を作っていきましょう。もう、私たちを引き裂くものは何もないのだから」
その言葉に少年は目を見開いた。
____そうか。この少女は死んでしまって、一度追いついてしまっても一緒に歩いてくれるのだ。
勇気をもらったこのように、少年は顔を明るくした。
「あぁ、そうだな。それからはずっと君と一緒だ」
だからさ、とどちらからともなく切り出して。
むず痒くなってお互い変な隙間を挟んだが、結局同時に同じ言葉を口にした。
「「もう一度会ってくれてありがとう。感謝してるから、よそよそしいのはもうやめよう」」
今までずっと、苦しんでいた。
今までずっと、願っていた。
今までずっと、追い続けてきた。
今までずっと、待ち続けてきた。
だから、これくらいの休暇を取っても別に誰も咎めないはずだ。
「改めまして、お久しぶりですシリア」
「改めまして、お帰りなさい。ハル」
「あぁ、ただいまシリア」
「全く、久しぶりすぎるんだよあなたは!」
辛い時間はもう終わった。
二人の物語は幕を閉じた。
これからは、ずっと幸せな時間が続くのだろう。
思い出が、思いが消えない限り。
「さてと、まずは何から話そうか」
「思いついたこと全部でいいでしょ。私、ハルとならずっと話していられるよ!」
「そっか。それじゃぁまずは、シリアの____」
「え?! ちょっと待って、え?! それだけはやめて、恥ずかしいから! というか数少ない覚えてることにそれが含まれてるの?!」
「さてね。今君が考えていることかどうかは」
「その顔は絶対面白がっている顔だ。よーし、だったらこっちは____」
『追伸』
最後にもう一つだけ、____に伝えておかなければならないことがあったのでここに追伸として記入しておきます。
選択を間違えないでくれてありがとう。
もう一度出会えるチャンスを与えてくれて、本当にありがとう。
幸せな時間をくれるチャンスをありがとう、過去の____。
やっとここまで辿り着けたよ。
《後編、完____If story へ続く》
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